6 / 102
5. 二葉亭に向かうアーシャ
しおりを挟む少し時間が戻ります。
(アーシャ視点)
私は門の前の列に並んだ時に、おじさんが安くて美味しいと勧めてくれた食堂「二葉亭」を目指して歩いている。おじさんからは門から歩いてすぐと聞いていたのだが、曲がる道を間違えたのか行けども行けども食堂らしき建物は見つからない。
二葉亭を探がすのにキョロキョロとあちこちに目をやって前方不注意になっていた私は何度か人にぶつかってしまい、その度に「ごめんなさい。」と謝っていたのだが、懲りもせず四辻でひとりの男の子とぶつかり、相手の男の子は、
「うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!!!!」
と悲鳴を上げて道に座り込んでしまった。前をよく見ていなかった私が悪い。私は謝ろうとして相手を見た。茶髪で髪と同じく茶色の目をした、ちょっと気弱そうな印象の男の子だ。だけどその男の子は私の顔を見るなり、「ヒッ」と叫んで、全速力で元来た方向に逃げる様に駆け出した。
余りのことに驚いたが、次の瞬間ひょっとして私って人を怖がらせる様な怖い顔をしているのだろうかと心配になった。なにせ、この町に来るまで母さま以外の人間とは会ったことが無いのだ。怖い顔の基準が人と違う可能性がある。
「御免なさいね。あいつはちょっと変わったところがあるけど悪い奴じゃないの。許してやってちょうだい。」
と女の子が話しかけて来た。あの男の子は変わり者なのか!? それなら逃げ出したのは私が怖い顔をしているからではないのかも....少なくともこの女の子は私を怖がっている様にはみえないし....。そう考えるとパニックになりかけの心に少し余裕が出来た。
余裕が出来たところで気を取り直してその女の子に二葉亭の場所を訪ねると、なんと彼女の家の隣らしい。
「これから家に帰るところだから案内するわ。一緒にいきましょう。」
と言う。天の助けと喜んで彼女について行くことにした。
「あなたは旅人なの? ひょっとして遊牧民かな?」
「ええ、良く分かりましたね。この町の神殿にお参りに来たんです。」
「やっぱりそうか、神様にお供えする衣装と同じだものね。遊牧民の間でもこの国の神様が信仰されているとは知らなかったわ。ようこそカルロの町へ。あなたに神のご加護がありますように。」
女の子が嬉しそうに言った。
「ところで名前を聞いてもいいかしら? 私はカンナよ。」
「アーシャと言います。」
「アーシャちゃんね。アーシャちゃんは二葉亭のことを誰に聞いたのかな?」
ち、ちゃん!? これは絶対年下に見られている。背丈は...確かに私の方が少し低いけど...。
「町に入るときに一緒に列に並んでいたおじさんです。安くて美味しい店と聞きました。カンナさんの家のお隣なのですよね。良く行かれるのですか?」
「ちょくちょく行くのは確かね。実は二葉亭には友達が居るので小さい時から良く遊びに行っていたの。シロムって名前よ。さっきアーシャちゃんの前から逃げ出した男の子なんだけど、私に免じて許してやってね。それにしてもこんな可愛いアーシャちゃんを見て逃げ出すなんて何を考えているのやら.....えっ、ひょっとして!」
と言うなりカンナは顔を近づけて来る。思わず一歩下がりそうになるのをぐっと堪えた。どうやら私の服に施された刺繍を見ている様だ。
「間違いない.....このデザインはカルロ様一族のもの.....。アーシャちゃんはカルロ様と縁があるの?」
何のことだろう? カルロって誰だったっけ、何処かで聞いた様な気もするが思い出せない。ここは誤魔化すのが一番か...。
「良く分からないです。この服は母が作ってくれたもので....。」
「そうなの.....ええ、間違いないわ。神を称える祭りで私も着たことがあるの。この国の祖となられたカルロ様一族のデザインよ。遊牧民は一族ごとに刺繍のデザインが違うのでしょう? だからアーシャちゃんはカルロ様の子孫に違いないわ。カルロ様の3番目のお子様ジータ様が1箇所に定住するのを嫌って、家畜を連れてカルロ様の元を去られたと伝説にあるの。きっとアーシャちゃんはジータ様の子孫なのよ。そのアーシャちゃんが私達と同じ神を信仰しているなんて、ジータ様は遊牧民として定住を拒まれたけれど神への信仰まで捨てられたわけでは無いとの何よりの証拠だわ。これはすごい発見よ! 町中が大騒ぎになるわよ!」
とカンナは興奮して一気に捲し立てる。町中が大騒ぎになる? それは不味いよ.....注目されたら動き難いし、正体がバレる可能性も高くなる。何か言い訳を考えないと...
「カンナさん、申し訳ないのですが私のことは秘密にしていただけないでしょうか。今回は神殿への初めての参拝です。心静かに神と対面したいのです。騒がれるのは困ります。」
と真剣な顔を取り繕って言ってみる。嘘ついてごめんなさい.....本当は神様(父さま)とは毎日話してます。だが言ってみるもので、カンナは私の言い分に納得してくれた。
「まあ、私ったらアーシャちゃんの気持ちも考えずに御免なさい。そうよね、騒がれるのは嫌だよね...。分かったわ誰にも言わない。約束する。」
素直なカンナに良心が痛む。許してね...。
「あっ、でも今になって考えたら、シロムが逃げ出したのはアーシャちゃんの服に気付いたからじゃないかしら。逃げ出したと思ったけれど、本当は慌てて誰かに知らせに行ったのかも。私シロムを探して口止めして来る。急がないと誰かに話したら大変だよね。」
と言って、二葉亭が見える所まで私を案内してくれた後、急いでシロムさんを探しに行った。ありゃー、なんて良い子なのだろう。これは何かお礼をしないとな.....。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
安全第一異世界生活
朋
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん)
新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる