神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

文字の大きさ
8 / 102

7. アーシャ職を得る

しおりを挟む
少し時間が戻ります。

(アーシャ視点)

 美味しかった....。

 二葉亭は想像していたより大きなお店で、ここで出される料理はオーナー一族の郷土料理だそうだ。チーカ料理と呼ばれているらしい。ハポーサイと言う名の野菜と肉の炒め物と、小麦粉を水で練って細長くしたものを濃厚スープに入れたラメーンの2種類しか食べていないけれど、ハポーサイは旨味たっぷりの粘り気のあるソースが野菜や肉に絡まって独特の味わいだし、ラメーンはスープは少し味が濃すぎるが、弾力のある麺と一緒にすすると独特の食感と適度に絡んだスープが何とも言えない味わいだ。この店には他にも沢山の種類の料理があるらしいから夕食時にまた来ようと思う。

「ご馳走様でした。お勘定をお願いします。」

「ありがとうございます。ハポーサイとラメーンで銀貨1枚と銅貨50枚になります。」

 私はお金の入った革袋を取り出そうとポケットに手を入れる。あれ? 確かここに入れたのだけど....。別のポケットだったかな? ポケットというポケットに手を入れながら、だんだんと顔が青ざめて来るのを感じる。服のポケットにはない。念のために傍に置いていたリュックの中も見てみるがやはり入っていない。

「どうかしましたか?」

と給仕の女性が尋ねて来る。こうなったら正直に言うしかないよなぁ.............。

「ごめんなさい。お金を無くしてしまったみたいです。」

「あら、それは大変。家は近く...ではなさそうね。たぶん巡礼者よね。」

「そうです。神殿に礼拝しに来ました。今日の昼過ぎに到着したばかりです。」

「ようこそカルロの町へと言いたいところだけど、困ったわね。本当なら兵士に連絡するところだけど、高級そうな服を着ているから最初から無銭飲食をしようとしたわけでもなさそうだし....。」

「あの、食事代の代わりにこの服ではダメですか?」

と私はリュックから着替えの服を取り出して広げて見せる。今着ているのと同じ遊牧民の服だ。何日か滞在するつもりだったから着替えを持って来たのだがしかたない。それに、山に戻れば服は沢山ある。

「そうねえ....、ちょっと待ってくれるかな?」

と言って給仕の女性は厨房に入って行く。しばらくすると、中年の男性と一緒に戻って来きた。

「あなた、この店で皿洗いの手伝いをするつもりはない、夕方の忙しい時に手伝ってくれたら食事代はタダで良いわよ。」

「この服ではダメですか? 」

「その服は食事の代金としては高級過ぎるわ、それだと貰い過ぎになっちゃうからね。無理にとは言わないけど。」

「でも、皿洗いってしたことがなくて...。」

「ああ、それなら大丈夫。ひとりでしてもらうわけじゃないからね。私の娘と義母が一緒にするから、やり方は聞いてくれたら良いわよ。」

 たぶん私の服だと食事代と釣り合わないから、親切で言ってくれているんだろうな。皿洗いがどんな仕事なのか知らないけれど....。

「分かりました、皿洗いをさせていただきます。よろしくお願いします。」

と頭を下げる。でも傍にいた男性が口を開いた。

「それなら、忙しくなる前に役人に届けておいた方がよいな。いまから連れて行ってやったらどうだ。」

「え? でも皿洗いをしたら食事代を払わなくてもいいって....?」

と私が不安げに言うと、女性の方が私の不安を打ち消すような笑顔で続けた。

「あら御免なさい。あんな言い方をされたら不安になるよね。届けるのは食事代の事じゃないの。あなた、お金を無くしたって言ったでしょう。たぶんスリにやられたんじゃないかと思うのよ、最近被害が増えていてね。だから届けるっていうのはスリの被害届よ。門の横にある役人の駐在所に行くだけだから、ここから直ぐよ。私が一緒に行ってあげる。」

 と言うわけで、私は給仕の女の人と一緒に門の横にあると言う役人の駐在所に向かっている。この女の人はサマンサと言う名前で二葉亭の奥さんらしい。先ほどの男性がご主人で名前はロン。ロンさんが料理を作り、サマンサさんは給仕担当だとか。

「それでアーシャちゃんは遊牧民なのね。」

「ええ、そうなんです。でもちょっと理由があって、私ひとりでこの町に巡礼に来ました。」

「女の一人旅は危ないわよ。若い娘ならなおさらよ。私がアーシャちゃんのお母さんなら止める所だけどね。」

「母は亡くなりましたから。」

「まあ、私ったら。御免なさいね。余計なことを言ってしまったわね。」

「いえ、大丈夫です。」

 幸いなことに、私が一人旅をしなければならないだけの事情があるのだと勝手に思い込んでくれた様で、それ以降細かなことを聞かれることは無かった。遊牧民の暮らしぶりについて尋ねられたら困るところだったから助かった。

 しばらく歩くと門が見えて来る。私は道に迷ったから二葉亭に着くまで時間が掛かったが、おじさんの言っていた通り二葉亭から門までは近い。サマンサさんは門に到着するとすぐ横にある小さな建物に入って行く。

「二葉亭の奥さんじゃないですか。どうかされましたか?」

と役人らしき若い男性がサマンサさんに声を掛けた。見覚えがある。私に滞在許可証を発行してくれた人だ。

「今日はジークさん、この子がお金を取られた様なの。被害届を出そうと思って。」

「おや、君は確かさっき町に入った子だな。お金を取られたって? この町の治安を預かる者のひとりとして謝罪するよ。それで詳しい状況を教えてくれるかな。」

「でも取られたとは限りません。落としたのかもしれません。気が付いたら無かったというだけで。」

「それで、お金はどこに入れていたのかな?」

「赤い革袋に入れて、このポケットに入れてました。」

「確か赤地に花柄の模様の袋だったね。金額は分かるかい?」

「そうです。中には金貨9枚と銀貨99枚、銅貨50枚が入ってました。」

「すると、滞在許可書に使った銅貨50枚を含めると、金貨10枚を持参していたわけか。 なかなかの大金だね。」

「長旅なので、旅費も嵩みますから。」

「了解だ。それで君の滞在先はどこの宿だい?」

「宿は決まっていません、お金がないので泊まれないかと....。」

やっぱり一旦家に帰るしかないだろう。飛んで行けばそれほど時間は掛からない。

「そうか...、それは困ったね。御免ね、さすがに税金で旅人に援助する制度はなくてね。仕事の斡旋ならさせてもらうけど。」

その時サマンサさんが口を挟んだ。

「ジークさん、この子に滞在許可書を発行したときには、その赤い革袋に入ったお金を持っていたんですね。」

「そうさ、その袋から金貨を出されて驚いたので良く覚えているよ。」

「ねえアーシャちゃん。良ければうちの食堂で働く気はない。賃金は...そうね1日に銀貨5枚くらいしか出せないけど、住み込みで3食付けるから条件としては悪くないわよ。アーシャちゃんの帰りの路銀が溜まるまでどうかしら?」

「おお、それは良い。君、そうしなさい。二葉亭さんなら間違いないさ。」

ジークさんもお勧めの様だ。どうしょう? 断って一旦家に帰って出直すのもひとつの方法だけど二葉亭には行き辛くなる。あの料理が2度と食べられなくなるのは辛い。

「サマンサさん、よろしくお願いします。」

と私は頭を下げた、どうせ暇だしね。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界最底辺職だった俺、実は全スキルに適性Sだった件~追放されたので田舎でスローライフしてたら、気づいたら英雄扱いされてた~

えりぽん
ファンタジー
最底辺職「雑用士」として勇者パーティーを支えていたレオンは、ある日突然「無能」と罵られ追放される。 だがその瞬間、封印されていた全スキルの適性が覚醒。 田舎でのんびり生きるつもりが、いつの間にか魔物を絶滅させ、王女を救い、国を動かす存在に――? 本人まったく自覚なし。にもかかわらず、世界が勝手に彼を「伝説」と呼びはじめる。 ざまぁ有り、ハーレム有り、そして無自覚最強。 誰にも止められない勘違い英雄譚が、いま動き出す。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

完結·異世界転生したらアザラシ? でした〜白いモフモフでイケメン騎士たちに拾われましたが、前世の知識で医療チートしています〜

恋愛
ネットでアザラシを見ることが癒しだった主人公。 だが、気が付くと知らない場所で、自分がアザラシになっていた。 自分が誰か分からず、記憶が曖昧な中、個性的なイケメン騎士たちに拾われる。 しかし、騎士たちは冬の女神の愛おし子を探している最中で…… ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています ※完結まで毎日投稿します

『悪役令嬢』は始めません!

月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。 突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。 と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。 アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。 ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。 そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。 アデリシアはレンの提案に飛び付いた。 そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。 そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが―― ※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...