神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

文字の大きさ
30 / 102

29. アルムさんが付いて来た

しおりを挟む
トン、トン

 扉がノックされて目が覚めた。窓からは明るい朝の光が差し込んでいる。「はい」と返事を返すと。

「シロム様、朝食の用意が出来ました。」

と扉の向こうから声が掛った。飛び起きて慌てて身支度をする。

「すみません。少し待ってください。」

「大丈夫です。ごゆっくりご準備してください。」

 そう言われても人を待たせていると思うとゆっくりなんてしていられない。慌てて服を着替える。短剣は....いらないな。髪の毛は....寝ぐせが付いてるかもだけど良い事にしよう。

 最速で身支度をして扉を開けると、声から予想したとおりアルムさんがそこに立っていた。

「シロム様、お早うございます。お眠りのところを起こしてしまった様で申し訳ありません。」

「と、とんでもないです。僕の方こそお待たせして済みませんでした。」

 そう返すと、アルムさんがクスッと笑う。

「シロム様はあれほどのお力をお持ちなのに、少しも威張られないのですね。」

「と、当然です。あれは神が与えて下さったもので僕の力ではありません。僕は只の食堂の息子ですから。」

「まあ、ご両親は食堂を経営されておられるのですか?」

「祖父の代からです。近所では安くて美味しいと結構評判なんですよ。」

「素敵です。私も食べてみたいです。」

「是非どうぞと言いたいですが.....ここからは少し遠いですね。」

「カルロ教国から来られたのですよね。私も巡礼者になったら入れてもらえるのかしら。」

「もちろんです。聖なる山の神への巡礼者はいつでも歓迎されています。」

「いつか是非。聖なる山の神様にもお礼を言わなければなりませんもの。シロム様をここに遣わせて下さったのですから。」

「僕の家は二葉亭と言います。その時は是非お寄り下さい、歓迎させていただきます。」

「ありがとうございます。いつかきっと.....」

 アルムさんは夢見る様な表情でそう言ったが、すぐに真顔になった。

「まあ、私ったら。食事が冷めてしまいますわね。どうぞこちらです。」

 そう言って先に立って歩き始めた。後を付いて行くと昨日の夕食とは別の部屋に通された。部屋にはシンシアさん、マリアさん、そしてマークが待っていた。アルムさんは一礼して部屋から出て行く。

「お早うございます。遅くなって申し訳ありません。」

「とんでもありません。さあどうぞお座りください。」

 シンシアさんが優しく言ってくれる。恐る恐る隣のマリアさんの方を見ると、相変わらず鋭い目つきだが、

「シロム....様。お早うございます。」

と返してくれた。少なくとも拒絶はされていない様だ。席に着くと隣に座っているマークが耳元で囁いて来た。

「昨日と態度が違うな、何かあったのか?」

「ちょっとね。」

 ナイフを突きつけられたとは言えないよな。言ったら怒るに決まっている。とりあえずこの場は誤魔化すしかない。

「それではいただきましょうか。」

 とシンシアさんが口にし食事が始まる。スープが少し冷えている。かなり待たせてしまったのかもしれない。

「マーク様とシロム様は神の御子を探しておられるのですね。」

 とマリアさんが話しかけて来た。マークが片眉を上げる、昨日だったらマークと僕の名前を並列にしなかったはずだ。

「そうです。何か思い出しましたか?」

「お役に立つかどうか分かりませんが、祭壇の近くで縛られていた時ガイラス皇子が部下と話しているのが聞こえたのです。部隊に紛れ込んでいる妹皇女の間者を探し出す様に命じておりました。どうやら兄妹でだれが最初に聖なる山の神を味方に付けるか競争しているらしくて、妹が御子に的に絞った様だと口にしておりました。ガイラス皇子が聖なる山の神にいくら捧げものをしても効果が無いことを知った上での対応らしくて、自分の部隊に妹の間者がいて情報を流していると確信していました。」

「マーク、それって.....」

「ああ、間違いないな。カルロ教国に近い方の祭壇だろう。あそこでガイラスの妹というのが御子様を狙って何かしていたわけだ。」

「マリアさん、貴重な手掛りだ。ありがとう。」

「でもあの祭壇はずいぶん前に撤収されていたはずだよ。」

「そうなんだが.....。シロム、念のためにもう一度行ってみないか? どうせ他に手掛かりは無い。」

 同感だ。あそこにあった祭壇が撤収されたのは轍の跡が消えるくらい前だと思うけど、妹皇女が御子様を狙っていたとなると気になって仕方がない。僕も同意し、この村を出発後は一旦あの祭壇があった場所に戻ることになった。

 食事が終わり僕達は出発の準備をし、玄関でシンシアさん、マリアさんにお別れの挨拶をしていた。ジーラさん達この家の人達も総出で見送ってくれる。

「皆さんお世話になりました。お元気で!」

マークが皆に向かって挨拶をする。僕もその横で頭を下げた。

 アルムさんが僕の手を握り、

「シロム様、私いつかカルロ教国に巡礼に参ります。きっとです。」
 
と言って来る。

「は、はい、お待ちしています。」

そう返事すると、アルムさんは恥ずかしそうに顔を両手で押さえ、家の中に駆け込んで行った。

「おい、あの返事は不味いぞ」

マークが耳元で囁く。え? 僕は何か失礼なことを言っただろうか?

 その時、外から男性が駆け込んできた。名前は聞かなかったが、昨日の夕食の時に一緒に居た人だ。

「大変だ! 隣の村に反乱軍の残党狩りの部隊がやって来たらしい。次はこの村に来るぞ!」

 それを聞いて全員に緊張が走る。

「シンシア様、マリア様。一旦森にお隠れ下さい。こちらは何とでも誤魔化します。」

 ジーラさんがそう提案する。シンシアさんやマリアさんが見つかれば匿っていたこの家の人達も処罰されるだろう。幸い知らせが早かったから隠れる時間はある。

「分かりました。マリア急ぎましょう。」

「シンシアさん、マリアさん、僕達と一緒に来ませんか。僕達がこれから向かうのはカルロ教国のすぐ傍です。そこからならカルロの町まで徒歩でも数日で到着します。カルロの町に移民すればガニマール帝国から完全に逃れることが出来ますよ。」

 僕の提案を聞いて、シンシアさんとマリアさんが目を見合わせる。

「シロムさん、分かりましたお願いします。マリアもそれで良いわね。」

シンシアさんがそう発言し、マリアさんも頷いた。

「ジーラ、今まで本当にありがとう。この家の人達には感謝しかありません。何もお返しできないのが辛いけど、ここでお別れします。お元気で.....。」

「姫様....。分かりました、ここでガニマール軍に怯えて暮らすよりカルロ教国に行かれる方が良いかもしれません。でも何かありましたらいつでもお戻りください。ここは姫様達の家だと言う事をお忘れなく。」

「ありがとう、ジーラ」

 涙を流しながらシンシアさんとジーラさんが抱き合う。マリアさんは周りをキョロキョロと見回している。乳姉妹のアルムさんを探しているのかな? でもアルムさんはさっき僕と話をしてから家の中に駆け込んだまま出て来ていない。

 とにかく時間が無い。僕とマーク、シンシアさんとマリアさんの4人はジーラさん達に分かれを告げて森に向かった。ドラゴニウスさんは森で僕達を待ってくれているはずだ。

 急ぎ足で村をでて森へ急ぐ。森に近づくとドラゴニウスさんから念話が送られてきた。

<< もう良いのか? もっとゆっくりしても良いのだぞ。>>

<< お早うございます、ドラゴニウスさん。いいえ、アーシャ様を見つけるまでゆっくりなんてしておれません。>>

<< ふふっ、中々良い心がけだ。それにしても人が増えたな、それも女ばかり3人か。そいつらも連れて行くつもりなのか? >>

<< この人達はカルロ教国に行きます。お願いです。途中まで乗せてあげて頂けないでしょうか? >>

 そう言ってからようやく気付く。んっ? 3人??? 思わず後を振り返って気付いた。僕達の後から誰かが駆けて来る。

「シロム様~~~」

 微かに声が聞こえる。

「アルム!? どうして?」

 マリアさんが声を上げる。

 僕達は立ち止まり、アルムさんがやって来るのを待った。既に森の入り口まで来ている、ここまで来れば大丈夫だろう。アルムさんは僕達のところまで駆けて来たものの、息が切れてまともに話すことが出来ない。全力で走って来た様だ。

「シロム.........様........ハァハァッ.........私.........................」

「アルム、どうしたの? ジーラ達に何かあった?」

 溜まりかねたマリアさんが強い口調でアルムさんに問いかける。僕も同じことを考えた。だけどアルムさんは、マリアさんに向かって必死に首を振る。どうやらジーラさん達は無事らしい。

「シロム様........ ハァハァッ.........お願いです.........私も連れて行ってください........ハァハァッ....... どうか..........私をシロム様の従者にして下さい.........シロム様のためならどんなことでも致します。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...