神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

文字の大きさ
39 / 102

38. アーシャ、鉱山の町へ

しおりを挟む
(アーシャ視点)

「それで私についてはどんなことが分かったのかな?」

「それほど沢山の情報はないわ。馬車に曳かれた子供を人々に見られるのも厭わず助けたことから子供好きだということ。だから私が生贄の振りをして祭壇に居れば助けに来るのじゃないかと考えたわけよ。

 それ以外には、スカートを穿いていたことと身長が低いことから少女の姿の可能性が高いこと。空を飛び身体を透明化できること。何か月も町に滞在していることから、遊牧民の料理以外も口にするのではないかという推測。短時間に町の城壁を創造したことから神に近い神力を有していること。御子様が城壁を創造すると神殿から前もって宣言があったことから、神官達、少なくとも一部の神官は御子様と連絡が取れることくらいよ。」

 身長が低くて悪かったな.....と思ったが、結構的確な情報を摑まれている。恐らくジャニスの兄妹達もこの程度のことは分かっているのだろう。これ以上二葉亭に滞在すると迷惑をかけることになるかもしれない。

「了解よ。優秀な間者さんね。」

「お褒めに預かり光栄に存じますわ。」

 この子はさっきまで泣いていたのに早くも立ち直った様だ。

「それで、2番目のお兄さんは何をしているの。」

「直情型のガイラス兄さんと違って、アキュリス兄さんは秘密主義だからね。何かやっているとは思うのだけど情報はないわ。一番の強敵よ。もっとも私は競争から脱落したから、もう敵ですらないわね。」

「そんなにしょげないの。せっかくの人生をつまらない競争に費やすなんて無駄だと思うけどな。」

「すべてを持っている御子様には分からないわよ。」

「すべて?」

「国の事よ。カルロ教国は理想の国だわ。教育、経済、治安、医療、文化のすべてが一級品。軍事力だけはお粗末だけど、これも神が守ってくれていると考えれば防衛面での問題はなし。国民の満足度や国に対する信頼度も最高レベルだわ。私が作りたかった理想の国が既に存在していたなんてね。間者からの報告は驚きの連続だったわ。

 本当のことを言うとね、私自身は間者からの報告を聞くまでそれほど皇帝の地位に魅力を感じてなかったの。側近や後ろ盾になってくれている貴族達の手前、やる気のある振りだけはしていたけどね。だって仮に私が皇帝になったとしても色々なしがらみで理想の国何て作れそうになかったから。

 だから私にやる気を出させたのはカルロ教国とあなたの存在よ。皇帝になってガニマール帝国をカルロ教国の様な理想の国に変えたかった。そしてそれは貴方の協力が得られれば夢ではないと考えたわけよ。」

「そうなのね....」

「それで私への罰は何なのかしら?」

 そう言われると困ってしまう。もともとちょっと脅かしてから解放してあげようと思っていたのだ。なにせまだ10歳なのだから。でもまったく反省してないよね。困ったな.....。もう面倒だからアニルさんのところに送り返そうかな。

 そんなことを考えながら再びジャニスを連れて聖なる山に向かって飛び立つ。今度は少しゆっくりと飛んであげた。

 だけど、しばらくして微かな神気を感じた。遥か遠くからだが聖なる山の方向ではない。あれほど遠くからの神気を感じるとは、よほど強力な発生源があるはずだ。あんな方向にそんなところがあるなんてとうさまから聞いたことが無い。とうさまも知らないとしたら放って置くわけにいかない。ここからなら今日中には着ける、行ってみる価値はあるだろう。

「ジャニス、ちょっと寄り道するところが出来たの。飛ばすけど我慢してね。」

「ち、ちょっと.....」

ジャニスが何か言おうとするのを無視してスピードを上げる。

「キャッ、キャーーーーーッ」

ジャニスが盛んに叫ぶ。ちょっと五月蠅い。

「怖いなら眠らせてあげようか?」

「いやよ、それって現実逃避じゃない。私は大嫌いなの。耐えて見せるわよ。」

「そ、そう....。」

 ジャニス、顔面蒼白なのに意外に頑固だ。だけどしばらくして大人しくなったなと思ったら気を失っていた。ふむ、流石は皇女。最後まで弱音を吐かなかった。

 目的地に近づく頃には夜になっていた。千里眼で探ると何か巨大な生き物が飛んでいる....。ドラ吉??? どうしてここに?

<< ドラ吉~~~~~~。あれ? シロムさんも? >>

<< アーシャ様! 助けて下さい! マークが、マークが死んでしまいます。>>

 私の念話が届くや否や、シロムさんが必死に訴えて来る。

<< 何ですって! >>

 シロムさんに抱かかえられたマークさんを神力で探ると....毒? しかも危篤状態だ。あわてて治療する。

<< ドラ吉、シロムさん、一体何があったの? >>

 と尋ねるが、ドラ吉は詳細を知らないし。シロムさんの説明は今一分からない。マークさんの補足で何とか理解した。龍脈が鉱山の坑道に貫かれて神気が漏れ出しているわけだ。それで鉱山にいた虫が巨大化したらしい。龍脈に神気を流しているのはとうさまだから、この事態は私達にも責任がある。これは私が何とかしないと。帰ったらとうさまにも文句を言おう。20年間も神気が漏れ出しているのに気付かないなんて迂闊だよ。

 とりあえず鉱山からあふれ出した虫は炎の竜巻に引き込んで退治したが、再発防止の方が大変だった。鉱山に潜って龍脈を下に移動させる。龍脈は毛細血管の様に入り組んでいるし、坑道も迷路の様だ。結局朝までかかってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処理中です...