41 / 102
40. カルロの町への帰還
しおりを挟む
(シロム視点)
鉱山の町を出発してから数日経って、僕達は懐かしのカルロ教国に到着した。例によって身体を透明化したドラゴニウスさんに町から少し離れたところに着陸してもらい、そこから歩いて町に向かった。ジャニス皇女だけがドラゴニウスさんと一緒に再度飛び立つ。
アーシャ様がお作りになった城壁はまだ使われていないが、門の取り付けはほぼ完了していた。町の城壁がこちらに移る日も近そうだ。しばらく歩くと現在のクリーム色の城壁が見えて来た。
「今日はジークさん、このふたりの滞在許可証をお願いします。」
門の前の机で仕事をしているジークさんにアルムさんとチーアルの滞在許可証をお願いする。僕は顔馴染みなのでそのまま中に入れるし、マークも身分証を見せれば問題ないが、アルムさんとチーアルはそうはいかない。
「おう、シロムじゃないか。いつの間に子供が出来たんだ?」
ジークさんが僕に抱かかえられているチーアルを見て笑えない冗談を言う。
「つ、つい最近です。」
「それは目出たいな。それじゃお嬢ちゃん、お名前を教えてくれるかな?」
「チーアルよ。シロムパパが付けてくれたの。」
「いいお名前だね。それで、そちらのお嬢さんのお名前は?」
「ア、アルムです。あ、あの....私こちらに移民したいのですが。」
「アルムさんだね。申し訳ないが移民の受付開始は後一月くらい先なんだ。滞在許可証を発行するからそれまで待ってもらえるかな。」
「わ、分かりました。」
やはりアルムさんは故郷に帰るつもりはないらしい。
町に入ると僕とマークはローブを着込みフードを被る。マークと話し合って、知り合いに見られる前に神官長に報告した方が良いだろうと言う事になっている。特に僕の家族に神官長からどの様に説明されているのかを確かめて話を合わせる必要がある。せっかく家のすぐ近くまで来たのに立ち寄らないのは後ろ髪を引かれる思いだが仕方がない。
町に入ってからはまっすぐに神殿に向かい、神官長様の執務室がある神殿の最奥の建物を目指す。建物の入り口を護衛している兵士さんに出発前に神官長様から頂いた入館許可証を見せると訝りながら通してくれた。この建物は国の各機関の責任者が会議をする場所で警備のために一般人の入館は許可されていない。そんな重要なところに成人達したかどうかという年齢の僕達が、しかもチーアルという幼児をつれて入るのだから不審に思っても不思議ではない。通してくれたのは僕達が危険人物には見えなかったからというのもあるだろう。ただし僕達が腰に吊るしている短剣は置いて行く様に命じられたが、もうこれで身を守る必要も無いだろうから全く問題ない。
建物の中にはいって、前回キルクール先生に連れて来てもらった時のことを思い出しながら迷路の様な通路を進み、漸く神官長様の部屋の前に到着した。
マークが受付の女性に僕達の名前を告げ、神官長様に会いたい旨を伝える。前回の経験からアポイントメントが無いとダメかなと思ったが、受付の女性は、
「マーク様と、シロム様ですね。来られたら直ぐにお通しするように承っております。こちらにどうぞ。」
と言ってすぐに中に通してくれた。護衛の兵士さんのいる前室を恐々通り、受付嬢が奥にある扉をノックする。
「神官長様、マーク様とシロム様が来られました。」
受付嬢がそう口にすると直ぐに返事があり、僕達は神官長様の執務室に通された。
「シロム殿、良く戻られた。まあ座って下され。マークもご苦労だったな。」
神官長様はそう言って僕達をソファに座らせて、受付嬢が部屋から出ていくのを確認してから口を開いた。
「シロム殿、失礼ながらそちらの者達は?」
とアルムさんとチーアルの事を訪ねて来る。たぶんこのふたりの前でどこまでの事を話して良いか迷っているのだろう。
「爺様、このふたりなら大丈夫だ。ここで聞いたことは口外しないと誓ってくれている。まずこっちがアルムさんで、シロムに惚れて付いて来た。この町に移民希望だ。それからそっちがチーアル。信じられないかもしれないけど精霊だ。シロムと契約したらしい。」
精霊と聞いて神官長様の目が大きく開かれる。それはそうだろう。精霊なんて話には聞いても実際に見た人には会ったことが無い。
「シロム殿、マークの言う事は本当でございますか?」
「本当よ。」
僕の代わりにチーアルが答え。腕の中から抜け出て宙に浮かぶ。
「私は闇の精霊チーアル。シロムに助けてもらったので恩を返すのに契約したの。悪さはしないから安心しなさい。」
「ま、まあそう言う事です。」
と漸く口を挟んだ。騙されて契約させられた身としてはピンとこないが、考えてみれば精霊と契約するなんてとんでも無いことだ。それにこの幼女姿は問題だ。アルムさんならどこかで働いて自立することも可能だろうけど、幼女がひとりで住むわけにもいかない。僕の家に連れて帰るにしろ何か言い訳を考えないと....。
「シロム殿、アーシャ様が無事帰還されたことは存じております。数日前に儂の前に姿を現して下さったのです。『シロムさんにはお世話になった』と仰っておられました。」
お世話になったのはこちらの方だ、アーシャ様が来られなかったらマークは助からなかった。
「それで、旅の詳細をお聞きできますかな?」
例によって分かりやすく話すのが苦手な僕に変わってマークが報告してくれる。話を聞き終わった神官長様は深くため息をついた。
「なかなか大変な旅でございましたな。まるでカルロ様の神話を聞いている気がいたしましたわい。それではシロム殿参りましょうかの。」
「ど、どこへですか?」
「もちろん供物の間にです。何を置いてもまずは神へのご報告が先かと。」
確かに。旅に出たのは神様に命じられてだ、ならば帰還したのであれはその旨報告をすべきかもしれない。もっともアーシャ様から既にお聞きだろうけど。
鉱山の町を出発してから数日経って、僕達は懐かしのカルロ教国に到着した。例によって身体を透明化したドラゴニウスさんに町から少し離れたところに着陸してもらい、そこから歩いて町に向かった。ジャニス皇女だけがドラゴニウスさんと一緒に再度飛び立つ。
アーシャ様がお作りになった城壁はまだ使われていないが、門の取り付けはほぼ完了していた。町の城壁がこちらに移る日も近そうだ。しばらく歩くと現在のクリーム色の城壁が見えて来た。
「今日はジークさん、このふたりの滞在許可証をお願いします。」
門の前の机で仕事をしているジークさんにアルムさんとチーアルの滞在許可証をお願いする。僕は顔馴染みなのでそのまま中に入れるし、マークも身分証を見せれば問題ないが、アルムさんとチーアルはそうはいかない。
「おう、シロムじゃないか。いつの間に子供が出来たんだ?」
ジークさんが僕に抱かかえられているチーアルを見て笑えない冗談を言う。
「つ、つい最近です。」
「それは目出たいな。それじゃお嬢ちゃん、お名前を教えてくれるかな?」
「チーアルよ。シロムパパが付けてくれたの。」
「いいお名前だね。それで、そちらのお嬢さんのお名前は?」
「ア、アルムです。あ、あの....私こちらに移民したいのですが。」
「アルムさんだね。申し訳ないが移民の受付開始は後一月くらい先なんだ。滞在許可証を発行するからそれまで待ってもらえるかな。」
「わ、分かりました。」
やはりアルムさんは故郷に帰るつもりはないらしい。
町に入ると僕とマークはローブを着込みフードを被る。マークと話し合って、知り合いに見られる前に神官長に報告した方が良いだろうと言う事になっている。特に僕の家族に神官長からどの様に説明されているのかを確かめて話を合わせる必要がある。せっかく家のすぐ近くまで来たのに立ち寄らないのは後ろ髪を引かれる思いだが仕方がない。
町に入ってからはまっすぐに神殿に向かい、神官長様の執務室がある神殿の最奥の建物を目指す。建物の入り口を護衛している兵士さんに出発前に神官長様から頂いた入館許可証を見せると訝りながら通してくれた。この建物は国の各機関の責任者が会議をする場所で警備のために一般人の入館は許可されていない。そんな重要なところに成人達したかどうかという年齢の僕達が、しかもチーアルという幼児をつれて入るのだから不審に思っても不思議ではない。通してくれたのは僕達が危険人物には見えなかったからというのもあるだろう。ただし僕達が腰に吊るしている短剣は置いて行く様に命じられたが、もうこれで身を守る必要も無いだろうから全く問題ない。
建物の中にはいって、前回キルクール先生に連れて来てもらった時のことを思い出しながら迷路の様な通路を進み、漸く神官長様の部屋の前に到着した。
マークが受付の女性に僕達の名前を告げ、神官長様に会いたい旨を伝える。前回の経験からアポイントメントが無いとダメかなと思ったが、受付の女性は、
「マーク様と、シロム様ですね。来られたら直ぐにお通しするように承っております。こちらにどうぞ。」
と言ってすぐに中に通してくれた。護衛の兵士さんのいる前室を恐々通り、受付嬢が奥にある扉をノックする。
「神官長様、マーク様とシロム様が来られました。」
受付嬢がそう口にすると直ぐに返事があり、僕達は神官長様の執務室に通された。
「シロム殿、良く戻られた。まあ座って下され。マークもご苦労だったな。」
神官長様はそう言って僕達をソファに座らせて、受付嬢が部屋から出ていくのを確認してから口を開いた。
「シロム殿、失礼ながらそちらの者達は?」
とアルムさんとチーアルの事を訪ねて来る。たぶんこのふたりの前でどこまでの事を話して良いか迷っているのだろう。
「爺様、このふたりなら大丈夫だ。ここで聞いたことは口外しないと誓ってくれている。まずこっちがアルムさんで、シロムに惚れて付いて来た。この町に移民希望だ。それからそっちがチーアル。信じられないかもしれないけど精霊だ。シロムと契約したらしい。」
精霊と聞いて神官長様の目が大きく開かれる。それはそうだろう。精霊なんて話には聞いても実際に見た人には会ったことが無い。
「シロム殿、マークの言う事は本当でございますか?」
「本当よ。」
僕の代わりにチーアルが答え。腕の中から抜け出て宙に浮かぶ。
「私は闇の精霊チーアル。シロムに助けてもらったので恩を返すのに契約したの。悪さはしないから安心しなさい。」
「ま、まあそう言う事です。」
と漸く口を挟んだ。騙されて契約させられた身としてはピンとこないが、考えてみれば精霊と契約するなんてとんでも無いことだ。それにこの幼女姿は問題だ。アルムさんならどこかで働いて自立することも可能だろうけど、幼女がひとりで住むわけにもいかない。僕の家に連れて帰るにしろ何か言い訳を考えないと....。
「シロム殿、アーシャ様が無事帰還されたことは存じております。数日前に儂の前に姿を現して下さったのです。『シロムさんにはお世話になった』と仰っておられました。」
お世話になったのはこちらの方だ、アーシャ様が来られなかったらマークは助からなかった。
「それで、旅の詳細をお聞きできますかな?」
例によって分かりやすく話すのが苦手な僕に変わってマークが報告してくれる。話を聞き終わった神官長様は深くため息をついた。
「なかなか大変な旅でございましたな。まるでカルロ様の神話を聞いている気がいたしましたわい。それではシロム殿参りましょうかの。」
「ど、どこへですか?」
「もちろん供物の間にです。何を置いてもまずは神へのご報告が先かと。」
確かに。旅に出たのは神様に命じられてだ、ならば帰還したのであれはその旨報告をすべきかもしれない。もっともアーシャ様から既にお聞きだろうけど。
0
あなたにおすすめの小説
安全第一異世界生活
朋
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん)
新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる