神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

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52. 巨人現る!

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(シロム視点)

 目を開けると僕の部屋だった。頭上にはいつもの様にチーアルが浮かんでいる。

<< おはよう。>>

チーアルが声を掛けて来る。

<< お、おはよう。なあ、チーアル。あれは夢だよな....。>>

<< あれって、ウィンディーネ様の事? いやだ、夢だと思っていたの? 本当のことよ。シロムはウィンディーネ様を助けたのよ。>>

<< 助けたのはチーアルだろう。僕は何もできなかった。それよりもっと早く来れなかったのか? もう駄目かと思ったよ。>>

 あんな恐怖の経験は二度と御免だ。

<< 時間が掛かったのはシロムが最初に居た場所から動いたからよ。シロムが杖を光らさなければもっと時間が掛かったと思う。シロムにしてはよくやったわ。>>

 僕の所為だった。そう言えばチーアルから動かない様に言われていた。

<< そういえばあの光は何だったんだろう。>>

<< シロムの魂から放出された神力ね。もっとも目印になる以外は何の力も無かったけどね。>>

 まあ、僕の力なんてそんなものだ。

<< それでウィンディーネ様は復活なされたんだよな。>>

<< もちろん。完全復活よ! >>

<< やったー >>

 と叫んでベッドから起き上がる。なんだか身体の節々が痛いが嬉しさでそれすら気にならなかった。よかったと珍しく心が浮き立つ。

 だけどいつもの様に食堂で朝ごはんを食べていると、ドンドンドンと強く店の扉が叩かれた。

「ロンさん! ロンさん! 大変だよ。泉の広場に巨人が現われたんだ! 早く逃げないと!」

 この声はカンナのお母さん、ラーズさんの声だ。父さんが慌てて扉を開ける。

「ラーズさん、巨人って? 」

「私も見たわけじゃないんだけど、神殿から避難命令が出たから近所に知らせて回っているのさ。まあここからは少し離れているけど、避難の準備はした方が良いよ。」

 巨人と聞いて、僕は慌てて店から飛び出した。ラーズおばさんと一緒にカンナもいる。

「おばさん、巨人って女の人?」

「良く分かったね。女の巨人だってさ、すごい美人らしいよ。2階建ての家より大きいらしいわ。」

 女の巨人....まさかアートウィキ様?

「ぼ、僕見て来る。」

 そう言って走り出す。後ろから父さんの

「待て、シロム! 危ないぞ。」

 という声が聞こえるが、心のなかで「ごめん」と謝って走り続ける。

「ちょっと待ちなさいよ、私も行くわ。」

 すぐ後ろでカンナの声がする。付いて来たらしい。

「カンナ、危険かもしれない。戻った方がいい。」

「そんなのシロムも同じじゃない。それにそんなに慌てるなんて、巨人に心当たりがあるんでしょう。」

「ま、まあね....。」

 相変わらずカンナは鋭い。泉の広場は学校の近くにある大きな公園で、中央に清らかな水が湧き出す大きな泉がある。沢山の人がピクニックや緑を楽しむために訪れるだけでなく。泉の水は広場の周りの家々の生活用水としても利用されている。

 僕はカンナといつもの通学路を息を切らしながら駆けた。もし巨人がアートウィキ様だとすれば、人間に対して怒っておられるのかもしれない。それなら急いで聖なる山の神様に知らせないと....。

 泉の広場に近づくと、家々の間から巨人の姿が垣間見えた。

 あれ? 思わず立ち止った僕をカンナが怪訝そうな顔で覗き見る。

<< なあ、チーアル。あれってウィンディーネ様だよな.....。>>

<< そうよ、復活したのだから当然じゃない。>>

<< そうじゃない、なんであんなにでかいんだ? >>

 ウィンディーネ様は精霊王様と変らないくらいの大きさなのだ。

<< でかいって....デリカシーがないわね。元々ウィンディーネ様はあの大きさよ。大精霊様なのだから。>>

<< だって、神域でお見かけしたときは普通の人間と同じ大きさだったじゃないか。>>

<< あの時は契約した状態で皇子の命令に必死に反抗して力が弱っていたからね、それに伴って身体も小さくなっていたのよ。精霊は持っている力と身体の大きさが比例するの。皇子はウィンディーネ様が命令に従わないから、今度は精霊王様を脅して精霊と神のデュエルを仕掛けさせたわけよ。>>

<< そうだったのか....皇子からひどい扱いを受けていたのだろうな。それで、大精霊様って? >>

<< いやだ、そんなことも知らないの。ウィンディーネ様は精霊王様の次に偉いのよ。普通の精霊にとっては雲の上の存在よ。その大精霊様が契約して下さったのよ、感謝しなさい。>>

<< 契約って、誰と? >>

<< 覚えてないの? もちろんシロムとよ。>>

<< えっ? だってあれは仮の契約だって。ウィンディーネ様が目を覚ませば自動的に解除されるって....。>>

<< 正確には、ウィンディーネ様が目を覚まされた時点で契約の継続を望まれなかったらね。>>

<< と言う事は.... >>

<< もちろんウィンディーネ様はシロムに感謝して、是非とも契約を続行したいっておっしゃったの。精霊王様も呆れていたわよ。>>

 詐欺だ! 精霊って皆同じなのか!? 

<< 呆れたわね! シロムは大精霊の力を手に入れたのよ、それも精霊から望まれてよ。その気になれば国の一つや二つ滅ぼすのも簡単よ。適当な国を征服して王様になる事だって出来るわ。そんな人間シロム以外に居ないわよ。喜びこそすれ落ち込んでどうするのよ。>>

 そんな力欲しくないから....。いやそれより重要なことがある。僕は冷や汗を流しながらチーアルに確認した。

<< あのさ、僕と契約したってことは、僕と離れられないんだったっけ。元の場所に帰れないんじゃ..... >>

<< そうよ、この町の中くらいの距離なら大丈夫だけれど、離れ過ぎると力が使えなくなって妖精に分解しちゃうわね。そんなことになったら精霊王様が人間を滅ぼしに来るわよ。>>

 ひぇ~~~~。ということはあの巨体でこの町にずっと滞在するわけだ。

 万事休すだ。どうしよう、どうしよう、どうしよう。ドラゴニウスさんの時は直ぐに飛んでいなくなったから良かったけど、常にあの巨体が町にいるとなると、どうすれば良いか分からない。

「あの~、シロム、巨人がこちらに手を振っているのだけど。」

 カンナに言われてウィンディーネ様の方を見ると、先ほどまで座っていたウィンディーネ様が立ち上がり、にこやかに笑いながら僕に向かって手を振っていた。仕方なく僕も手を振り返す。

 次の瞬間、ウィンディーネ様が僕に抱き付いていた。通常の人間サイズだ。

「シロム様、お目覚めになるのをお待ちしておりました。」

「あ、あの、その....」

 突然のことにパニックになった僕は反応できない。それに気付いたのかウィンディーネ様は僕への抱擁を解いて、優雅に頭を下げた。

「改めてご挨拶させていただきます。水の精霊ウィンディーネでございます。シロム様の契約精霊として、精一杯お役に立たせていただきます。」

 いきなり丁寧に挨拶をされたが、聞きたいことが山ほどあって言葉が出て来ない。

「シロム....まさかとは思うが....その人は先ほどの巨人か?」

 すぐ後ろで言われて飛び上がった。父さんの声! 追いかけて来たんだ。

「父さん、これは、その.....」

 だめだ、何の言い訳も思いつかない。
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