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56. シロム、演台に立つ
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(シロム視点)
僕は神官長と一緒に大講堂の最奥にある大きな演台に神官長と並んで腰かけ、神官様達が集合するのを待っている。アーシャ様とウィンディーネさんも一緒だ。町から外に出掛けている神官様も入らっしゃるので全員が揃うには時間がかかる。なお遠くの村まで出かけていて戻って来られない神官様には、後で神官長様から説明するそうだ。
大講堂に入って来た神官様達は一応にウィンディーネ様の巨大なお姿を見て目を見張る。僕の傍には本来の大きさに戻ったウィンディーネ様が座っているのだ。この天井の高い大講堂でも窮屈そうに見える。
それでも流石は神官様達、驚きはするが、次の瞬間には神官長様に一礼をして静かに席についていかれる。アーシャ様は神気を抑えておられるから正体に気付く人は少ないが、僕も含めて神官長様の傍にいるのは何者かと訝しがっているだろう。少数の例外を除いて。
「すげーな! 今度は何をやったんだ?」
僕の親友マークの言葉だ。今回は神官様達だけでなく、神官候補生も特別に呼ばれている。神官候補生もウィンディーネ様を見ることが出来るから、話を合わせて置く必要があるわけだ。
「分かりにくいですが、巨人の発している気は神気とは違いますね。神様ではない様ですね。」
「でも人ではないのも確かね。ひょっとして精霊様?」
これはカリーナとカーナだ。この2人も入室した途端に目が点になっていた。
「ま、まあ。後で話すから....。」
と言って何とか席に座ってもらう。
「それでは始めようかの。」
しばらくして神官長様がそう口にすると、部屋の中のざわめきが静まる。今日出席予定の神官様が全員集まった様だ。
「神の信頼厚き神官の諸君、よく集まってくれた。今日はカルロ教国の歴史にとって記念すべき日となろう。聖なる山の神様のご加護が更にひとつ加えられた。神の命を受けドラゴンに乗って旅立たれた預言者様がその役目を果たされ帰還されたのだ。今後はこの町に留まり神と人間の仲介役として我々を助けて下さる。」
神官長様がここで言葉を区切った途端、ざわざわという話声が大講堂中に広がった。全員が僕とアーシャ様を注視している。怖い....。トイレに行っとけばよかった。
「預言者様?」
「まさか、あの子達が?」
「まだ子供じゃないか。」
「本当だとしたらすごいじゃないか。あの歳で神の命を果たしたのだぞ。」
「でも本当かしら? 帰還されたと言うけれど、それなら誰かドラゴンを見ているはずじゃない?」
「神官長様が仰っているんだ、間違いないさ。」
「でも万が一偽物だったら....。」
色々なざわめきが聞こえる.....中には疑っている人もいるみたいだ。
「ここにいるシロム殿がその預言者様じゃ。シロム殿はまだ神官候補生じゃが、供物の間で神と話をして預言者の杖を授けられ、行方不明となっていた御子様を連れ帰るという命を与えられた.......」
と神官長が続け、さらに僕の旅での行動について話に移る。
「という成り行きでな、御子様は一足先に聖なる山へ帰還され、シロム殿はマークと共にドラゴンに乗って帰還された。皆がドラゴンを見なかったのは町の者を驚かさないために町の外に降りられて歩いて帰還されたからじゃ。」
「それでは、預言者シロム殿から一言お言葉を頂けますかな。」
神官長様が僕に呼びかける。恐れていた物が来た.....。言われるかなとは思って、言う事を考えてはいたけれど、僕にこれだけの人数を前に話をする度胸なんてあるはずがない。立ち上がった途端、頭が真っ白になって、用意していた言葉が全く浮かんでこない。どうしよう.....。
「あの...」
「神官長さん、その前に私から神官の皆様にご挨拶させてもらって良いかしら?」
「御子様、もちろんでございます。」
神官長がそう返した途端、アーシャ様の神気が膨れ上がる。神官様達が息を飲むのが分かる。アーシャ様は僕にウィンクしてから演台の一番前に進み語り始めた。
「神官の皆様、初めまして。私は聖なる山の神の娘アーシャです。......どうかそのままお聞きください。」
アーシャ様の最後の言葉は、何人かの神官様が跪こうと椅子から立ち上がったからだ。
アーシャ様は皆が再び着席するまで待ってから話を続ける。
「日々神を敬い、神の思いを汲み取りその実現に尽力して下さりありがとうございます。私は100年前から父よりこの国への加護を任されています。その役目を果たす上でも皆さまにはいつも感謝しております。この国に他のどの国より幸せを感じる人が多いのも皆さんのお陰です。さて、今日私がここに来させて頂いたのは、カルロさんに次ぐ2人目の預言者をご紹介するためです。」
ここで言葉を区切ったアーシャ様は、僕を手招きして自分の横に立たせる。
「皆さん、こちらが私の自慢の預言者シロムさんです。シロムさんはまだ学生ですが、先ほど神官長さんから紹介された様に数々の冒険を体験し、父や私の様な神だけでなく精霊からも愛されています。後ろに居られる水の大精霊ウィンディーネさんもシロムさんを慕っている精霊のおひとりです。ウィンディーネさんはシロムさんと契約されており、この町に滞在することになります。きっとシロムさんの意思に沿ってこの町の守りとなってくれるでしょう。」
その後はウィンディーネ様も挨拶をされ、結局僕が発言したのは
「シ、シロムです。よろしくお願いします。」
だけだった。アーシャ様のお心遣いに心から感謝した。
その後は神官長主導の元、僕やウィンディーネ様について幾つかの取り決めが決められた。ウィンディーネ様の希望どおり、泉の広場の泉の上はウィンディーネ様の滞在場所として認められた。ただし人々を驚かさない様に実体化を解いてという条件が付いたが、これは身体を小さくするのと違って特に努力は不要らしいので問題ないだろう。
それと僕が預言者であると言うのは、とりあえず僕が学生の間は神官だけの秘密にしてくれることになった。あとわずか半年足らずの期間だが、とりあえず肩の荷が下りた思いだ。
その半年の間に、神殿では僕の執務室が増設される。学校を卒業した後は、そこが僕の仕事場になるわけだ。
僕は神官長と一緒に大講堂の最奥にある大きな演台に神官長と並んで腰かけ、神官様達が集合するのを待っている。アーシャ様とウィンディーネさんも一緒だ。町から外に出掛けている神官様も入らっしゃるので全員が揃うには時間がかかる。なお遠くの村まで出かけていて戻って来られない神官様には、後で神官長様から説明するそうだ。
大講堂に入って来た神官様達は一応にウィンディーネ様の巨大なお姿を見て目を見張る。僕の傍には本来の大きさに戻ったウィンディーネ様が座っているのだ。この天井の高い大講堂でも窮屈そうに見える。
それでも流石は神官様達、驚きはするが、次の瞬間には神官長様に一礼をして静かに席についていかれる。アーシャ様は神気を抑えておられるから正体に気付く人は少ないが、僕も含めて神官長様の傍にいるのは何者かと訝しがっているだろう。少数の例外を除いて。
「すげーな! 今度は何をやったんだ?」
僕の親友マークの言葉だ。今回は神官様達だけでなく、神官候補生も特別に呼ばれている。神官候補生もウィンディーネ様を見ることが出来るから、話を合わせて置く必要があるわけだ。
「分かりにくいですが、巨人の発している気は神気とは違いますね。神様ではない様ですね。」
「でも人ではないのも確かね。ひょっとして精霊様?」
これはカリーナとカーナだ。この2人も入室した途端に目が点になっていた。
「ま、まあ。後で話すから....。」
と言って何とか席に座ってもらう。
「それでは始めようかの。」
しばらくして神官長様がそう口にすると、部屋の中のざわめきが静まる。今日出席予定の神官様が全員集まった様だ。
「神の信頼厚き神官の諸君、よく集まってくれた。今日はカルロ教国の歴史にとって記念すべき日となろう。聖なる山の神様のご加護が更にひとつ加えられた。神の命を受けドラゴンに乗って旅立たれた預言者様がその役目を果たされ帰還されたのだ。今後はこの町に留まり神と人間の仲介役として我々を助けて下さる。」
神官長様がここで言葉を区切った途端、ざわざわという話声が大講堂中に広がった。全員が僕とアーシャ様を注視している。怖い....。トイレに行っとけばよかった。
「預言者様?」
「まさか、あの子達が?」
「まだ子供じゃないか。」
「本当だとしたらすごいじゃないか。あの歳で神の命を果たしたのだぞ。」
「でも本当かしら? 帰還されたと言うけれど、それなら誰かドラゴンを見ているはずじゃない?」
「神官長様が仰っているんだ、間違いないさ。」
「でも万が一偽物だったら....。」
色々なざわめきが聞こえる.....中には疑っている人もいるみたいだ。
「ここにいるシロム殿がその預言者様じゃ。シロム殿はまだ神官候補生じゃが、供物の間で神と話をして預言者の杖を授けられ、行方不明となっていた御子様を連れ帰るという命を与えられた.......」
と神官長が続け、さらに僕の旅での行動について話に移る。
「という成り行きでな、御子様は一足先に聖なる山へ帰還され、シロム殿はマークと共にドラゴンに乗って帰還された。皆がドラゴンを見なかったのは町の者を驚かさないために町の外に降りられて歩いて帰還されたからじゃ。」
「それでは、預言者シロム殿から一言お言葉を頂けますかな。」
神官長様が僕に呼びかける。恐れていた物が来た.....。言われるかなとは思って、言う事を考えてはいたけれど、僕にこれだけの人数を前に話をする度胸なんてあるはずがない。立ち上がった途端、頭が真っ白になって、用意していた言葉が全く浮かんでこない。どうしよう.....。
「あの...」
「神官長さん、その前に私から神官の皆様にご挨拶させてもらって良いかしら?」
「御子様、もちろんでございます。」
神官長がそう返した途端、アーシャ様の神気が膨れ上がる。神官様達が息を飲むのが分かる。アーシャ様は僕にウィンクしてから演台の一番前に進み語り始めた。
「神官の皆様、初めまして。私は聖なる山の神の娘アーシャです。......どうかそのままお聞きください。」
アーシャ様の最後の言葉は、何人かの神官様が跪こうと椅子から立ち上がったからだ。
アーシャ様は皆が再び着席するまで待ってから話を続ける。
「日々神を敬い、神の思いを汲み取りその実現に尽力して下さりありがとうございます。私は100年前から父よりこの国への加護を任されています。その役目を果たす上でも皆さまにはいつも感謝しております。この国に他のどの国より幸せを感じる人が多いのも皆さんのお陰です。さて、今日私がここに来させて頂いたのは、カルロさんに次ぐ2人目の預言者をご紹介するためです。」
ここで言葉を区切ったアーシャ様は、僕を手招きして自分の横に立たせる。
「皆さん、こちらが私の自慢の預言者シロムさんです。シロムさんはまだ学生ですが、先ほど神官長さんから紹介された様に数々の冒険を体験し、父や私の様な神だけでなく精霊からも愛されています。後ろに居られる水の大精霊ウィンディーネさんもシロムさんを慕っている精霊のおひとりです。ウィンディーネさんはシロムさんと契約されており、この町に滞在することになります。きっとシロムさんの意思に沿ってこの町の守りとなってくれるでしょう。」
その後はウィンディーネ様も挨拶をされ、結局僕が発言したのは
「シ、シロムです。よろしくお願いします。」
だけだった。アーシャ様のお心遣いに心から感謝した。
その後は神官長主導の元、僕やウィンディーネ様について幾つかの取り決めが決められた。ウィンディーネ様の希望どおり、泉の広場の泉の上はウィンディーネ様の滞在場所として認められた。ただし人々を驚かさない様に実体化を解いてという条件が付いたが、これは身体を小さくするのと違って特に努力は不要らしいので問題ないだろう。
それと僕が預言者であると言うのは、とりあえず僕が学生の間は神官だけの秘密にしてくれることになった。あとわずか半年足らずの期間だが、とりあえず肩の荷が下りた思いだ。
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