神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

文字の大きさ
58 / 102

57. 父さん、料理大会に挑戦する

しおりを挟む
(シロム視点)

 アーシャ様と別れ、キルクール先生の馬車で家路に付くころには日が暮れていた。僕はキルクール先生にお礼を言ってから家に入る。ウィンディーネ様には公園の泉に戻ってもらっている。余りに色々なことがあり過ぎた1日だった。もうクタクタだ。

「ただいま。」

「お兄ちゃん、お帰り。」
「お帰りなさいませ、シロム様。」
「おお、シロム、戻ったか。」
「話は聞いたぞ、お前は我が家の誇りじゃ」
「お帰りなさい。」
「お疲れ様。」

 と総出で出迎えられた。今日は避難命令が解除された後も店を休んだらしい。それどころではなかったと言う事だろう。申し訳ないことをしたと思う。

「ごめんね。僕の所為で店を休んじゃったね。」

「何を言ってる。1日くらい休んでもどうと言う事はない。それよりお前の方はどうだったんだ? 神官様達に責められなかったか?」

「大丈夫、アーシャ様のお陰で何とかなったよ。ウィンディーネさんも公園の泉に戻ったよ。ただし一般の人には見えないけどね。」

「つまらない。私もでっかいウィンディーネさんを見てみたかったな。ねえお兄ちゃんがお願いしたら姿を見せてくれるのよね。」

「だ~め! また避難命令が出たら大変だろう。それにウィンディーネさんは見世物じゃないからね。」

「そうですよ、スミカだって周りの人にジロジロ見られたら嫌でしょう?」

「そうか、御免なさい。」

「スミカはいい子だな。よし、今度ご褒美を買ってやろう。」

 父さんはスミカに甘い。良かった、いつもの我家だ。


***********


 あれから一月が経った。カンナと一緒に学校から帰る途中でいつもの様に泉の広場に立ち寄る。

<< ウィンディーネさん、今日は。何か困ったことはありませんか? >>

<< ご主人様、ありがとうございます。快適に過ごさせていただいております。>>

 と、これまたいつものやり取りをする。

 ウィンディーネ様は泉の上に座っている。こんな所に1日中じっとしているなんて退屈なのではないかと心配になって確認したことがあるが、全く問題ないとの返事だった。

 チーアルに相談したら、

「精霊と人間では精神の構造が違うのよ、精霊が同じ場所でじっとしているのは快適な証拠よ。」

 と言われた。そう言えばチーアルも暗い洞窟の中で500年も過ごしていたのに、神気が湧き出さなくなるまでは快適だったと言っていたから、やはり人間とは違うのだろう。

 この泉の水は近所の家々の生活用水としても使われているため、水が汚れない様に泉での水遊びや釣りは禁止となっているから、その点でも好都合だ。もっともウィンディーネさんなら少々のことは気にしないと思うけれど。

 神殿からは「この泉には預言者様が契約した精霊が住んでいる」との発表がなされているが、一般の人には実体化を解いた精霊の姿は見えない。見えないものを意識し続けるのは難しいらしく、当初は精霊が住んでいると聞いておっかなびっくりだった町の人達も、しばらくするとこの公園を以前の様に利用するようになった。

 それどころか、泉の水を飲んでいる近所の人達で病気が治癒する人が続出したことから、この泉の水には病を治す力があると評判になり、近頃では病気が治って感謝の祈りを捧げるひとや、遠くから泉の水を汲みに来る人がいるなど、ちょっとした観光スポットになりつつある。ウィンディーネさんの力が泉の水に影響しているのかもしれない。

「 「 「キャーッ」 」 」

 と子供達の悲鳴と同時に水しぶきが上がる。泉の近くで遊んでいた子供のひとりが足を滑らせて泉に落ちたのだ。

 周りの大人たちが子供を助けに走り寄って来るが、それより先に泉の水がまるで意思を持ったかのように盛り上がり、子供を岸に戻すと何ごとも無かったかの様に消えて言った。

 岸に上がった子供はしばらくきょとんとしていたが、すぐに笑顔になって走って行った。服も濡れていない様だ。

「見たか?」
「ええ、あれは何だったのかしら?」
「なんでも精霊様がここに住んでいるって話だぞ。さっき町の人から聞いたんだ。」
「じゃあ、今のは精霊様の仕業?」
「それ以外説明がつかない。やはり聖なる山の神様の町は他とは違うな。」
「ここまで遠かったけど、お陰ですごい物が見れたな。」

 何人かの話声が聞こえる。精霊の事を知らなかったようだから巡礼者の人達だろうか。

 家に帰ると、今日は二葉亭の定休日なのに父さんが厨房にいる。

「父さん、また競技に出す料理を考えているの?」

「おお、シロムか。そうだとも、アーシャ様に食べて頂いたのは賄料理ばかりだったからな、最高のチーカ料理を食べてもらいたいじゃないか。」

 実はもうすぐ料理大会の地区予選が開催される。地区予選はこの町を10の地区に分けて順に開催され、最後にそれぞれの地区で優勝した店舗で決勝戦が開かれる。

 もっとも神様に捧げる料理を作る店として10店舗が選ばれ順番に料理を献上することになっているから、地区予選で優勝した時点でアーシャ様に料理を献上するという目的は果たせる。流石に我家が町で一番になるのは難しいだろうけど、地区での優勝なら可能性はあると思う。

「試食してみるか?」

「うん」

 父さんに差し出された皿の料理を一口食べる。

「うーん、確かに美味しいんだけど....。もう少し辛味が少ない方が良くない。」

「そうか?」

「料理大会で料理を食べて評価する人は、男の人も女の人もお年寄りもいれば子供もいるわけで.....そうなると誰に焦点をあてて味付けをするかが重要なんだけど.....中央値を取ると考えると、もう少し辛味が少ない方が万人受けするのじゃないかな。チーカ料理を食べ慣れていない人も多いだろうし。」

「シロムも難しいことを言う様になったな。だがそれじゃチーカ料理じゃなくなっちまう。それに特徴の無い料理で優勝できるとも思えん。」

「それもそうかも、難しいね....。」

「まあ、まだ少しは時間がある、考えてみるさ。」

「頑張ってね。応援してるよ。」

「おう、任せとけ。」

 料理に集中し始めた父さんを厨房に残し僕は自分の部屋に入る。手伝いたいけれど料理の基本しか習っていない僕では役に立たない。

 料理大会はアーシャ様も楽しみにしておられる。大会ではこっそりと料理を食べにジャニス皇女を連れて神域からやって来られるらしい。

「偶には気晴らしをさせてあげないとね。遊牧民の料理ばかりにも飽きただろうし。精霊さん達のお陰でこの町の間者はいなくなっただろうから、ジャニスを連れて来ても大丈夫でしょう。」

 というのが、先日供物の間でお話した時のアーシャ様の言だ。念の為に神官長様がアーシャ様とジャニス皇女へこの町の住民としての身分証を手配することになっている。

 自分の部屋に入った僕はさっそく宿題に取り掛かった。神官候補生のクラスになってからやたらと宿題が多いのには閉口する。でももうすぐ待ちに待った夏休みだ。心置きなく休みを迎えるためにも頑張らなければならない。宿題をサボったら夏休みに補講をしますからとキルクール先生に宣言されている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

『悪役令嬢』は始めません!

月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。 突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。 と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。 アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。 ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。 そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。 アデリシアはレンの提案に飛び付いた。 そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。 そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが―― ※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。

王子様とずっと一緒にいる方法

秋月真鳥
恋愛
五歳のわたくし、フィーネは姉と共に王宮へ。 そこで出会ったのは、襲われていた六歳の王太子殿下。 「フィーネ・エルネスト、助太刀します! お覚悟ー!」 身長を超える大剣で暗殺者を一掃したら、王子様の学友になっちゃった! 「フィーネ嬢、わたしと過ごしませんか?」 「王子様と一緒にいられるの!?」 毎日お茶して、一緒にお勉強して。 姉の恋の応援もして。 王子様は優しくて賢くて、まるで絵本の王子様みたい。 でも、王子様はいつか誰かと結婚してしまう。 そうしたら、わたくしは王子様のそばにいられなくなっちゃうの……? 「ずっとわたしと一緒にいる方法があると言ったら、フィーネ嬢はどうしますか?」 え? ずっと一緒にいられる方法があるの!? ――これは、五歳で出会った二人が、時間をかけて育む初恋の物語。 彼女はまだ「恋」を知らない。けれど、彼はもう決めている――。 ※貧乏子爵家の天真爛漫少女×策略王子の、ほのぼのラブコメです。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...