神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

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69. 作戦成功?

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(シロム視点)


「私じゃなく、シロムさんでなければならない理由は、ウィンディーネさんがシロムさんの契約精霊だからよ。契約者と契約精霊は魂と魂が繋がっているのでしょう? それはウィンディーネさんとシロムさんが1本の糸で繋がっていると言う事。その糸をたどればどんな迷路でも迷わないで出口までたどることができるはず。おまけに神器を作動させている間は通路が開いているからウィンディーネさんと念話も通じるかもしれない。」

 なるほど、なんとなく分かった。

「だからね、シロムさんは神器を作動させたらウィンディーネさんにレイスのマジョルカさんを連れて自分の方に来る様に呼びかけるの。マジョルカさんとウィンディーネさんが出会っていれば良いのだけど、そこは祈るしかないわね。」

「ち、ちょっと待って。そこは賭けなわけ?」

「そうよ、もし2人が一緒でなければ、出会えるまでしばらく時間をおいて再度試すしかないわ。だけどレイスを回収する手間を考えたら、吸い込まれた魂は同じ地点に吐き出される様になっている可能性が高いと思う。あとは2人が別行動を取ってないことを祈るだけよ。」

早速試してみることになったが、緊張した僕はその前にトイレに行かせてもらった。

 神器の前に立つと再び緊張が襲って来る、心臓はバクバクだが、ウィンディーネ様の為だ逃げることは出来ない。ちなみにチーアルは僕と合体というか、僕の精神世界の中に入っている。神域では僕のすぐ近くに居ないと分解してしまうチーアルだが、僕と一緒に神器の前に立てば吸い込まれてしまう恐れがある。それを防ぐための手段だ。

 ジャニス皇女が神器を作動させる。とたんに身体の中からピリピリという不快感がやって来るが我慢できない程ではない。ジャニス皇女はこの状態でウィンディーネ様に呼びかけろと言っていた。

<< ウィンディーネさん、ウィンディーネさん、聞こえますか? >>

 と精一杯の念話で呼びかけるが返事はない。その後も何度も呼びかけたが同じだ。ダメなのかとあきらめかけた時、

<< ご主人様? >>

 と微かな念話が届いた。

<< ウィンディーネさん、シロムです。無事ですか? >>

 と返した後、やはりかなりの時間があって返事が返って来た。どうやら念話が相手にとどくまでに時間が掛かるようだ。

<< ご主人様、ご迷惑を............申し訳ありません。無事.....す。>>

 所々聞き取れない部分があるが、こちらの言ったことは伝わっている様だ。

<< レイスのマジョルカさんと一緒ですか? >>

 と尋ねると、やはり時間をおいて返事が返って来る。

<< .....別れました。また......しょう。>>

 別れた? 別行動か....。

<< マジョルカさんと合流できますか? >>

<< たぶん....。レイス....2人。マジョルカ....とカニアールさん。>>

 2人? 中に捕まっているレイスがもう1人居るのだろうか? 

<<  2人と合流出来ますか? >>

<< 出来ると....す。.....時間が..... >>

<< 合流したら一緒にいてください。僕を感じる方向が出口です。明日また連絡します。>>

<< 分かり....た。>>

 そこまで話をして、ジャニス皇女に合図して神器を止めた。僕の預言者の杖と同じで神器にも使える時間に限界があるかもしれないからだ。いざという時に作動しなければウィンディーネ様を助けることが出来ない。

「概ね成功です。ちょっと途切れ途切れでしたけど話は出来ました。」

「やったじゃない!」

「残念ながらマジョルカさんとは別行動らしいですが、また会えると言っていたと思います。それともう1人レイスが中に居るみたいです。確かカニアールさんだったと....」

「カニアール様!?」

 それまで沈黙を守っていた巫女の少女が大きな声を出した。それだけでなく僕に詰め寄ってくる。

「本当にカニアールと言っていたのですね。間違いないですか?」

「たぶん間違いないと思います。」

「そんな、どうしてカニアール様がレイスなんかに....。」

「あの、お知り合いのレイスですか?」

「......貴方には関係ありません。」

 そう言ったきり、少女は再び口を閉ざした。こうなると梃でもしゃべりそうにない。

 そして翌日になり、再びウィンディーネさんとマジョルカさんの救出作戦が開始された。

 僕は昨日同様、神器の前に立ってウィンディーネ様に呼びかける。

<< ウィンディーネさん、聞こえますか? >>

 しばらくしてウィンディーネさんから返事があった。

<< ご主人様.....えます。マジョ........カニアール....一緒です。>>

<< 2人と合流出来たのですね? >>

<< はい >>

 良かった。それなら後は2人を連れて出口に向かうまでだ。

<< では、マジョルカさんとカニアールさんを連れて、僕の魂がある方向に進んでください。そこが出口です。>>

<< 了解....た。>>

 だが、そこからはとんでもなく時間が掛かった。ジャニス皇女の言っていた空間座標が想像以上の頻度で切り替わる様だ。

<< ご主人....方向....変わり...す。>>

<< 空間座標が変わっているのが原因らしいです。とにかく僕の方へ進んでください。>>

 ウィンディーネ様は賢明に進もうとしてくれている様だが、進む方向を一瞬一瞬変えなければならない。スピードを出せない様だ。

<< ウィンディーネさん、頑張って! >>

 そう何度も励ますが、すでに相当の時間が経っている。作業は昼食抜きで続いているが、いつ終わるか分からない。

「不味いわね、これ程時間が掛かるとは思わなかった。神器の稼働時間の限界が来るかもしれない....。」

 ジャニス皇女が不吉なことを言う。僕は焦りまくった。

<< ウィンディーネさん、時間がないです。急いで! でも慎重に! >>

 我ながら無理なことを言っていると思う。とにかく早くこっちへ、僕の魂の方へ、と念じ続ける。なんとなくだが、僕にもウィンディーネ様の魂が近づいて来るのが分かりだした。

<< 早く! 早く! 僕の魂はこっちです。急いで! >>

 ウィンディーネ様の魂は直ぐそこだ。だがその時神器が発していた唸りが一瞬途切れた。

<< 早く! こっちへ!!!! >>

 その念を送った途端、僕の中に何かが飛び込み、僕は反動でひっくり返った。
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