神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

文字の大きさ
95 / 102

94. ウィンディーネ様の出産

しおりを挟む
(シロム視点)


 はい??? アーシャ様がとんでもないことを口にされた。念のために言っておくが僕はウィンディーネ様に手を出したことはないと断言する。それにウィンディーネ様は体形だって変わっていない。

「良く分かりましたね。実はそうなのです。もうすぐ生まれます。」

「ウィンディーネさん、う、生まれるって誰の子供ですか?」

 僕はショックで膝を突きそうになりながら尋ねていた。そんな....ウィンディーネ様が他の男と....。

「ご主人様酷いです。もちろんご主人様の子供に決まっています。」

 へっ? で、でも僕はウィンディーネ様とそんな関係になった覚えは....。

「シロムさん、聖霊は成熟すると子供が生まれることがあるの。でもそれは好きな人と心から幸せと思える時間を過ごした場合だけ、とっても稀な事なのよ。だから生まれて来る子供の父親は間違いなくシロムさんね。」

「もちろんです。」

 ウィンディーネ様がアーシャ様の言葉に同意する。え? え? えぇぇぇぇぇぇぇ~~~~!!!!

 ......だが僕の驚きと困惑を他所に、それから3日後僕は10人の子供の父親になったのだった。




 ここは僕の館ではなく皇都の郊外にある人気のない草原。子供を産むには元の大きさに戻る必要があると聞いてここへやって来た。今季節は春で草原には様々な色の花が咲き、晴天ということもあって花々が輝く様に風に揺られている。まるでこれから生まれて来る子供達を世界が祝福している様だった。

 生まれて来たのは背中にトンボの様な透明な羽がある親指程の大きさの精霊達。ウィンディーネ様のお腹の辺りが輝いたと思ったらそこから小さな精霊達が飛び出して来た。精霊の子供達は生まれてすぐなのにある程度の知性がある様で、拙いながらも念話で話が出来る。

 子供達は最初 << ママ~ >> と言いながらウィンディーネ様に纏わり付いていたが、ウィンディーネ様が僕の方を指示して 「パパですよ 」 と口にすると今度は << パパ~ >> と言いながら僕の手の平の上に集まった。

 精霊の子供達はウィンディーネ様を幼児にした様なかわいらしい顔をしていて、髪の色はウィンディーネ様と同じ水色が半分、僕と同じ茶髪が半分。男の子が5人、女の子も5人だ。

「間違いなくシロムの子ね。安心した?」

 チーアルが揶揄う様に言う。

<< パパ~ >>
<< 精霊違う? >>
<< パパ好き~>>
<< パパ人間? >>
<< パパ強い? >>
<< ママより強い >>
<< すごい >>
<< 遊ぼ >>
<< 追いかけっこ >>
<< お腹空いた >>

 一斉に話しかけられて困惑するが、どの子も可愛い。

「どれ私にも見せるのだ。おお! 中々可愛いではないか。よくやったウィンディーネ。」

 子供が生まれると聞いて駆けつけて下さった精霊王様からも祝福の言葉を頂いた。精霊は3000年前の魔族との闘いで数が減ってしまったので新しい精霊の誕生は大歓迎らしい。

<< パパお腹空いた >>

 と子供達の1人が繰り返す。お腹が空いた? でも精霊って物を食べないんじゃ?

「お腹が空いたの? じゃあママの方へ来て。」

 そう言ったウィンディーネ様の手が淡く光り始める。そう言えば精霊は気を吸収する必要があるのだった。光っているのはウィンディーネ様が自分の気を放出しているからだろう。

 子供達が一斉にウィンディーネ様の手の周りに集まるが、暫くして3人が僕の方に引き返して来た。

<< パパもちょうだい >>

「ご、ごめん。」

「シロムには無理だな。あれだけ訓練させたのにまったく力を使えんとはある意味あっぱれと言うべきかもしれん。ほれこっちに来い。」

 そう言った精霊王様の手が淡く光る。僕の傍にいた子供達が精霊王様に向かうが男の子が1人僕の手の平に残っている。

<< パパ大好き >>

 どうやら気を放出できない僕を慰めてくれている様だ。優しい子だなと思うと嬉しくなって泣きそうになる。この子にウィンディーネ様や精霊王様の様に気を分けてあげられたら....。

 そう考えた途端、今まで固く固く閉ざされていた心の中の門が少し開いた感じがした。そこから何か暖かいものが流れ出して来る。そして僕の手が精霊王様の様に淡く優しく輝き出した。

<< 甘い! パパの気は甘いね >>

 手の平の上の男の子がそう言うと、他の子供達も我も我もと言う様に集まって来る。

<< 本当だ、甘くて美味しい >>
<< すごい >>
<< パパ 天才 >>
<< あっちの人のは熱いからきらい >>
<< ママのは冷たくておいしいよ >>

 どうやら精霊王様の気は子供達に不評の様で、それを聞いた精霊王様が憮然とした表情になる。火の精霊である精霊王様は気も熱いのかもしれない。

「まったく....5年間みっちり修行しても出来なかったことが子供を前にした途端に出来る様になるとはな。」

 精霊王様が呆れた様に口にする。理由は何となく分かった。今まで僕は自分の魂に宿った力を本能的に恐れていた。なにせ僕の魂にあるのは大半があのコトラルから奪った力だ。コトラルは戦いの中でウィンディーネ様や周りの大地を大いに傷付けた。僕にとって力とは誰かを傷付けるものという思い込みがあったのかもしれない。その潜在的な恐怖が心の門を固く閉ざしていたのだろう。でもウィンディーネ様や精霊王様が子供達に気を分け与えるのを見て、力は誰かを傷付けるだけでは無いと感じることが出来た。力を使えたのはそのお陰だ。

 子供達に気を与え終ると、僕達は精霊王様と別れてアーシャ様の待つ僕の館に戻る。アーシャ様は自分は精霊ではないからと僕達に同行されなかった。きっと気を使って下さったのだと思う。ちなみに精霊王様には名付け親になって頂く様お願いした。僕が付けると精霊契約になる恐れがあるらしい。次回お会いするときまでに考えて下さることになっている。

 館に戻るとアーシャ様からもお祝いの言葉を言われたが、それと同時にちょっと驚いた顔でひとつの水晶を差し出された。

「これからはシロムさんもこれを持っておいた方が良さそうね。沢山持っているからひとつあげる。」

「えっと....これは?」

「只の水晶よ。何があったか知らないけれどシロムさんから神気が漏れ出しているわ。このままカルロ教国に帰ったら神官達がびっくりするでしようね。預言者なのだからそれでも良いかもしれないけど困る場合もあるでしょうからね。身体から漏れ出た神気を水晶に送り込むの。あとでやり方を教えてあげる。」

「は、はい...」

 身体から神気が漏れ出している? アーシャ様に最初にお会いした時に金色に輝いておられた様に、神気を感じることの出来る人には僕が光って見えると言う事だろうか? それは不味い! 僕はその夜から必死になってアーシャ様に教わった神気を水晶に送り込む方法を練習し始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...