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第2章 惑星カーニン編
閑話-1 ネスレ視点
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私はネスレ。何を隠そう天下を騒がす一匹狼の怪盗だ。
盗みはすれども非道はせず、金持ちしか狙わない。種族は山猫の獣人族。猫耳と長くて黒いしっぽが自慢だ。私は常にスマートな盗みを目指している。強盗みたいに誰かを傷つけたり殺したりするなんて問題外。金持ちからお宝を頂戴した後でも連中が盗まれたことすら気付かないのが目標だ。その為には綿密な下調べが必要、計画から実行までに2~3年掛けるなんでザラである。
今は交易都市ギネスにある金持ち冒険者夫婦の屋敷に乳母として潜り込んでいる。主人夫妻はドワーフで2人とも魔法使いの冒険者だ。かなりの魔法の使い手との噂である。そうでなければ冒険者で金持ちにはなれまい。ドラゴンでも倒したのだろうか。こいつらが溜めこんでいるお宝を頂戴しようという魂胆である。
この屋敷に潜り込んでからすでに1年近くが経つ。実はここに来たのは失敗だったかと思い始めている。ここの主人夫婦は世間で噂されるほど金持ちではないのかもしれないのだ。屋敷の家具や調度品は立派だが、古さから言ってこの屋敷の前の持ち主の貴族の持っていた家具が屋敷と一緒に売却されたものをそのまま使っているだけだろう。金持ちがやるような多くの客を招いてのパーティなどもしたことが無い。おそらくそのための資金が無いのだ。こんな屋敷からはとっとと消え去ろうと思うのだが、私を引き留めているのはタロウだ。もうすぐ2歳になる主人夫婦のひとり息子である。これがまたやんちゃなガキなのだが、私にすごく懐いてしまった。なぜだろう? 特に優しくしてやっているつもりは無いのだが、毎朝私が来るととっておきの笑顔で、「ねすれ~~~」と言いながら飛びついてくる。可愛い...。いや! いかんいかん。冷静になるのだネスレ。目的を忘れるな! すぐにこの屋敷を出るのだと自分に言い聞かせるのだが、私が居なくなった後のタロウの悲しむ顔が頭に浮かぶと踏ん切りがつかないのだ。くそう...。
だがある日私は自分の推測が間違いだったことを知った。走り回るタロウを追いかけて応接室に入った私は来客中だったことに気付いた。この屋敷に来客は滅多にないから油断していた。奥様と気弱そうな痩せ型の男がソファーに座って話している最中だった。
「これは失礼しました。」
と詫びてあわてて立ち去ろうとした時私は見てしまったのだ。ふたりの前に置かれた直径20センチメートルくらいもある巨大な魔晶石を。馬鹿げた大きさだった。ドラゴンの魔晶石に違いない。わたしは魔晶石には気付かなかったふりをしてタロウの手を引いて部屋から出て、すぐに聞き耳を立てた。山猫族の聴力をなめるなよ。
「これくらいの小さな魔晶石が5個しか獲れなかったの、大丈夫ですか?」
「ご心配なく十分ですよ。稼働期間が数日短くなるだけです。」
おいおい、あの大きさの魔晶石で小さい? 何の冗談だ。売ればひとついくらになると思っている。一生贅沢に暮らせるぞ。前言撤回! やはりこの屋敷の主人夫婦はとんでもない金持ちだ。
その時私は不穏な気配に気付いた。廊下の先を見ると数人の男がこの屋敷に窓から侵入しようとしている。タロウがすぐ傍にいる。まずい!!! だが私の心配は杞憂だった。最初の男が窓から廊下に降り立ったとたん、天井から植物の蔓の様な物が降り注ぎアッと言う間に男を絡め捕り天井近くまで吊り上げたのだ。まだ窓の外にいる男達は唖然としている。私も何が起ったか分からず動けない。異変に気付いた奥様が応接室の扉を開けてこちらを見る。その時蔓にからめ捕られた男の手から魔道具の杖が床に向かって落下するのが見えた。あれは魔法の矢を発射する杖、まずい杖はタロウの方を向いている。床に落ちたら暴発するかもしれない。私は山猫族自慢の瞬発力でタロウに肉薄し覆いかぶさった。次の瞬間私の身体に魔法の矢が深々と突き刺さる。これは死んだな...。私の意識はそこで途切れた。
目を覚ますと客室のベッドの上だった。横を見ると奥様が私の手を握っていた。目に涙をためている。
「ネスレさん、ありがとう。あなたはタロウの命の恩人よ。」
あれ、私は生きている。それどころか確かに矢が刺さったはずなのに痛みもない。どこにも怪我をしていない様だ。なぜ? あれは夢だったのか?
それからは大変だった。奥様はタロウの命を救ってくれたお礼にと自分が持っている高価な宝石を沢山私に譲ろうとした。私はそれを固辞した。しばらく押し問答が続いたが私が勝つ。当然だ、こんなことでお宝を手に入れては怪盗の名が廃る。
安心して奥様、いつかきっちりと盗んであげますから。
盗みはすれども非道はせず、金持ちしか狙わない。種族は山猫の獣人族。猫耳と長くて黒いしっぽが自慢だ。私は常にスマートな盗みを目指している。強盗みたいに誰かを傷つけたり殺したりするなんて問題外。金持ちからお宝を頂戴した後でも連中が盗まれたことすら気付かないのが目標だ。その為には綿密な下調べが必要、計画から実行までに2~3年掛けるなんでザラである。
今は交易都市ギネスにある金持ち冒険者夫婦の屋敷に乳母として潜り込んでいる。主人夫妻はドワーフで2人とも魔法使いの冒険者だ。かなりの魔法の使い手との噂である。そうでなければ冒険者で金持ちにはなれまい。ドラゴンでも倒したのだろうか。こいつらが溜めこんでいるお宝を頂戴しようという魂胆である。
この屋敷に潜り込んでからすでに1年近くが経つ。実はここに来たのは失敗だったかと思い始めている。ここの主人夫婦は世間で噂されるほど金持ちではないのかもしれないのだ。屋敷の家具や調度品は立派だが、古さから言ってこの屋敷の前の持ち主の貴族の持っていた家具が屋敷と一緒に売却されたものをそのまま使っているだけだろう。金持ちがやるような多くの客を招いてのパーティなどもしたことが無い。おそらくそのための資金が無いのだ。こんな屋敷からはとっとと消え去ろうと思うのだが、私を引き留めているのはタロウだ。もうすぐ2歳になる主人夫婦のひとり息子である。これがまたやんちゃなガキなのだが、私にすごく懐いてしまった。なぜだろう? 特に優しくしてやっているつもりは無いのだが、毎朝私が来るととっておきの笑顔で、「ねすれ~~~」と言いながら飛びついてくる。可愛い...。いや! いかんいかん。冷静になるのだネスレ。目的を忘れるな! すぐにこの屋敷を出るのだと自分に言い聞かせるのだが、私が居なくなった後のタロウの悲しむ顔が頭に浮かぶと踏ん切りがつかないのだ。くそう...。
だがある日私は自分の推測が間違いだったことを知った。走り回るタロウを追いかけて応接室に入った私は来客中だったことに気付いた。この屋敷に来客は滅多にないから油断していた。奥様と気弱そうな痩せ型の男がソファーに座って話している最中だった。
「これは失礼しました。」
と詫びてあわてて立ち去ろうとした時私は見てしまったのだ。ふたりの前に置かれた直径20センチメートルくらいもある巨大な魔晶石を。馬鹿げた大きさだった。ドラゴンの魔晶石に違いない。わたしは魔晶石には気付かなかったふりをしてタロウの手を引いて部屋から出て、すぐに聞き耳を立てた。山猫族の聴力をなめるなよ。
「これくらいの小さな魔晶石が5個しか獲れなかったの、大丈夫ですか?」
「ご心配なく十分ですよ。稼働期間が数日短くなるだけです。」
おいおい、あの大きさの魔晶石で小さい? 何の冗談だ。売ればひとついくらになると思っている。一生贅沢に暮らせるぞ。前言撤回! やはりこの屋敷の主人夫婦はとんでもない金持ちだ。
その時私は不穏な気配に気付いた。廊下の先を見ると数人の男がこの屋敷に窓から侵入しようとしている。タロウがすぐ傍にいる。まずい!!! だが私の心配は杞憂だった。最初の男が窓から廊下に降り立ったとたん、天井から植物の蔓の様な物が降り注ぎアッと言う間に男を絡め捕り天井近くまで吊り上げたのだ。まだ窓の外にいる男達は唖然としている。私も何が起ったか分からず動けない。異変に気付いた奥様が応接室の扉を開けてこちらを見る。その時蔓にからめ捕られた男の手から魔道具の杖が床に向かって落下するのが見えた。あれは魔法の矢を発射する杖、まずい杖はタロウの方を向いている。床に落ちたら暴発するかもしれない。私は山猫族自慢の瞬発力でタロウに肉薄し覆いかぶさった。次の瞬間私の身体に魔法の矢が深々と突き刺さる。これは死んだな...。私の意識はそこで途切れた。
目を覚ますと客室のベッドの上だった。横を見ると奥様が私の手を握っていた。目に涙をためている。
「ネスレさん、ありがとう。あなたはタロウの命の恩人よ。」
あれ、私は生きている。それどころか確かに矢が刺さったはずなのに痛みもない。どこにも怪我をしていない様だ。なぜ? あれは夢だったのか?
それからは大変だった。奥様はタロウの命を救ってくれたお礼にと自分が持っている高価な宝石を沢山私に譲ろうとした。私はそれを固辞した。しばらく押し問答が続いたが私が勝つ。当然だ、こんなことでお宝を手に入れては怪盗の名が廃る。
安心して奥様、いつかきっちりと盗んであげますから。
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