新米女神トモミの奮闘記

広野香盃

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第3章 惑星マーカス編

21. 選挙

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 それから1ヶ月、私は選挙会場の準備に勤しんだ。まずはライルさんの魔力が中級神程度に成る程度に魔力を譲渡した。これでライルさんの魔力は私を除いてこの銀河で1番に成った。ライルさんが当選した時にガストンさんから後で文句を言われないためである。その後にふたりで選挙会場の準備をする。まずは東京ドーム数十個分の広さを結界で囲み、中を空気で満たしてから巨大な平屋の建物を建てる。材料は惑星の土、これを魔法で粘土の様に加工する。窓ガラスを作るのも魔法だ。大抵の材質は土に含まれる元素を科学反応させれば作り出すことが出来るし、足りない元素は魔法で作り出す。内部は候補者の最終演説の会場と神々の控え室を兼ねた巨大な部屋がひとつ、後は投票所が100カ所と投票後の控室がひとつだ。候補者の最終演説が終わったら神々に順次投票所に入ってもらい投票をしてもらう。投票完了後は別室で寛ぎながら結果発表まで待機してもらう予定だ。

 選挙への立候補の締め切りとなる1ヶ月が過ぎた。その時点での立候補者はガストンさん、バレリさんにライルさんの3人のみ。まあ気持ちは分かる。下級神が上級神に立候補するのは、町議会議員がいきなり国会議員に立候補する様な物なのだ。よほどの自信が無いと決心がつかないだろう。これから選挙までの1ヶ月間が選挙運動期間だ。ライルさんを含め各候補は銀河を巡って自分達への指示を訴える。私もライルさんに同伴してあちこちの星域を巡る。ひとつひとつの惑星を訪ねていては間に合わないので、下級神がアバターを遠隔操作できるくらいの範囲を区切って宇宙空間で念話を使って演説を行うのだ。興味がある下級神はアバターを送り込んで見に来てくれる。結構な数の下級神が集まってくれることが多いが、ガストンさんやバレリさんが人気のある場所ではちらほらである、まあ当然だわな。

 ガストンさんやバレリさんの人気が意外にあるのには驚いたが、選挙結果については心配していない。やはりこの銀河を代表して私達の銀河にやって来ただけあってライルさんは人望があるのだ。魔力も譲渡したことだし当選したらそのままライルさんが上級神で良いのではないですかと提案したのだが、それでは選挙公約を破ることになると頑なに断られた。この辺の頭の固さが難なのだが、基本的には誠実な神で人望があるのも納得である。
 
 そしていよいよ投票日に成った。今は控室に投票者の神々がアバターを送って来るのを待っているところである。もうすぐ候補者の最後の選挙演説が始まり、それまでにアバターを送って来なかった神については棄権と見なされることになっているが、なんとほぼ全員が参加してくれた様だ。やはり上級神が誰に成るか関心があるのだろう。

 選挙演説はライルさん、ガストンさん、バレリさんの順だ。最初のライルさんの演説は自分のことはほとんど話さず、私の宣伝ばかりで、特に皇帝ガープからこの銀河を救った恩人であるとものすごく持ち上げるので聞いていて居た堪れなくなった。
 次のガストンさんは自分達の銀河を納めるのは自分達でという方針をアピールし、ライルさんとは反対に私のことを素性の知れないよそ者として皆の警戒心を煽ろうとしている。なかなか巧みな話の持って行き方で思わず納得しそうになった。あれ、これ私のことだよね。何かこの銀河を利用して私腹を肥やそうとする悪徳政治家の様に言われているぞ。腹が立つが私に発言権はない。演説を終えたガストンさんは勝ち誇ったように私を睨んで演壇から降りた。これはかなりの票を持って行かれたのではないだろうか。
 最後はバレリさんだ。バレリさんはその美貌とお色気たっぷりなしぐさで男性神の気を引き、女性の視点に立った政策を女性神に訴えている。話の内容的に結構女性受けが良かったのではないだろうか。少しばかり選挙の結果が心配になって来た。
 バレリさんの演説も終わり、いよいよ投票の時間と成った時。会場に強力な念話が響いた。

<< この次元の神々の皆様、どうか私の話も聞いていただけませんか。>>

 念話と同時に演台の上に少女が現れた。いや、少女というより幼女と言った方が良いかもしれない。完全に10歳以下の容姿だ。本来なら演台の上に立つのは礼儀に反するだろうが、通常に演台の後に立つと身体が完全に後に隠れてしまうから仕方が無いとも言える。私を含め神々は驚き固まった。この銀河にこんな幼い姿のアバターを使う神はいなかったはずだ。それに身に纏う魔力は彼女がただ者では無いことを示している。しかもこの幼女は << この次元の神々の皆様、>> と発言した。まるで自分はこの次元の者では無いかのようにだ。司会を務めていた神があわてて幼女に問いかける。

<< あなたはどなたでしょうか? >>

<< 私はあなた方の言う超越者を追って上位の次元からやって来た者です。超越者が見つからないので不思議に思い情報収集のために失礼ながらこっそりと話を聞いておりました。まずは超越者の皇帝ガープを滅ぼして頂いたことお礼を申し上げます。私達も彼には多くの恨みがありました。この話を聞けば喜ぶ者は多いでしょう。>>

 幼女の姿に似つかわしくない堂々とした話し方をする。先ほどのライルさんの話を聞いていたらしい。超越者と言う単語を耳にして会場の神々が騒然となった。

<< 私はあなた方の敵ではありません。それどころか皆さんとは平等な友として友好関係を築きたいと考えております。>>
  
<< 信用できん! また俺達の銀河から魂の力を奪いに来たんだろう! >>

 とガストンさんが叫ぶ。当然の疑問だろう。

<< いいえ、私達は超越者とは違います。私達の国では他人の魂の力を奪うことは殺人に匹敵する罪となっております。>>

 私はたまらず発言した。

<< それで皇帝ガープの最後がどうなったか分かったのであればあなたの目的は達せられたということですね。それにも拘わらず、この微妙な時期に私達に接触してきた理由は何なのでしょう。私達と友好関係を持ちたいとの事でしたが、私が上級神に成った場合はこの銀河を下位次元に退避させるつもりです、残念ながらあなた方と友好関係を築く時間は持てそうにありません。>>

 銀河の下位次元への退避の件は先ほどライルさんも講演の中で言っていたことなので今更隠しても仕方ないだろう。

<< トモミさんでしたね。あなたはたったひとりで最強の超越者ラース、皇帝ガープのふたりを倒したのですね。まさに強者の名にふさわしいお方です。私がここで正体を明かしたのは、あなたに私達を助けて頂きたいからです。それにはあなたが上級神になってしまってからでは都合が悪いと考えたのです。>>

 ずいぶんと都合の良い理由だな。自分達のことしか考えていない。幼女の発言を聞いて会場が再び騒がしくなった。どうやら私がラースさんを倒したことを知らなかった神々が多かったらしい。ライルさんもラースさんについては何も言っていなかったしね。ラースさんはかつてこの次元の全宇宙を支配していた。神は長命だからもちろん覚えているだろう。あのラースさんを倒したのが私と知って再度驚きが広がっている様だ。そういえばこの幼女はラースさんの最後をどうやって知ったのだろう。この銀河の神々には知られていないはずの情報だ。

<< 申し訳ありませんが、それはあなた方の事情です。私達にはあなた方を助ける義理も実力も余裕もありません。>>

 と私は言い放った。事情は分からないが私を戦いの神とでも誤解してそうだ。後でがっかりさせるよりはっきり言っておいた方が良いだろう。

<< 安心して下さい。すぐにその気になりますから。>>

 幼女がそう言うなり頭が痛くなった。ガープが使ったと同じ精神攻撃だ! まったく! やることは超越者と一緒じゃないか! 

<< お生憎様、私に精神攻撃は効果がありませんよ。>>

 と教えてあげると幼女の表情が驚愕に歪む。すぐさま瞬間移動で逃げ出そうとするが出来ない。私が彼女の瞬間移動を封じているのだ。皇帝ガープから得た魔法である。更に私から彼女に精神攻撃を掛ける。気が進まないが敵対する可能性がある以上彼女から情報を得る必要がある。私の攻撃に彼女はあっけないほど容易く屈服した。どうやら私が皇帝ガープから知識まで得ていることを知らず油断していた様だ。

<< それではあなたの次元の状況を話してもらえますか? >>

 という私の要請に幼女が答えた内容を纏めると下記の様になる。

1. 超越者の支配が去った後、上位次元の宇宙は群雄割拠の戦国時代に突入した。彼女は互いに争う勢力の中のひとつアルプ連合に属する特殊工作員である。
2. この次元に来た彼女の任務は皇帝ガープを追跡し留めを刺すことだった。実際上位次元から逃げ出した直後のガープは力を使い果たしており彼女ひとりでも倒せる程度まで弱っていた。
3. ところがガープはどのような方法を使ったか更に下位の次元に潜り込み、そこへ避難していた銀河の上級神、中級神の魂の力を取り込むことで力を復活させ、銀河ごとこの次元に戻ってきた。
4. 力を取り戻したガープに彼女は手が出せず、かといってガープを倒せという命令を果たさずに帰ることも出来ずこの次元に滞在していたが、そのガープがある日見知らぬ女神(私)に倒されてしまう。
5. それならば、私を連れ帰り戦争に協力させればお咎めを免れるだろうと考えて今回の暴挙に出たらしい。

 超越者が去っても上位次元が危険だと言うことが良く分かったが、このことにより再開された選挙の大勢は一気に決まった。この銀河を上位次元から守るには、超越者最強のラースさん、ガープを倒し、更にたった今謎の幼女を制圧した私に上級神になってもらうしかないという雰囲気が会場を満たしたのだ。結果として圧倒的多数でライルさんが当選。ライルさんはすぐに上級神の座を私に譲ると宣言して、私はほとんどの下級神の支持を得て上級神に就任し、その場で下位次元への退避を提案し承認を得た。皆この次元に居ては危険だと理解してくれた様だ。退避先の次元については、この銀河がもともと居た下位次元に退避するのも手だが、リリ様と同じ次元ならいざと言うとき互いに協力して事に当たることができると説得した。
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