17 / 19
第17話 エルドランド城奪還作戦
しおりを挟む一週間後、ドラゴンの牙にケガから回復したヴォルカを含むメンバーが集合した。
アンヌがゆっくりと話し出す。
「一週間経って、またこうして集まったわけだけど、どんな状況か報告を聞かせて。」
エリーゼが話し出した。
「王制復活派は、ここガルムヘルムにすでに集結しています。」
ゴラムが口を開く。
「俺とキャスの方は、各国から援軍の約束を取り付けた。イストリアとサウザーの援軍は、もうすぐ到着するはずだ。ウエスとノーザリアの援軍は直接エルドの街に向かっている。」
キャスがゴラムの話に頷く。
「わらわの部下も集まっておる。命令すればいつでも動けるぞ。」
ミカが続けた。
「それで、デモ助の方は?」
デモ助がゆらゆらと宙に浮かびながら言う。
「おいらの方は、なかなか大変だったよ。もう、いろんな情報屋仲間に当たって、文献を読み漁って、聞き込みして・・・。」
「それで?」
アンヌが珍しくイライラしている。デモ助が慌てて続ける。
「魔神を倒す方法が分かったよ。」
「早く教えなさいよ!」
アンヌがデモ助を両手で掴んで引き延ばそうとする。
「イテテ、乱暴しないでくれよ。教えるから!」
アンヌが手を離すとデモ助が話し出した。
「魔神を倒すには、2人の王、つまり、アンヌとゴラムが同時に魔神を攻撃するんだ。」
「それだけ?」
キャスが驚いて聞く。
「そう。それだけ。」
デモ助が腕組みして言う。
「わかったわ。魔神を倒す方法は他も当たってみましょう。」
アンヌが呆れ気味に言う。
「2人の王が一緒にって所に意味があるんだよ!他の誰でも良いってわけじゃないんだ。」
デモ助が食い下がる。
「デモ助、もう良いぞ。」
ミカがデモ助をなだめる。
「それでは、」
アンヌが皆の顔を見回しながら言う。
「今日から、3日後に行動を開始します。エルドランドを皆で取り返すのよ!」
「おう!」
全員が雄たけびを上げた。
戦いの準備は整った。
エルドランドの未来をかけた戦いが始まろうとしていた。
同じころ、エルドランドの首都エルド。
街は、まるでゴーストタウンのように人通りがなく、住人は皆、家の中に閉じこもっていた。
ヴェールの影の王制転覆派の兵士と魔神に従う魔物の兵士たちがエルドの街の外壁に集結して、外敵が来ないか目を光らせている。
エルドランド城内には、精鋭部隊が配置され、王の間にいる魔神を厳重に守っていた。
魔神ザハークは、満足げに言った。
「この私に立てつく者は消え去るのだ。人間ごとき、捻りつぶしてくれる。」
ザハークは、高らかに笑った。
3日後。
ヴァルカとエリーゼが率いる王国復活派軍に加え、イストリア国、サウザー国の援軍は、東門の前に展開した。今回の作戦では最大の軍勢だ。
ミカとデモ助が率いる魔王軍は北側から奇襲をかける。
キャスが率いるウエス国、ノーザリア国の援軍は西門だ。
そして、ゴラムとアンヌと復活派の精鋭数名は、南側の水門から水路を通り、王の間を目指す。
それぞれに部隊の配置が終わり、嵐の前の静けさか、束の間の静寂が訪れる。
その時、静寂を破るように太鼓の音が響いた。魔神軍の軍勢が雄たけびを上げる。
それに呼応するように、東門の復活派の軍勢が声を上げる。
「我らは、魔神を倒し、正当な双王制を復活させるのだ!いざ!進め!」
ヴァルカの掛け声とともに軍勢が東門へと動き出す。城門の上からは、魔神軍から放たれた矢の雨が降り注ぐ。
東門で戦いが始まるのと同時に、西門の軍勢も動き出した。
城の北側では、魔王軍と魔神軍が衝突する。
南の水門では、その音を聞いたゴラムたちが、水路を北に進み始めていた。
「アンヌ、大丈夫か?」
「他のみんなが命を懸けてるのよ。これくらい大丈夫。」
ゴラムの問いかけにアンヌは力強く答える。
アンヌは、エルドランド王家に代々伝わる聖剣を手にしていた。
デモ助の情報通りなら、ゴラムとアンヌが同時に魔神を攻撃することで倒せるはずだ。
ゴラムたちは水路の流れに逆らって歩き続ける。作戦通りなら、城内の庭にたどり着くはずだ。
そのころ、東門では、ヴァルカとエリーゼが門に迫っていた。
「門を押し開けるんだ!行くぞ!うぉーーーーー!!」
復活派の軍勢が巨大な門を押す。反対側からは転覆派の軍勢が押し返している。
「うぉーーーーーー!!」
門が少し開いた。ヴァルカたちの勢いが一気に増す。
ドーン!
門が開き、復活派の軍勢が壁の中に一気になだれ込む。
「進めー!」
エリーゼとヴァルカが先陣を切り、町の中へと軍勢が入っていく。
溜まらず転覆派の軍勢は逃げ出した。
同じころ、西門のウエス国・ノーザリア国の軍勢も門を破っていた。
キャスは、ウエス国の隊長に後を任せ、城に向かう。
北側のミカ率いる魔王軍も、魔神軍をほぼ制圧していた。
「よし、デモ助。城に向かうぞ。」
「わかりました!魔王様!」
2人は、スーっと空を舞い、エルドランド城内へと向かった。
一方、水路を進むゴラムたちは、
「ここが行き止まりのようだな。」
ゴラムが話す視線の先は、鉄格子が嵌められていて、先に進めなくなっていた。
「上に行く梯子があるわよ。」
アンヌが指をさした方に、錆びついた梯子があった。
「よし、梯子を上ろう。俺が先に行く。」
ゴラムが梯子を慎重に登っていく。
円形の青空がだんだんと大きくなり、一番上までたどり着いた。格子状の蓋をどかして頭を出すと、エルドランド城の中庭のようだった。
「大丈夫だ。アンヌ、上がってこい。」
ゴラムが下に向かって声をかけると、アンヌたちが順番に梯子を上りだした。
ゴラムは、慎重に外に出て、周りを確認する。警備は手薄なようだ。
上ってきたアンヌたちと一緒に城の中に向かう。
エリーゼとヴァルカも、部隊から離れ、サウザー王子と合流してエルドランド城へ向かっていた。
そのころ、王の間の玉座に座る魔神ザハークは余裕の笑みを浮かべていた。
「ゴラム、アンヌ、早く王の間まで来い。本当の絶望を見せてやる。」
城の東からキャス、西からヴァルカとエリーゼ、そしてサウザー王子が建物の中へと入り、敵を次々と倒していく。ゴラムとアンヌが合流するころには、1階は全て制圧されていた。
「さすがだな。俺の出番がなかったよ。」
ゴラムが言うと、
「主役の出番はこの後だよ、ゴラム王。」
サウザー王子が爽やかな笑顔で返す。
「なんじゃ、敵がおらんではないか?わらわの出番はなしか?」
ミカとデモ助もやってきた。
「これで、みんな揃ったわね。王の間に行きましょう。」
アンヌが力を込めて言う。
「よし、行こう!」
ゴラムはそういうと、王の間に向かって歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜
ソニエッタ
ファンタジー
森のはずれで花屋を営むオルガ。
草花を咲かせる不思議な力《エルバの手》を使い、今日ものんびり畑をたがやす。
そんな彼女のもとに、ある日突然やってきた帝国騎士団。
「皇子が呪いにかけられた。魔法が効かない」
は? それ、なんでウチに言いに来る?
天然で楽天的、敬語が使えない花屋の娘が、“咲かせる力”で事件を解決していく
―異世界・草花ファンタジー
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる