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第3話 樹海の守り神
しおりを挟む樹海の中は、昼でも暗くうす寒い。地面には枯れ葉が敷き詰められているように広がり、油断していると足元を取られるほどだ。
「こっちだよ!」「こっちこっち!」
遠くに女の子の声が聞こえる。
「エリー!サリー!どこにいる!」
ゴラムが叫ぶが、返事はない。
アンヌは、何かを感じているのか、体をガタガタと震わせている。
「アンヌ、どうした?寒いのか?」
ミカが心配そうに聞く。
「さっきから、低い恐ろしい声みたいなのが聞こえるの。」
「声?何を言っているか判るか?」
ゴラムが、何かに感づいたようにアンヌに問いかけた。
「えっと、精霊に会え?って言ってるみたい。」
「精霊……樹海の守り神か!よし、樹海の中心に行くぞ。」
ゴラムが走り出す。
「樹海の中心って。方向はわかるの?」
キャスが走りながら聞く。
「俺に任せろ!経験済みだ。」
ミカとアンヌも後を追う。
10分ほど走ると、樹海が急に開けて、広い場所に出た。
中心には、巨大な木が立っている。
「これが、樹海の守り神だ。」
ゴラムが見上げながら静かに言った。
見事な枝ぶりの一本の古木。その太さはエルドランド中を探しても並ぶものはないほどの大きさだ。
「これは見事な大木じゃな。」
「何年前から立ってるのかしら?」
ミカとアンヌも口を開けて見上げている。
「みんな!あそこ!」
キャスが指をさして叫んだ方向にエリーとサリーが立っていた。
「ここだよ。私たちのおうち。」
エリーが笑顔を浮かべて言った。その笑顔はどことなく悲しげだ。
「どういう意味だ?エリー?」
ゴラムが聞くと、ビューっとつむじ風が吹いた。
「見せてあげる。精霊さんお願い。」
サリーがそういうと、周囲の景色が早回しのようにすごい勢いで変わっていく。そして、急にピタッと止まった。
それは、樹海の中で遊ぶ2人の少女の姿ーーーエリーとサリーだ。
「子供を返せ!私の子供を!」
松明を持った一人の男が現れた。その男は、松明の火を近くの木に点けた。
火は急速に燃え広がる。男はそれを見ると足早に立ち去って行った。
【グワーッ、熱い!】
ドリアードたちが一斉に逃げ出す。逃げ遅れたドリアードは、燃え広がる炎に飲み込まれていく。
【熱い!助けてくれ!】
エリーとサリーが、その近くにいた。
彼女たちも炎に囲まれ、身動きが出来ない。
炎は容赦なくエリーとサリーに襲い掛かる。
そして、2人は炎に包まれた。
「こんなことが。。。」
アンヌは愕然としている。
「エリーもサリーも、火事に巻き込まれて死んだのか。」
ゴラムが声を絞り出すように言った。
どこからか優しい声が聞こえてきた。
【旅人よ。この哀れな娘たちの為に墓を建ててくれないか?】
「樹海の守り神か?エリーとサリーの墓を建てるなら、お安い御用だ。」
ゴラムが声に応える。
【旅人よ。ありがとう。頼みましたよ。】
気が付くと、周りの景色は元に戻っていた。
「よし、そうと決まれば、すぐ樹海村に戻ろう。」
ミカが歩き出す。
「待って!ミカ。」
アンヌがミカを呼び止めた。そして、大木に向かって話し始めた。
「樹海の精霊さん。エリーとサリーのお墓は、私たちが必ず建てます。安心して。今までエリーとサリーを守ってくれてありがとう。」
アンヌの周りを優しい風が吹いた。
【人間の少女よ。あなたは優しい心の持ち主ですね。どうやら特別な血を引いているようだ。】
「特別な血?」
【あなたの眠っている力を目覚めさせましょう。】
樹海の守り神がそういうと、アンヌの体が輝きだした。
金色の髪が舞い、やがて光は消えた。
「何が起こったの?」
【あなたの力を目覚めさせました。他人や魔物の声が理解できる力です。】
「……それって、ケンタと同じ……。」
【人間の少女よ、頼みましたよ。】
森は静寂に包まれた。
アンヌは驚いた顔をしている。
「私にケンタと同じスキルが……。」
ゴラムが不思議そうな顔で言う。
「翻訳スキルって、転生者が持つスキルだよな。なんでアンヌにあるんだ?」
「わらわにもわからんが、きっと何か裏があるんじゃろう。」
ミカがアンヌに向かっていった。
「とにかく、樹海村に戻りましょう。」
キャスが歩き出した。ゴラム、ミカ、アンヌも続く。
大木の横ではエリーとサリーが手を振っていた。
「エリー、サリー。お墓は必ず建てるからね。待っててね。」
アンヌは振り返って言った。
樹海村に戻ったゴラムたちは、村長と話をした。
「あの火事で、そんな悲劇があったとは、私たちも知りませんでした。」
村長は深くため息をつき、樹海の慰霊碑を見つめた。
「2人のお墓を建ててもらえますか?」
「もちろん、ドリアードの慰霊碑の隣に建てましょう。」
「ありがとう。2人もきっと喜ぶ。」
こうして数日後、エリーとサリーの墓が建てられた。
アンヌが花を手向け、祈りを捧げる。
森の中から2人の少女の霊が、その様子を見ていた。
そして、安心したかのように穏やかな表情で消えていった。
ゴラムたちは、樹海村に数日滞在することにした。
「ビール3つと、ミルク1つ。それからおすすめの料理をもらおうか。」
「えー!ミルクはヤダ!」
アンヌが不服そうに言う。
「でも、アンヌは酒は飲めないだろう?」
ミカが窘める。
「お客さん、樹海村特製ベリージュースがありますよ!」
店員が素早く勧めてきた。
「美味しそう!それください!」
「はい、まいど!」
「今日のおすすめはワーウルフのステーキだよ。」
血の滴るような美味しそうなステーキだ。木の実を細かくしたものがふりかけてある。
「これは、うまそうじゃのう!」
ミカが目を輝かせる。
「よし、じゃあ、エリーとサリーの為に献杯だ。」
ゴラムが杯を持ち上げると、キャスとミカもそれに倣う。
「2人とも天国に行けたかしら……。」
アンヌは静かに杯を見ながらつぶやいた。
「アンヌ様、大丈夫です。2人とも喜んでますよ。」
キャスが優しく言った。
「うん!2人の分も美味しいものを食べて飲んで、早く大人にならないとね。」
アンヌは少し寂しげに微笑み、杯を口に運んだ。
「アンヌ、食べすぎは太….ウゲッ!」
ゴラムの脇腹にミカの拳が入った。
「よし、食うぞ!」
ミカがステーキにかぶりつく。
「カーッ!この一口のために生きてるな!」
ゴラムが一気にビールを飲み干す。
酒場の温かな雰囲気の中、その4人の姿を微笑ましく見守る2人の少女の霊の姿があった。
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