エルドランド双王記〜王女と剣士と、王冠のゆくえ〜

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第4話 ガルムヘルムからドラゴンの谷へ

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数日後。
ゴラムたちは、樹海村を出発し、ガルムヘルムへ向かった。
馬車に揺られながら、エルドランド樹海を進む。
以前と違い、道が整備され、通りやすくなっている。
「随分と快適になったな。」
ゴラムが手綱を握りながら言う。
「本当に。以前は樹海を抜けるのは命がけだったのに。」
キャスが窓の外を見つめる。
それでも、この世界最大の樹海は、旅人にとっては険しい難所の一つだ。

数日かけて樹海を抜け、ついにガルムヘルムの町にたどり着いた。
丘の上に立つ大きな一本杉が町のシンボルとなっている。

「綺麗な町ね。」
アンヌは周囲をきょろきょろと見回しながら、感嘆の声をあげた。
「南部で一番大きい町だからな。ここなら安全だし、アンヌもいろいろ学べるだろう。」
ゴラムが手綱を握りながら言う。
「アンヌ様、あとで町を散策しましょう。」
キャスが提案すると、アンヌは嬉しそうに笑った。
「そうしましょう!楽しみ!」
「退屈そうな町じゃのう。わらわは宿で休むぞ。」
ミカはあまり興味がない様子だ。

以前、ケンタとの旅の時に泊まった「自称町一番の宿屋」に部屋を取り、
アンヌたちはさっそく町へ繰り出す。

「この町、すごく賑やかね!」
アンヌは目を輝かせながら、活気あふれる通りを見渡す。
市場には様々な商品が並び、人々の話し声や商人の客寄せの声が飛び交っている。
「さすが交易の中心だな。」
ゴラムが感心したように言う。

町の中心の広場にはひときわ目を引く銅像が立っている。
「これが、俺の剣の師匠、ガルムの銅像だ!」
ゴラムが誇らしげに言う。
「この人がゴラムおじさまの先生なのね。」
アンヌは像を見上げながらつぶやいた。
「こやつは、なかなか強かったぞ。まあ、わらわには敵わぬが。」
ミカが腕組みしながら得意げに言う。
「いや、師匠の方がミカより強いだろう。」
ゴラムが言い返す。
「わらわは実際に戦っているんじゃ。その本人がいうのだから、わらわの方が強いに決まっておる!」
「いや、師匠の方が強い!ミカを封印したじゃないか。」
「封印したのはアンじゃ!あんなイノシシに封印などされぬ!」
「誰がイノシシだと!師匠はオークだ!」
「オークもイノシシも同じじゃ!」
「なんだと!」

「2人ともいい加減にしなさい!!」
キャスが怒鳴った。
「大人げないよ、二人とも。」
アンヌにまでたしなめらると、ゴラムもミカもしょんぼりしてしまう。

「気を取り直して、散策しましょう。」
キャスが歩き出す。
ゴラムとミカもしぶしぶついていく。
「ミカ、おじさま、仲直りして。」
「わかったよ、アンヌ。」
「ここは、ひとまず停戦じゃ。」
「わかればよろしい。」
アンヌに一本取られた。

石畳の綺麗な道が続いている。街並みも白い石造りで統一されていて美しい。
アンヌたちは、しばらく町の散策を楽しんだ。

空腹を感じたのかゴラムが提案する。
「腹が減ったな。飯を食いに行こう。」
「どこか、知ってる店はあるの?」
キャスが尋ねる。
「ドラゴンの牙って店なら知ってる。ドラゴンの骨付き肉が名物の店だ。」
「ドラゴンの肉!?おいしそう!」
アンヌの目が輝く。
「よし、ドラゴンの牙に行こう!」
ゴラムたちは、ドラゴンの牙に向かった。

店の前にはドラゴンの牙を装飾した看板が出ている。
店の中に入ると、様々な種族の客でいっぱいだ。
ゴラムたちは、空いている席に座った。
すると、すぐに店員がやってきた。
「お客さん、ご注文は?」
「ビール3つとジュース1つ、あとドラゴンの骨付き肉人数分頼む。」
しかし、店員が申し訳なさそうに告げた。
「すいません、ドラゴンの肉は切らしてるんですよ。」
「そうなのか?残念だな。」
「最近、ドラゴンの肉が手に入らなくて。困ってるんです。」
「なんで、手に入らないんだ?」
店員がため息をつきながら言う。
「死んだドラゴンの肉を食べてしまう魔物がいるらしくて・・・」
ゴラムはじっと考え込む。
「なるほど…、そいつを退治すれば、ドラゴンの肉がまた食べられるんだな。」
「まあ、そういうことですね。」
「よし!俺たちがその魔物を退治しよう。いいよな?みんな?」
ゴラムが勝手に話を進めてしまう。
「まあ、仕方ない。ドラゴンの肉は食べたいしな。」
ミカは乗り気ではなさそうだが、しぶしぶという感じで了承した。
「ドラゴンが見れるのね!楽しみ!」
アンヌは遠足気分だ。

こうして、ゴラムたちはドラゴンの谷に魔物退治に行くことになった。
馬車は村を後にし、なだらかな丘陵地帯を進む。途中、草原の風が心地よく吹き抜け、空は抜けるように青く澄んでいた。
「いい天気!遠くまで見えるわ!」
アンヌは窓から身を乗り出して外を眺めた。
「油断するなよ。谷に入れば、景色はガラッと変わるぞ。」
ゴラムが低い声で言う。
緑溢れる森を半日ほど馬車で走ると、急に視界が開けて、目の前になだらかな岩山が横たわる。その間を入っていくと急に切り立った崖が行く手を塞ぐように姿を現す。これがドラゴンの谷だ。
不気味な静寂が谷を包み、風が岩肌を撫でる音だけが響いている。

「なんか変な気配を感じる。」
アンヌが突然、ガタガタと震えだした。
「どうした?アンヌ。何か居るのか?」
「私たちを崖の上から見てる。たくさんの目が。」
緊張が走る。
「崖の上だって?よし、私が行ってくる。」
キャスが素早く馬車を降りて、崖を上りだした。
「アンヌ、集中するのじゃ。その気配が何かを探れ。」
ミカがアンヌに言うと、アンヌは目を閉じて集中し始めた。
「4本足の獣。20頭くらい?様子を見てる。」
「もう少し何かわからんか?」
「これは、オオカミ?キャスが危ない!襲ってくる!」
ワオーン!
崖上から遠吠えが響き渡る。
ワーウルフの群れが雪崩のように襲い掛かる。
キャー!
キャスがその雪崩に巻き込まれた。
「キャス!」
アンヌは叫ぶと、馬車を飛び出した。
「アンヌ!危ない!くそ!」
ゴラムも馬車を飛び降り、ワーウルフの群れに向かって斬りかかる。
「闇に堕ちよ!ダークネス!」
ミカの魔法が数匹のワーウルフを消し去ったが、次々と現れてくる。
「キャス!キャス!どこ?」
アンヌがワーウルフの群れの中を走っていく。
「アンヌ様!」
キャスが声を上げる。無事のようだ。アンヌと抱き合った。
「キャス!良かった。」
「アンヌ様、無茶をしてはいけません!私の後ろに隠れてください!」
アンヌはキャスの背中に隠れる。
バキッ!ドスッ!
キャスの拳がワーウルフを捉える。しかし、数が多すぎる。
「キャス!アンヌ!無事か?」
ゴラムがやってきた。
ワーウルフの返り血を浴びて、体が真っ赤に染まっている。
「みんな!伏せるのじゃ!ダークネス!!」
ミカが特大の魔法を繰り出した。
「伏せろー!!」
ゴラムがキャスとアンヌに覆いかぶさる。
もの凄い風圧に耐え、しばらくすると静寂が訪れた。
ゴラムがゆっくりと顔を上げる。
崖が丸い形にえぐられていて、ワーウルフの群れは跡形もなく消えていた。
「キャス!アンヌ!無事か!」
「大丈夫…。」
「無事よ、ゴラム。」
2人とも無事のようだ。
馬車では、ミカが得意げな表情で立っている。
「わらわの魔法のお陰で、また助かったのう!」
「ありがとう!ミカ!助かったよ。」
ゴラムが叫ぶ。
こうして、ワーウルフの群れは駆除された。
「ねえ、あれって。」
アンヌが指をさした方向に大きな肉片が転がっていた。ドラゴンの死骸だ。
どうやら、ドラゴンの死肉を食べていたのは、ワーウルフだったらしい。
ドラゴンの死骸にワーウルフの歯形が残っていた。

ドラゴンの死骸をゴラムが捌いて馬車に積んだ。
これを戦利品として持ち帰れば、皆喜ぶはずだ。
ゴラムたちはガルムヘルムへと向かった。

・・・その一部始終を見ている男がいた。
黒いヴェールを被ったその男は、ゴラムたちの乗った馬車を見送ると、
スーッとどこかへ消えてしまった。




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