5 / 19
第5話 謎の男ヴァルカ
しおりを挟むガルムヘルムの町に戻ったゴラムたちは、持ち帰ったドラゴンの肉をドラゴンの牙に持ち込んだ。
店の前では、店主が驚いた顔で出迎えた。
「おお!本当にドラゴンの肉を持ってきたのか!」
ゴラムは力強く頷き、馬車から大きな肉塊を降ろす。
「約束通りだ。これで店も助かるだろう?」
店主は感激し、店員たちを呼んで肉を運び入れた。
「今夜は盛大な宴を開こう!存分に楽しんでくれ!」
その夜。
ドラゴンの牙は、久しぶりのドラゴンの肉の入荷でお祭り騒ぎになっていた。
ゴラムたちも、テーブルを囲み、大皿に溢れんばかりのドラゴンの骨付き肉を前にしていた。
「さあ、食うぞ!」
ゴラムが豪快に肉にかぶりつく。
ミカもステーキにかぶりつき、満足げにうなった。
「これぞ至福の時じゃな。」
アンヌは、ナイフとフォークを手にして、ゆっくりと肉を味わう。
「美味しい!」
キャスは静かに杯を持ち上げ、微笑んだ。
「みんな、お疲れ様!」
その言葉に、ゴラムたちは杯を掲げ、笑顔で乾杯した。
隣のテーブルでは、銀髪の老人が一人で酒を飲んでいた。マントで隠れているが、その腕や足は筋骨隆々で、見た目の年齢には不似合いな雰囲気を醸し出している。さっきから、ちらちらとゴラムの方を見ているようだ。
隣の男の視線に気づいたゴラムが隣のテーブルの空いている席に座った。
「じいさん、さっきから俺の方を見てるけど、なんか付いてるか?」
ゴラムはかなり酔っぱらっている。
老人はゆっくりと杯を置き、低いしわがれた声で答えた。
「いや、知り合いに似てたもんだから、ついな。どうやら、人違いのようだ。」
「知り合いに似てる?ゴブリンなんてどこにでもいるだろう?」
老人は苦笑しながら首を振った。
「本当に悪かった。わしの知り合いには左腕に痣があるんだが。」
「左腕の痣?これのことか?」
ゴラムが左腕を男に見せると、老人の目の色が変わった。
「……あんた、その痣はいつから?」
「物心ついた時からあるよ。生まれつきじゃないか?それがどうかしたか?」
老人は一瞬考え込むように沈黙し、やがて低い声で言った。
「あんた、自分の生まれを調べてみな。南の古代遺跡に行ってみろ。」
ゴラムは怪訝な顔をしたが、老人の瞳にはただならぬ覚悟があった。
「わしはヴァルカ。きっとまた会うことになるだろう。じゃあな。」
それだけを言い残し、ヴァルカは静かに席を立って、酒場を後にした。
「なんだ?あのじいさん。」
ゴラムは不思議に思いながらも元の席に戻った。
「ゴラム、あのじいさんは知り合いだったのか?」
ミカが聞く。
「いや、でも俺の左腕の痣がなんとかって言ってたな。」
「左腕の痣?」
「これなんだけどよ。ガキのころからあるから気にしたことがなかったんだ。」
「こ、これは。。。」
「ミカ、何か知ってるのか?」
「いや、わらわは知らん。自分で調べろ。」
「なんだ?まあ、いいや。」
こうして夜が更けていった。
ゴラムはヴァルカと名乗る老人の言葉が気になっていた。
『自分の生まれを調べてみな。南の古代遺跡に行ってみろ。』
「よし、南へ向かおう。」
ゴラムの突然の提案に皆驚く。
「南に行ってどうするの?」
アンヌが尋ねる。
「まずは、ミルド村を経由して古代遺跡に行く。」
「古代遺跡?何か調べるのか?」
ミカが口をはさむ。
「酒場であったじいさんに、古代遺跡を調べろって言われたんだ。だから行く。」
「よくわからないけど、ゴラムが言うなら良いんじゃないかな。」
キャスが言う。
「そのあとは、サウザー国に向かう。」
「サウザー国?サウザン王子は苦手だなあ。」
アンヌが渋い顔でつぶやく。
「とにかく、まずはミルド村に向かおう。友達にも久しぶりに会いたいしな。」
「ケンタとリリアね!懐かしい。元気にしてるかしら?」
アンヌの目が輝く。
こうして、ゴラムたちは、南に向かって出発した。
平原を南に向かうこと数日。
小さな石造りの家が一軒、ポツンと建っているのが見えてきた。
あれは、魔法使いハックの家だ。
ハックは転生者ケンタ一行の一人で、ケンタをこの世界に転生させた魔法使い。その魔力はミカー魔王ミカエルーにも劣らないという噂だ。
ゴラムたちは、家の前に馬車を停めて、ハックの家を訪ねた。
トントン。
「ハック、居るか?俺だ、ゴラムだ。」
すると扉が開いて、中から白いひげを蓄えた老人が出てきた。
「おう、ゴラム、久しぶりじゃな。入りなさい。」
ゴラムたちは家の中へと招かれた。小さな部屋の奥には古い書物が並び、そこかしこに魔法の道具らしきものが転がっている。
「こんな所に何の用じゃ?」
ハックが尋ねる。
「旅の途中でよったんだ。ちょうど通り道だったからな。」
ゴラムはそう言いながら、部屋の様子を見渡した。
「旅か。ケンタたちとの旅が懐かしいのう。」
ハックは、遠い目をする。
「今回は、エルドランドのアンヌ王女の向学の旅の護衛だよ。」
ゴラムが説明すると、
アンヌ、キャスがハックに軽くお辞儀をした。
ミカは、居心地が悪そうにしている。
「これは、また珍しい組み合わせじゃな。」
ハックが微笑む。
「そうなんだ。でも、心強いよ。」
ゴラムたちとハックは、昔話に花を咲かせた。
「ケンタとリリアは、どうしてる?」
ゴラムが尋ねる。
「ミルド村で2人で暮らしてると聞いたがの。」
ハックが答えた。
「そうか。あの2人もいろいろあったからな。」
ゴラムは懐かしげに頷いた。
「ケンタとリリアにも会いに行くのか?」
「ああ、そのつもりだよ。」
「よろしく伝えてくれ。」
ハックは微笑んで言った。
「わかった。ありがとう。」
ハックとの再会を終え、ゴラムたちは再び馬車に乗り込み、ミルド村へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~
かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。
望んで召喚などしたわけでもない。
ただ、落ちただけ。
異世界から落ちて来た落ち人。
それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。
望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。
だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど……
中に男が混じっている!?
帰りたいと、それだけを望む者も居る。
護衛騎士という名の監視もつけられて……
でも、私はもう大切な人は作らない。
どうせ、無くしてしまうのだから。
異世界に落ちた五人。
五人が五人共、色々な思わくもあり……
だけれど、私はただ流れに流され……
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる