この世界の物語

濁った頭と君の言葉

よく晴れた空に入道雲が出てきた。








幸せな時間が僕と君の間を等速で通り過ぎていた。







「雨が降るよ」







君は天気の変化に敏感でよく空を見ていた。











ポツポツと降り出した雨を隠すように君がカーテンを閉めた。











「君は雨の日、頭痛くなるよね。もう少し寝よっか」










僕のことはなんでも知ってる。それが当たり前で不思議さはなかった。










でも僕は君のことをよく知らない。












君が好きな映画、君が好きな色、君が好きな食べ物。













「大丈夫だよ、私がそばにいるからゆっくり寝てね」














僕は君の声が好きだ。
どんな時も安心させてくれる。











君の温もりが好きだ。
手から伝わる暖かさが言葉にならない気持ちを伝えてくれる。










君の目が好きだ。
少しうつろだけど僕を見てくれる。











僕は君を好きだけど、君が誰なのか分からない。









恋人？友達？ルームメイト？








なんで僕の隣にいてくれるんだろう。










「また嫌なこと思い出しちゃった？」












「忘れてていいんだよ。そのために私がここにいるんだから」












「私のことだけ考えてね。私も君のことだけを考えてるよ」













「頭の中スッキリしようね」

















「ほら、ボーッとしてきたね。ゆっくり息してね」













なにも分からない。










分かるのは僕が君のことを好きなのと、君が僕のことを好きなこと。













「君が悪いんだよ？私と価値観が合わないなんて言って突き放そうとするから」




















「価値観なんて違くてもいいじゃん。お互いが好きならそれでいいでしょ？私のこと好きだよね？」













価値観？僕は君の価値観なんて知らない。


でも僕の価値観もわからない。












「私は君に何度も愛して欲しい。君の全てが私色に染まって欲しいな。それを理解できるようになるまで…」











なんて言ってたんだろう。君の言葉がわからない。









「愛してるって言ってよ。私が全てだって言ってよ。ねぇ、君は私の全てなんだよ？私と同じになってよ」










君の言葉が僕を縛り付ける。
君の言霊は鎖になり僕の心を覆い隠した










僕という魚は水を抜かれ、自らを魚だと分からなくなるほど狂ってしまった。