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1章 魔女狩り編
3 伯爵令嬢は公爵令嬢と恋の話をする
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セリーナは目の前にニコニコと座る人物を改めて見た。
豊かな稲穂の様に輝くブロンドの髪がふんわりと緩いウェーブを描いて流れ落ち、少し垂れ目気味の大きな瞳は、ブルーダイヤがそのまま埋め込まれているのではと思うほど、澄んだ水色をしており、瑞々しく品の良いローズの唇、頬は彼女の幸福を表しているかのようにベビーピンクに染まっている。
本当に物語のお姫様だわ。
いや、本物のお姫様か…。
セリーナがそう考え直したのも無理はない。
目の前に座るクラリス ハフトールは、ハフトール公爵家の令嬢にして、皇太子であるリード グリフィスの幼馴染として知られており、そして皇太子の婚約者候補の筆頭でもあった。
何故、正式な婚約ではなく、いつまでも候補となっているかという理由は誰も知らないが、それでも皇太子の婚約者となるにクラリスほど適任な人物は居なかった。
家柄、年齢、美貌、学力、社交力、性格に至るまで、クラリスほど完璧な人物は居ないと、皆が口々に噂をしていた。
皇太子に憧れるご令嬢方も、クラリスと自分を比べてしまえば、変な希望を持つ事も出来なかった。
そんな、将来この国王妃になるであろう人物が、ニコニコとした表情を崩さないまま、持ったティーカップをソーサーに戻してから、嬉しそうに口を開いた。
「どうか、私と好きな人が結ばれる為のおまじないを教えて欲しいの。」
好きな人と言われて、セリーナは真っ先にこの国の皇太子の顔を思い出した。
幼馴染であり、国民全員から公認されたカップルだ。
ただ、未だに正式な婚約に至っていない事を考えると、何か事情がある事は、噂に疎いセリーナにも推測出来た。
そして、クラリスはその状況を快く思っていない。
それこそ、噂で聞いたおまじないを頼りに、初対面のセリーナに声を掛ける程度には。
「わかりました。まずお二人それぞれのこと、そして二人揃っての相性を確認しますね。こちらの紙にお二人の生年月日をお書き下さい。」
サラサラと書かれる一人当たり5から7個の数字。
この生年月日をがセリーナの占いの基礎となる。
やっぱり…。と、セリーナは結果を前に満足げに頷いた。
「クラリス様は優しく、世話好きで、献身的に誰かに尽くす事が得意です。」
「まぁ、褒めてくれて嬉しいわ。」
ニコニコと笑うクラリスに、セリーナは続きを言っていいものか躊躇するが、占いはご機嫌取りの道具ではない。
真実を全て伝えてこそ、その先に小さな幸せを呼び込めるのだ。
「ただ、その献身に対して同等の見返りを求めがちです。計算高く、甘え上手なので希望通りの見返りを得る事も多いですが、それが得れない場合はとてもストレスを感じる…そんな性格をしてます。」
大きな瞳をさらに見開くクラリスに、セリーナは逃げ出そうかと少し後退るが、ガバッと手を握られた事で退路を絶たれた。
「素晴らしいです!お話しするのも今日が初めてなのに…ここまで私の事を理解して頂けるなんて!」
キラキラと輝くブルーダイヤモンドの瞳に、セリーナは思わず苦笑いを浮かべた。
「お相手の事も見ていきますね…。」
「えぇ、是非!」
「お相手は変化やスピードに強く、情報やコミュニケーションに長けています。気分の上下があり、自由を好むので…お立場によっては自分の立場を居心地悪く思うかもしれません。」
…ん?
これは誰の事だろう。
セリーナは手元にある生年月日の書かれた紙を見返したが、占いに間違いは見当たらない。
でも、あの皇太子の占い結果が自由や変化を表す「ターコイズの5」になるとは思っていなかった。
セリーナのイメージする我が国の皇太子は強い意志と自我を持ち、一見我儘に見えながらも、その持ち前の統率力で周りをまとめ上げていく…そんな人物だった。
占わずとも勝手に、リーダーシップの象徴である「赤の1」になるだろうと決め付けていたので、今回の結果は意外だった。
でも、王族ともなれば表の顔と裏の顔は違う物なのかも…。
私もまだまだ甘いな…。
人とは占いだけでは測れない事がある。
だからこそ面白いとセリーナは思っていた。
「その人物をよく知っているかのように的を得ています!」
幼馴染で、恋人のクラリスがそう言うのだから、間違いないのだろう。
思い返せば、この時に誤りに気付けば良かったのだが、その時のセリーナはクラリスの恋人と言えばリード グリフィスという、この国の者なら誰もが描く方程式を崩す事が出来なかった。
「お二人の相性は『協調』と出ています。お互いの性格が相まって、一緒に過ごすと穏やかな日常が得られます。色々な事を一緒に感じて共感する事を大切にして下さい。」
セリーナの言葉に、クラリスが花の咲いたように微笑んだ。
2人の相性はかなり良いと言えるだろう。
これなら、我が国の行末も安泰だ。
と、クラリスも嬉しくなり、占いを先に進めた。
「あっ、丁度今から1年くらいが2人揃って変化の時期ですね。オレンジ色が2人の変化をいい方向に導くので、手紙を出す時はオレンジ色の入った便箋を使って下さい。」
「まぁ、オレンジ!では、マリーゴールドの髪を持つセリーナ様のおまじないは、私達を幸せに導いて下さいますね!本当に凄いです。まるで魔法みたいですね。」
占い結果に満足した様子のクラリスを見て、自分自身も満足しているこの時のセリーナは、2つの事に気付けなかった。
1つはリード グリフィスだと思って占っていたクラリスの思い人が、隣国の王子という別人であった事。
もう1つはクラリスがこれから事あるごとに、セリーナの占いを「魔法のようだ」と言う事だった。
豊かな稲穂の様に輝くブロンドの髪がふんわりと緩いウェーブを描いて流れ落ち、少し垂れ目気味の大きな瞳は、ブルーダイヤがそのまま埋め込まれているのではと思うほど、澄んだ水色をしており、瑞々しく品の良いローズの唇、頬は彼女の幸福を表しているかのようにベビーピンクに染まっている。
本当に物語のお姫様だわ。
いや、本物のお姫様か…。
セリーナがそう考え直したのも無理はない。
目の前に座るクラリス ハフトールは、ハフトール公爵家の令嬢にして、皇太子であるリード グリフィスの幼馴染として知られており、そして皇太子の婚約者候補の筆頭でもあった。
何故、正式な婚約ではなく、いつまでも候補となっているかという理由は誰も知らないが、それでも皇太子の婚約者となるにクラリスほど適任な人物は居なかった。
家柄、年齢、美貌、学力、社交力、性格に至るまで、クラリスほど完璧な人物は居ないと、皆が口々に噂をしていた。
皇太子に憧れるご令嬢方も、クラリスと自分を比べてしまえば、変な希望を持つ事も出来なかった。
そんな、将来この国王妃になるであろう人物が、ニコニコとした表情を崩さないまま、持ったティーカップをソーサーに戻してから、嬉しそうに口を開いた。
「どうか、私と好きな人が結ばれる為のおまじないを教えて欲しいの。」
好きな人と言われて、セリーナは真っ先にこの国の皇太子の顔を思い出した。
幼馴染であり、国民全員から公認されたカップルだ。
ただ、未だに正式な婚約に至っていない事を考えると、何か事情がある事は、噂に疎いセリーナにも推測出来た。
そして、クラリスはその状況を快く思っていない。
それこそ、噂で聞いたおまじないを頼りに、初対面のセリーナに声を掛ける程度には。
「わかりました。まずお二人それぞれのこと、そして二人揃っての相性を確認しますね。こちらの紙にお二人の生年月日をお書き下さい。」
サラサラと書かれる一人当たり5から7個の数字。
この生年月日をがセリーナの占いの基礎となる。
やっぱり…。と、セリーナは結果を前に満足げに頷いた。
「クラリス様は優しく、世話好きで、献身的に誰かに尽くす事が得意です。」
「まぁ、褒めてくれて嬉しいわ。」
ニコニコと笑うクラリスに、セリーナは続きを言っていいものか躊躇するが、占いはご機嫌取りの道具ではない。
真実を全て伝えてこそ、その先に小さな幸せを呼び込めるのだ。
「ただ、その献身に対して同等の見返りを求めがちです。計算高く、甘え上手なので希望通りの見返りを得る事も多いですが、それが得れない場合はとてもストレスを感じる…そんな性格をしてます。」
大きな瞳をさらに見開くクラリスに、セリーナは逃げ出そうかと少し後退るが、ガバッと手を握られた事で退路を絶たれた。
「素晴らしいです!お話しするのも今日が初めてなのに…ここまで私の事を理解して頂けるなんて!」
キラキラと輝くブルーダイヤモンドの瞳に、セリーナは思わず苦笑いを浮かべた。
「お相手の事も見ていきますね…。」
「えぇ、是非!」
「お相手は変化やスピードに強く、情報やコミュニケーションに長けています。気分の上下があり、自由を好むので…お立場によっては自分の立場を居心地悪く思うかもしれません。」
…ん?
これは誰の事だろう。
セリーナは手元にある生年月日の書かれた紙を見返したが、占いに間違いは見当たらない。
でも、あの皇太子の占い結果が自由や変化を表す「ターコイズの5」になるとは思っていなかった。
セリーナのイメージする我が国の皇太子は強い意志と自我を持ち、一見我儘に見えながらも、その持ち前の統率力で周りをまとめ上げていく…そんな人物だった。
占わずとも勝手に、リーダーシップの象徴である「赤の1」になるだろうと決め付けていたので、今回の結果は意外だった。
でも、王族ともなれば表の顔と裏の顔は違う物なのかも…。
私もまだまだ甘いな…。
人とは占いだけでは測れない事がある。
だからこそ面白いとセリーナは思っていた。
「その人物をよく知っているかのように的を得ています!」
幼馴染で、恋人のクラリスがそう言うのだから、間違いないのだろう。
思い返せば、この時に誤りに気付けば良かったのだが、その時のセリーナはクラリスの恋人と言えばリード グリフィスという、この国の者なら誰もが描く方程式を崩す事が出来なかった。
「お二人の相性は『協調』と出ています。お互いの性格が相まって、一緒に過ごすと穏やかな日常が得られます。色々な事を一緒に感じて共感する事を大切にして下さい。」
セリーナの言葉に、クラリスが花の咲いたように微笑んだ。
2人の相性はかなり良いと言えるだろう。
これなら、我が国の行末も安泰だ。
と、クラリスも嬉しくなり、占いを先に進めた。
「あっ、丁度今から1年くらいが2人揃って変化の時期ですね。オレンジ色が2人の変化をいい方向に導くので、手紙を出す時はオレンジ色の入った便箋を使って下さい。」
「まぁ、オレンジ!では、マリーゴールドの髪を持つセリーナ様のおまじないは、私達を幸せに導いて下さいますね!本当に凄いです。まるで魔法みたいですね。」
占い結果に満足した様子のクラリスを見て、自分自身も満足しているこの時のセリーナは、2つの事に気付けなかった。
1つはリード グリフィスだと思って占っていたクラリスの思い人が、隣国の王子という別人であった事。
もう1つはクラリスがこれから事あるごとに、セリーナの占いを「魔法のようだ」と言う事だった。
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