前世占い師な伯爵令嬢は、魔女狩りの後に聖女認定される

皐月 誘

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1章 魔女狩り編

2 伯爵令嬢は公爵令嬢と出会う

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カタカタと小刻みに揺れる馬車に乗せられたセリーナは、可能な限り現実逃避しようと、現状とは全く関係ない事を考えていた。

途中で連れ出されたので、ドロシー嬢の恋の話を途中までしか聞けなかった。とか、
大好物のエクレアを、後からのお楽しみと思っていて食べ損ねた。とか、
今日は運気の上がる緑色を身に付け損ねたからだ…とか。

セリーナは大袈裟に溜息をついた。

駄目だ。状況が悪過ぎて、無関係な事を考えようにも限界があるわ。

そんなセリーナの様子を見て、皇太子の横に座る青銀の髪を持つ青年が口を開いた。

「そう心配しないで下さい。魔女狩りと言っても、王城にて生活をしてもらうだけです。少しの監視は付きますが…。ディベル伯爵夫妻にもご了承頂いてますのでご安心下さい。」

そう言って笑顔を見せるのは、皇太子であるリードの乳母兄弟であり、側近を務めるコーエン ブルーセンだ。

もし、私が心配から溜息ついていると思っているなら、相当なお人好しか、とんでもないお馬鹿さんだわ。

セリーナは心の中で悪態をつく。

「今の説明で何を安心しろと…。わぁ、火破りにされる訳でも、斬首されるわけでもないのね!とでも言って喜べば良いのかしら?」

心の中でついたはずの悪態が、完全に口から漏れ出してしまった。

ずっと窓の外を見ていたリードが視線だけでセリーナを睨み、そんなセリーナとリードの様子に、コーエンは苦笑いを浮かべた。

「気の強い魔女だな。」

リードが視線を窓の外に戻しながら、ボソリと呟いた。

「私は魔女ではありません。突然言い掛かりを付けられ、身柄を拘束されれば反抗したくもなります!」

そんなセリーナの言葉に、リードは窓の外を見続け、コーエンは微笑みを浮かべるだけだ。

「聞いてますか!?」

思わずセリーナの語気が強まる。

「…大きな声を出すな。それより、一つ質問に答えろ。何故、クラリスが隣国に行くよう手引きした?」

それより…じゃない!いい加減、こっちの話も聞け。この馬鹿王子!と、言いかけたセリーナは、リードからの問いと彼の表情に喉まで出ていた言葉を無理矢理飲み込んだ。

何故って言われても…。



「貴方がセリーナ ディベル様?」

あの日、クラリス ハフトールは自分が公爵家の令嬢であると言う事を全く鼻にかけた様子もないフレンドリーな笑顔で近付いてきた。

「クラリス様!」

セリーナが思わず声を上げたのも仕方がない。
筆頭公爵家と言われるハフトール家で、蝶よ花よと大切に育てられた彼女の事は、知らない者がいない程有名ではあるが、セリーナにとっては、物語の中の登場人物の様な存在なのだ。

そんなクラリス ハフトールが自分の名を呼び微笑み掛けている。

「セリーナ様…でしょう?」

キョトンと首を傾げる姿は、物語のお姫様の様に可憐だ。

可憐だが、お姫様に名前を覚えてもらう理由が一切思い当たらない。

「そ…そうです。私がセリーナ ディベルです。私にどの様な御用ですか?」

「やっぱり、貴方なのね!マリーゴールドのようなオレンジの髪と聞いていたから、そうじゃないかと思ったの!」

セリーナの手を取るクラリスの言葉に、セリーナは自分の髪を見た。

どう良く見ても、枯れ葉を少し明るくしたようなオレンジがかった髪は、茶色と呼ぶにも、金髪と呼ぶにも中途半端な色をしている。

これをマリーゴールドとは…最上位の貴族と言うのは美的感覚まで違うのだろうか。

「それで…。」

これだけニコニコと手を繋がれれば、流石に敵対心がない事はセリーナにだってわかる。

でも、大切な事なのでもう一度言うが、セリーナには公爵令嬢にここまで友好的に声を掛けられる理由が一切思い付かないのだ。

「貴方が恋のおまじないが得意だって聞いたのよ。侯爵家のキャロル様も貴方のお陰で素敵な恋人が出来たと皆に自慢していたわ!」

前のめりにそう言われれば、セリーナには後ろにのけ反りながら聞くしか選択肢がない。

それにしても…おまじない…か。

もちろん、話に出た侯爵令嬢のキャロル様の事はセリーナも記憶していた。

見た事もない婚約者と上手くやっていけるか心配だと言うので、2人の相性が悪くない事を伝え、初対面の際に「協調」や「調和」の意味を持つオリーブグリーンのハンカチーフを贈るようにアドバイスした。

それまでの心配は何だったのかと思える程仲良くやっているという手紙と、お礼の小さなブーケがキャロル様から届いたのは、まだまだ記憶に新しい。

あのアドバイスがおまじないとして伝わっているのか。

段々と状況が読めて来たセリーナは、本来の落ち着きを取り戻していた。

ここまで来れば、クラリスが次に言う事も大体想像がつく。

「是非、私にも恋のおまじないを教えて下さい。」

それは、数字や色の力を使わなくても、簡単に導ける答えだった。
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