前世占い師な伯爵令嬢は、魔女狩りの後に聖女認定される

皐月 誘

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1章 魔女狩り編

13 伯爵令嬢は勧誘される

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それから1週間程が過ぎた。
セリーナは家に帰して貰える事はなかったが、例の塔内のエレベーターの鍵を貸し与えられ、塔と地上を自由に行き来出来るようになっていた。

リリアの様子が気になり、毎日のように見舞いに行きたがるセリーナに、コーエンが手配してくれたのだ。

夕方までに戻るなら、城の外に出ても構わないとコーエンは言っていたが、それによりリードにあらぬ疑いを掛けられるくらいなら、今はリリアの元へ見舞いに通えるだけで十分だと、セリーナは自ら王城の外へ出る事はしなかった。

「今日はだいぶ顔色がいいですね、リリア様。」

セリーナがベッドサイドの椅子に腰掛けて言うと、リリアはいつもと変わらぬ笑顔で応えた。
いや、普段なら青白い顔が、今日はピンクに見える。

部屋は窓が開け放たれ、外の空気をふんだんに取り入れており、コーエンが運び込んだ観葉植物がそよそよと風に揺れていた。

「セリーナさんのお陰ね。最近、本当に気分がいいの!コーエンが飲ませようとする緑のジュース以外はね。」

リリアが笑うので、セリーナも一緒になって声を出して笑った。

緑の食べ物も良いと聞いたコーエンが、ありとあらゆる緑の食べ物を食べやすいようにとすり潰した特性ジュースは、味も見た目も残念な物だった。

「それだけリリア様の事が大切なんですよ。そこのお花もコーエン様が?」

リリアのベットサイドのテーブルに置かれた花は、可愛らしい野の草花で、誰かが摘んで来たことが一目でわかった。

「それはリード殿下が持って来て下さったのよ。」

嬉しそうにそう答えるリリアを、セリーナは驚きの表情で見た。

「やるなら勝手にやれ。」

1週間前にこの部屋で怒ったように言い放っていた、あのリードが自ら野花を摘んで来たのだと聞けば、驚くどころか、信じられない気持ちの方が強い。

「ふふふ、驚いた顔ね。リード殿下は言葉の選び方は…ちょっと良くない所があるけど、とっても素直なのよ。」

セリーナは素直なリードを想像しようとしたが、頭がショートしそうな程難しかったので、早々に諦めた。

「はぁ、そうですか…。ところで、コーエン様が領地に居るお父上に手紙を書かれたと聞きました。」

今回、占いをする事になった経緯や、その結果リリアの体調が良くなっている事、そして、可能であればブルーセン子爵領に戻って療養を考えている事など、コーエンが父親と相談する為に手紙を出したと言っていたのは3日前だ。

領地に戻る事を検討してもいい程にリリアの体調は回復の兆しを見せていた。

早ければその手紙の返事が来ているかもしれない。

「そうなの!主人が王城まで来てくれる事になって…明日、子爵領へ戻るわ。」

「明日ですか!」

早ければ返事が来ているだろうと思ったが、もう出立の日取りまで整っているとは、流石のセリーナも驚いた。

それだけ、リリアが皆に愛され、心配されている証拠なのだろう。

毎日のように顔を合わせ、言葉を交わせば、交わすほどリリアの魅力的な人柄はセリーナを魅了していた。

「本当に良かったです!きっと子爵領に戻ったらもっと元気になりますよ!私は…お会い出来なくて寂しくなりますが…。」

喜んで見送らなくてはいけないとわかっていても、セリーナにとってリリアとの別れは寂しいものだ。
特にセリーナにとって、王城内に話し相手と言える相手はリリアとコーエンくらいなのだ。

「大丈夫よ。セリーナさんもすぐにお家に帰れるわ。リード殿下にも私がビシッと言いますからね。」

「リリア様、ありがとうございます。」

「それに、ブルーセン子爵領にも遊びに来て。本当に何もない田舎なんだけど、セリーナさんが来てくれるなら木のみを使った美味しいタルトの焼き方を教えてあげるわ。私、娘が居ないから…あっ、それもいいわね。ブルーセン家にお嫁にきてくれてもいいわよ!」

楽しくてたまらないと言った様子で、リリアがとんでもない発言をしてくる。

「お嫁!?」

それはセリーナがうっかり敬語を忘れ去るほどの破壊力だ。

「そう。コーエンのお嫁さん…嫌かしら?あっ、コーエンは次男で、セリーナさんにはご兄弟が居ないから、コーエンがディベル伯爵家に婿に入る事になるのね。…まぁ、私の義娘になる事には変わりないものね。」

自分の母とそう歳が変わらないはずなのに、嬉々としたリリアの様子は少女のように可憐で、セリーナは唖然とする。

「いえ…嫌と言うわけでは…。」

どこの世界に母親に向かって、貴方の息子は嫌だと言える人間が居るだろう。

そもそもセリーナはコーエンを全くと言っていい程、異性として意識して居なかった。
良いとか、嫌だとか、そんな話の遥か手前に居るのだ。

リリアにもそんなセリーナの様子が伝わったようだ。

「我が息子ながら、なかなかお勧めなのよ。是非考えておいて欲しいわ。」

強く押すわけではないが、自分の希望をしっかり伝えて来るリリアに、セリーナはタジタジとなり、返事も覚束ない。

そんなセリーナの様子を、リリアが我が子を見守るような温かな視線で見守っていた。
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