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2章 聖女のお仕事編
2 伯爵令嬢は過労死に怯える
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「早速、初仕事だ。明日、ボーランド地区へ行くぞ。」
「は…?」
目の前で偉そうにふんぞり返るリードを見て、セリーナはそれ以上の言葉が出なかった。
今日の午前中に城内の何やら豪華な部屋で、聖女の任命式なるものがあり、つい数時間前までは冗談だと思っていた聖女と言うものに、本当に任命された。
国王陛下の印の押された任命書を渡されれば、流石のセリーナもそれを現実として受け止めざるを得ない。
そして、塔に戻ってリードとコーエンより、自分の処遇について詳しく説明を受けた。
説明の間、リードは何をしに来たのかと思うほど、ふんぞり返って傍観に徹していたが、昨日の事を思い返せば、恥ずかしくてコーエンの顔など見れるはずもなく…リードに感謝するなど癪ではあるが、それでも誰か居てくれる事に、コーエンと2人っきりではないと言う事実に感謝していた。
そんな置き物同然に考えていたリードがやっと口を開いたと思えば、冒頭の一言だ。
「何だ…理解力まで乏しいのか?」
魔女と呼ばれようが、聖女に任命されようが、この皇太子の態度だけは一向に変わる気配がない。
セリーナもそれについては既に諦めている。
「ご自分の説明力の不足を棚に上げて、よくそんな事が言えるわね。」
セリーナだって、王族は敬うべきものだという常識はある。
それでも、この皇太子に対してはお断りだ。
魔女狩りなどと言って、生命を脅かされれば、敬う気持ちなど消えて当然だ。
そもそも、敬語を使おうが、使うまいが、彼に気に入られてない事は明らかだし、必要性を感じない。
「…」
「…」
二人の間に沈黙が広がる。
それも当然の会話のやり取りだった。
むしろ、普段通りの様子で二人の沈黙に割って入ったコーエンが強者なのだろう。
「では、私から説明致しますね。セリーナ嬢は以前話したボーランド地区の水害の問題を覚えてますか?」
コーエンの言葉に、セリーナはゆっくりと首を縦に振った。
王家が管理するボーランド地区では、雨季と乾季の差が激しく、雨季には洪水被害が村を襲い、乾季には水不足で田畑が干上がり、作物が育たない状況が続いている。
そう説明を受けたのはまだまだ記憶に新しい。
でも…今、初仕事って言わなかった?
セリーナは頭に浮かんだ疑問をコーエンに投げかける。
「覚えているけど…水害問題は私の占いでは解決が難しいって伝えたわよね?」
そう。個人ごとに過去や未来を見れる占いでは、水害問題のような天災とも言える事象を解決する事が出来ない。
まさか…聖女と名付けたから、本当に祈りか何かの力を手に入れたと勘違いされているのでは…?
聖女と言う肩書きだって、コーエンの思い付きで半ば強引に付けられたものだ。
更にそんな理解不能なプレッシャーを掛けられては堪ったもんじゃない。
「人の事であれば占えるのだろう?」
一人青ざめるセリーナに答えたのは、コーエンではなくリードだった。
「そりゃ…人の事なら占えるけど…。」
「なら、ボーランド地区へ行って領民を一人ずつ占え。」
「なっ…私の事、過労死させる気!?」
ボーランド地区の事はそこまで詳しくないが、村を形成してるのだから、その人口も相当数だろう。
それを一人ずつ占うなど、悪い冗談か…、でなければ、嫌がらせだ。
「セリーナ嬢、残念ながらこれは正式なお仕事の依頼です。何も1日で全員を占えと言っている訳ではありません。我々も一緒に1週間ほどあちらに滞在して、視察と占いで問題解決を図れれば…と思っています。」
コーエンの説明に、冗談でない事はセリーナにもわかった。
でも、やはりリードの嫌がらせだろう。
しかも、リードとコーエンも一緒に行くらしい。
1週間もこの2人顔を合わせっぱなしなど…。
自分の感情が浮き沈みにより壊れて馬鹿になるのではないだろうか。
リードと話せば、腹の立つ事しか言わないし、コーエンとはどんな顔をして話せば良いのか、わからないのだ。
そんな2人と1週間…。
想像するまでもなく辛過ぎる。
何と悪質な嫌がらせだろう。
チラリとリードを見れば、向こうもこちらの視線に気付き睨み返した。
「お前に拒否権はない。聖女として存分に働け。出発は明朝だ。」
やはり、嫌がらせに間違いない。
セリーナは、言いたいことだけを言って、ズカズカと部屋から去っていくリードの背中を見えなくなるまで睨み続けた。
「は…?」
目の前で偉そうにふんぞり返るリードを見て、セリーナはそれ以上の言葉が出なかった。
今日の午前中に城内の何やら豪華な部屋で、聖女の任命式なるものがあり、つい数時間前までは冗談だと思っていた聖女と言うものに、本当に任命された。
国王陛下の印の押された任命書を渡されれば、流石のセリーナもそれを現実として受け止めざるを得ない。
そして、塔に戻ってリードとコーエンより、自分の処遇について詳しく説明を受けた。
説明の間、リードは何をしに来たのかと思うほど、ふんぞり返って傍観に徹していたが、昨日の事を思い返せば、恥ずかしくてコーエンの顔など見れるはずもなく…リードに感謝するなど癪ではあるが、それでも誰か居てくれる事に、コーエンと2人っきりではないと言う事実に感謝していた。
そんな置き物同然に考えていたリードがやっと口を開いたと思えば、冒頭の一言だ。
「何だ…理解力まで乏しいのか?」
魔女と呼ばれようが、聖女に任命されようが、この皇太子の態度だけは一向に変わる気配がない。
セリーナもそれについては既に諦めている。
「ご自分の説明力の不足を棚に上げて、よくそんな事が言えるわね。」
セリーナだって、王族は敬うべきものだという常識はある。
それでも、この皇太子に対してはお断りだ。
魔女狩りなどと言って、生命を脅かされれば、敬う気持ちなど消えて当然だ。
そもそも、敬語を使おうが、使うまいが、彼に気に入られてない事は明らかだし、必要性を感じない。
「…」
「…」
二人の間に沈黙が広がる。
それも当然の会話のやり取りだった。
むしろ、普段通りの様子で二人の沈黙に割って入ったコーエンが強者なのだろう。
「では、私から説明致しますね。セリーナ嬢は以前話したボーランド地区の水害の問題を覚えてますか?」
コーエンの言葉に、セリーナはゆっくりと首を縦に振った。
王家が管理するボーランド地区では、雨季と乾季の差が激しく、雨季には洪水被害が村を襲い、乾季には水不足で田畑が干上がり、作物が育たない状況が続いている。
そう説明を受けたのはまだまだ記憶に新しい。
でも…今、初仕事って言わなかった?
セリーナは頭に浮かんだ疑問をコーエンに投げかける。
「覚えているけど…水害問題は私の占いでは解決が難しいって伝えたわよね?」
そう。個人ごとに過去や未来を見れる占いでは、水害問題のような天災とも言える事象を解決する事が出来ない。
まさか…聖女と名付けたから、本当に祈りか何かの力を手に入れたと勘違いされているのでは…?
聖女と言う肩書きだって、コーエンの思い付きで半ば強引に付けられたものだ。
更にそんな理解不能なプレッシャーを掛けられては堪ったもんじゃない。
「人の事であれば占えるのだろう?」
一人青ざめるセリーナに答えたのは、コーエンではなくリードだった。
「そりゃ…人の事なら占えるけど…。」
「なら、ボーランド地区へ行って領民を一人ずつ占え。」
「なっ…私の事、過労死させる気!?」
ボーランド地区の事はそこまで詳しくないが、村を形成してるのだから、その人口も相当数だろう。
それを一人ずつ占うなど、悪い冗談か…、でなければ、嫌がらせだ。
「セリーナ嬢、残念ながらこれは正式なお仕事の依頼です。何も1日で全員を占えと言っている訳ではありません。我々も一緒に1週間ほどあちらに滞在して、視察と占いで問題解決を図れれば…と思っています。」
コーエンの説明に、冗談でない事はセリーナにもわかった。
でも、やはりリードの嫌がらせだろう。
しかも、リードとコーエンも一緒に行くらしい。
1週間もこの2人顔を合わせっぱなしなど…。
自分の感情が浮き沈みにより壊れて馬鹿になるのではないだろうか。
リードと話せば、腹の立つ事しか言わないし、コーエンとはどんな顔をして話せば良いのか、わからないのだ。
そんな2人と1週間…。
想像するまでもなく辛過ぎる。
何と悪質な嫌がらせだろう。
チラリとリードを見れば、向こうもこちらの視線に気付き睨み返した。
「お前に拒否権はない。聖女として存分に働け。出発は明朝だ。」
やはり、嫌がらせに間違いない。
セリーナは、言いたいことだけを言って、ズカズカと部屋から去っていくリードの背中を見えなくなるまで睨み続けた。
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