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2章 聖女のお仕事編
1 皇子は伯爵令嬢を聖女に認定する
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こんな女が国の聖女とは…。
リードはつい先程、自らが聖女に任命した伯爵家の令嬢、セリーナ ディベルを一瞥した。
彼女は紛れもなく魔女であり、間違っても聖女などにするつもりは無かった。
そもそも、聖女などという身分制度は、我がグリフィス王国には存在しないのだから、当然だ。
それをコーエンが俺の説得や、国王陛下への説明、彼女の処遇の交渉まで、いつになく張り切ってこなした為に、わずか1日でセリーナを聖女に認定する支度が整ったのだ。
リードは再度、セリーナに視線をやった。
賑やかなオレンジ色の髪に、同系色のキャメル色の瞳がキリっと彼女の性格を表しているようだ。
そんな彼女は、コーエンの説明を聞いているのか、居ないのか、ずーっと膝の上で組んだ手に視線を落としている。
珍しく大人しい。
「セリーナ嬢には引き続き、この塔にて生活を続けていただきます。本日の午後にでも、ディベル邸からお荷物を運ぶ馬車を手配致します。この塔を生活の場にしてもらうとは言っても、日中は自由に外出頂けますし、事前に許可を取っていただければ、実家への外泊も可能です。」
「…はい。」
破格の待遇だと思うが、セリーナは喜ぶ様子もなく、依然視線を落としたままだ。
そんなセリーナの様子に、リードはふんっと鼻を鳴らした。
「セリーナ嬢には要請があれば、占いをしてもらいます。その代わり、衣食住の一切は王城で責任を持たせていただきます。そう考えれば、城の女官や行儀見習いと似たような立場です。それに、セリーナ嬢の功績が大きければ、ご実家であるディベル伯爵家にも何かしらの恩賞があるでしょう。いかがですか?」
「はい…、わかりました。」
そう言って、コーエンに視線を向けたセリーナの頬が明らかに赤く染まっている。
そんな彼女にコーエンが人の良さそうな笑顔で微笑み返すが、彼の人となりをよく知るリードには腹黒いものにしか見えない。
そして、この良く見かける光景にリードは何となく状況が掴めて、再び鼻を鳴らした。
魔女はコーエンに惚れたか…。
彼女がコーエンに向ける視線は、夜会などでコーエンに気のある令嬢が彼に向ける…まさに、それだった。
そもそも、コーエンに魔女を篭絡しろと命じたのはリードだった。
コーエンの奴、罪人に手を出すなど、ありえないと言いながら…。
その手腕の良さに、彼が自分の敵でない事に密かに安堵する。
それにしても…セリーナ ディベル。
皇太子である俺に対して、あんな口を聞くくらいだから、どれだけ大した奴かと思ったら…くだらん。
リリアの一件を通して、彼女を認めるべきか、どうか…。
聖女に任命しながらも、なお揺れていたリードの心は、目の前で繰り広げられる甘ささえ感じる状況にネガティブな印象へと大きく修正された。
まぁ、コーエンに惚れているなら、下手に反抗もして来ないだろう。
「おい、魔女。」
そう呼べば、先程コーエンに向けていた視線は幻かと思うほど、苦々しげな視線がセリーナから送られて来る。
「リード殿下。もはや、セリーナ嬢は魔女ではありません。呼ぶなら聖女と…。」
リードが嫌がるのをわかっていて、笑顔で言ってくるコーエンの腹黒さを考えれば、これ以上魔女と呼び続けるのは得策ではないだろう。
「聖女などと呼ぶものか。おい、セリーナ ディベル。」
「何でしょうか?リード殿下。」
型に嵌めたような彼女の敬語も、こちらを敬う気は一切なく、嫌味の一環として使用されている物だと思えば、益々彼女の評価が下がっていく。
あとで、その辺のしつけをしっかりするように、コーエンに伝えなくては…。
リードはそう心に留めて、話を続ける事にした。
「早速、初仕事だ。明日、ボーランド地区へ行くぞ。」
「は…?」
セリーナの間抜けと言って差し支えない表情を見て、リードは再び鼻を鳴らすのだった。
リードはつい先程、自らが聖女に任命した伯爵家の令嬢、セリーナ ディベルを一瞥した。
彼女は紛れもなく魔女であり、間違っても聖女などにするつもりは無かった。
そもそも、聖女などという身分制度は、我がグリフィス王国には存在しないのだから、当然だ。
それをコーエンが俺の説得や、国王陛下への説明、彼女の処遇の交渉まで、いつになく張り切ってこなした為に、わずか1日でセリーナを聖女に認定する支度が整ったのだ。
リードは再度、セリーナに視線をやった。
賑やかなオレンジ色の髪に、同系色のキャメル色の瞳がキリっと彼女の性格を表しているようだ。
そんな彼女は、コーエンの説明を聞いているのか、居ないのか、ずーっと膝の上で組んだ手に視線を落としている。
珍しく大人しい。
「セリーナ嬢には引き続き、この塔にて生活を続けていただきます。本日の午後にでも、ディベル邸からお荷物を運ぶ馬車を手配致します。この塔を生活の場にしてもらうとは言っても、日中は自由に外出頂けますし、事前に許可を取っていただければ、実家への外泊も可能です。」
「…はい。」
破格の待遇だと思うが、セリーナは喜ぶ様子もなく、依然視線を落としたままだ。
そんなセリーナの様子に、リードはふんっと鼻を鳴らした。
「セリーナ嬢には要請があれば、占いをしてもらいます。その代わり、衣食住の一切は王城で責任を持たせていただきます。そう考えれば、城の女官や行儀見習いと似たような立場です。それに、セリーナ嬢の功績が大きければ、ご実家であるディベル伯爵家にも何かしらの恩賞があるでしょう。いかがですか?」
「はい…、わかりました。」
そう言って、コーエンに視線を向けたセリーナの頬が明らかに赤く染まっている。
そんな彼女にコーエンが人の良さそうな笑顔で微笑み返すが、彼の人となりをよく知るリードには腹黒いものにしか見えない。
そして、この良く見かける光景にリードは何となく状況が掴めて、再び鼻を鳴らした。
魔女はコーエンに惚れたか…。
彼女がコーエンに向ける視線は、夜会などでコーエンに気のある令嬢が彼に向ける…まさに、それだった。
そもそも、コーエンに魔女を篭絡しろと命じたのはリードだった。
コーエンの奴、罪人に手を出すなど、ありえないと言いながら…。
その手腕の良さに、彼が自分の敵でない事に密かに安堵する。
それにしても…セリーナ ディベル。
皇太子である俺に対して、あんな口を聞くくらいだから、どれだけ大した奴かと思ったら…くだらん。
リリアの一件を通して、彼女を認めるべきか、どうか…。
聖女に任命しながらも、なお揺れていたリードの心は、目の前で繰り広げられる甘ささえ感じる状況にネガティブな印象へと大きく修正された。
まぁ、コーエンに惚れているなら、下手に反抗もして来ないだろう。
「おい、魔女。」
そう呼べば、先程コーエンに向けていた視線は幻かと思うほど、苦々しげな視線がセリーナから送られて来る。
「リード殿下。もはや、セリーナ嬢は魔女ではありません。呼ぶなら聖女と…。」
リードが嫌がるのをわかっていて、笑顔で言ってくるコーエンの腹黒さを考えれば、これ以上魔女と呼び続けるのは得策ではないだろう。
「聖女などと呼ぶものか。おい、セリーナ ディベル。」
「何でしょうか?リード殿下。」
型に嵌めたような彼女の敬語も、こちらを敬う気は一切なく、嫌味の一環として使用されている物だと思えば、益々彼女の評価が下がっていく。
あとで、その辺のしつけをしっかりするように、コーエンに伝えなくては…。
リードはそう心に留めて、話を続ける事にした。
「早速、初仕事だ。明日、ボーランド地区へ行くぞ。」
「は…?」
セリーナの間抜けと言って差し支えない表情を見て、リードは再び鼻を鳴らすのだった。
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