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2章 聖女のお仕事編
8 伯爵令嬢は村の青年を占う
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これは…警戒されてるわね。
セリーナは青年の反応を冷静に観察していた。
「今日はお越し頂き、ありがとうございます。まずは座って下さい。」
微動だにしない青年にセリーナは慎重に言葉を選んだ。
青年はセリーナから視線を外す事なく、それでも言われた通りにゆっくりと椅子に腰掛けた。
「昨日もお会いしましたね。」
セリーナは共通の話題から入るようにした。
ほぼ初対面の相手であるが、占いだけでなく、人付き合い全般において共鳴する事、相手と共感する事はとても重要な要素なので、セリーナは普段からそれを心掛けて実施していた。
「貴女が…聖女だなんて思わなくて。聖女って、こう…もっと…その…柔らかい雰囲気の人かと。」
青年は言葉に詰まりながらも入室してから初めて口を開いた。
その内容は取りようによっては侮辱とも取れるが、彼の瞳を見れば悪意からの発言でないことが見て取れる。
確かにセリーナはお世辞にも柔らかい雰囲気ではない。
オレンジ色の髪も、釣り上がった目も…どちらかと言うと柔らかいとは真逆の印象だろう。
「そうよね。私もこの聖女って肩書はあまり好きじゃないわ。人が勝手に付けた物だから…。」
例えば、クラリスの様な雰囲気なら聖女と言うだけで納得しただろう。
咄嗟に遠く異国に嫁いでいった友人の柔らかい笑顔を思い出す。
セリーナはそこから意識して言葉を崩す事にした。
明らかに身分の上であるセリーナに敬語を使わないと言うのは、反抗からではなく、そもそも敬語を使う習慣がない可能性もあると思ったからだ。
「そうなのか…?」
青年は警戒深くセリーナを見た。
貴族の言う事を間に受けて、痛い目に合うなんて溜まったもんじゃない…とでも言いたげだ。
「ええ、貴方も好きに呼べばいいわ。偽聖女でも…そう言えば、皇太子殿下は私の事を魔女と呼んでいたわ。」
相手の警戒心を解くために、セリーナは戯けたような表情で言えば、青年の表情も少しづつ柔らかい物に変わっていく。
「魔女…、それなら納得だ。」
「ちょっと、皇太子殿下と同じくらい失礼な人ね。」
ふっ…と先に笑ったのはどちらだろうか。
みるみるうちに2人の間に笑いが広がり、最初のピリついた雰囲気が嘘のようだ。
「私はセリーナ ディベル。本当のところは魔女でも、聖女でもないわ。」
「俺はアルフ。」
アルフと名乗った青年は、入って来た時と別人のように笑った。
「よろしくね、アルフ。早速だけど、私は生年月日を元に、その人の人生や…本人でも気付かない本当の自分という物を導き出す占いという物をしているの。早速だけど、この紙に生年月日を書いてくれる?」
「何だそれ…益々胡散臭いな…。」
小声でボヤきながらも、セリーナから紙とペンを受け取り、サラサラと数字を書き出すアルフの様子は、これから友人の下手な手品を見せられるかの様な様子だ。
例え占いが当たろうが、外れようが気にしない事だろう。
もちろん、だからと言って占いを外すようなセリーナではないが。
「アルフの基礎となる数字は7よ。司る色はバイオレット。珍しい訳じゃないけど…この村では初めて会ったかも。」
返ってきた紙に、サラサラと何かを書き足しながらセリーナが気付いた事をそのまま口にしていく。
「へぇ、この村では異端児ってわけ?」
アルフは揶揄うように声を上げた。
「まぁ、異端児…って言い方も出来るのかしら。確かにこの村には同じ7の数字を持つ村民は居ないし、そこに貴方が1人居たら…うん、多少は浮くかもね。この数字の持ち主は浮世離れしていて、他人にどう思われてもあまり気にしない節はあるわね。アルフもそうでしょ?」
「へぇ…意外。でたらめに言ってるって訳じゃないんだな。」
「占いはれっきとした統計学よ。でたらめに言おうと思っても、蓄積されたデータと言う結果が既にそこにあるんだから…私が占いを外す時は、データ不足か、嘘を付いている時だけよ。」
セリーナもアルフの揶揄いに便乗するように挑戦的に微笑んだ。
「なるほどね。確かに、その占いとやらは合ってるよ。俺は確かに村では浮いた存在だ。」
アルフはその事実を恥ずかしがる様子も、悔しがる様子もなく、ただ事実として告げた。
これは真性の7の性格だ…。
人は少なくとも、他人から自分がどう見えるのかを気にする生き物だ。
同じ7の数字を結果とする者でも、育った環境などによって、その度合いは前後する。
しかし、アルフは本当に他人など気にして居ないのだ。
「浮いた存在かもしれないけど、他人を気にしない利点もあるわ。探究心よ。」
「探究心?」
「ええ、アルフは何かを深く突き詰める事に向いてるわ。そして、誰も思い付かないようなアイディアを思い付く力も持っているわ。研究者や発明家向きね。」
ふーん、アイディアねぇ…と、相槌のように繰り返しているアルフを見て、セリーナは突如湧き上がった閃きに、思わずテーブルに手を付き立ち上がった。
「うわっ…突然なに?」
目の前に座っていた人物が突如立ち上がり、前のめりにこちらを覗き込んで居るとなれば、アルフの驚いた反応は至極当然だ。
そんなアルフの様子に構う事なく、セリーナは興奮気味に告げた。
「ねぇ、この水害を解決する方法をアルフも一緒に考えてくれない?」
その時のセリーナの瞳はティナにも負けない程キラキラと輝いている。
「いや…、俺には無理だよ。」
セリーナの勢いに完全に押され気味のアルフではあるが、こういう時でも嫌なことは嫌だと、無理なことは無理だと言えるのが7の数字の特徴だ。
「貴方ほど適任な人はいないわ!」
「解決って言ったって…。」
逃すまいと更に前へと身を乗り出すセリーナに、アルフは中途半端に言葉を切った。
その言葉の不自然な途切れ具合に、セリーナもアルフの言葉の続きを待つ形となり、先程までの興奮とは打って変わって、沈黙が部屋を支配する。
その時、セリーナはアルフの表情を見て気付いた。
これはセリーナの突然の提案に困惑している沈黙ではない。アルフが何かを思案している沈黙だと。
「もしかして…何かアイディアがあるの?」
占いではなく、ただ直感でセリーナはそう思った。
ただ、その直感が当たっている事は、目の前のアルフの反応で明白だ。
「いや…違う、これはそんなんじゃ…。」
何の解決策もないまま闇雲に占っていたセリーナにとって、的外れだろうが、何だろうが、新しい意見はとてつもなく貴重なものだ。
「どんな話だっていいの!聞かせて!」
だから、セリーナは興奮で忘れていた。
7の数字を持つ者の大切な特徴を。
「何もアイディアなんて無いって言ってるだろっ!占いってのが終わったなら、もう行くから。」
この数字の者は、他の人に無理強いされるのを何よりも嫌う。
その事を思い出したセリーナは、彼を引き止める言葉も思い付かないままアルフの背中を見送るのだった。
セリーナは青年の反応を冷静に観察していた。
「今日はお越し頂き、ありがとうございます。まずは座って下さい。」
微動だにしない青年にセリーナは慎重に言葉を選んだ。
青年はセリーナから視線を外す事なく、それでも言われた通りにゆっくりと椅子に腰掛けた。
「昨日もお会いしましたね。」
セリーナは共通の話題から入るようにした。
ほぼ初対面の相手であるが、占いだけでなく、人付き合い全般において共鳴する事、相手と共感する事はとても重要な要素なので、セリーナは普段からそれを心掛けて実施していた。
「貴女が…聖女だなんて思わなくて。聖女って、こう…もっと…その…柔らかい雰囲気の人かと。」
青年は言葉に詰まりながらも入室してから初めて口を開いた。
その内容は取りようによっては侮辱とも取れるが、彼の瞳を見れば悪意からの発言でないことが見て取れる。
確かにセリーナはお世辞にも柔らかい雰囲気ではない。
オレンジ色の髪も、釣り上がった目も…どちらかと言うと柔らかいとは真逆の印象だろう。
「そうよね。私もこの聖女って肩書はあまり好きじゃないわ。人が勝手に付けた物だから…。」
例えば、クラリスの様な雰囲気なら聖女と言うだけで納得しただろう。
咄嗟に遠く異国に嫁いでいった友人の柔らかい笑顔を思い出す。
セリーナはそこから意識して言葉を崩す事にした。
明らかに身分の上であるセリーナに敬語を使わないと言うのは、反抗からではなく、そもそも敬語を使う習慣がない可能性もあると思ったからだ。
「そうなのか…?」
青年は警戒深くセリーナを見た。
貴族の言う事を間に受けて、痛い目に合うなんて溜まったもんじゃない…とでも言いたげだ。
「ええ、貴方も好きに呼べばいいわ。偽聖女でも…そう言えば、皇太子殿下は私の事を魔女と呼んでいたわ。」
相手の警戒心を解くために、セリーナは戯けたような表情で言えば、青年の表情も少しづつ柔らかい物に変わっていく。
「魔女…、それなら納得だ。」
「ちょっと、皇太子殿下と同じくらい失礼な人ね。」
ふっ…と先に笑ったのはどちらだろうか。
みるみるうちに2人の間に笑いが広がり、最初のピリついた雰囲気が嘘のようだ。
「私はセリーナ ディベル。本当のところは魔女でも、聖女でもないわ。」
「俺はアルフ。」
アルフと名乗った青年は、入って来た時と別人のように笑った。
「よろしくね、アルフ。早速だけど、私は生年月日を元に、その人の人生や…本人でも気付かない本当の自分という物を導き出す占いという物をしているの。早速だけど、この紙に生年月日を書いてくれる?」
「何だそれ…益々胡散臭いな…。」
小声でボヤきながらも、セリーナから紙とペンを受け取り、サラサラと数字を書き出すアルフの様子は、これから友人の下手な手品を見せられるかの様な様子だ。
例え占いが当たろうが、外れようが気にしない事だろう。
もちろん、だからと言って占いを外すようなセリーナではないが。
「アルフの基礎となる数字は7よ。司る色はバイオレット。珍しい訳じゃないけど…この村では初めて会ったかも。」
返ってきた紙に、サラサラと何かを書き足しながらセリーナが気付いた事をそのまま口にしていく。
「へぇ、この村では異端児ってわけ?」
アルフは揶揄うように声を上げた。
「まぁ、異端児…って言い方も出来るのかしら。確かにこの村には同じ7の数字を持つ村民は居ないし、そこに貴方が1人居たら…うん、多少は浮くかもね。この数字の持ち主は浮世離れしていて、他人にどう思われてもあまり気にしない節はあるわね。アルフもそうでしょ?」
「へぇ…意外。でたらめに言ってるって訳じゃないんだな。」
「占いはれっきとした統計学よ。でたらめに言おうと思っても、蓄積されたデータと言う結果が既にそこにあるんだから…私が占いを外す時は、データ不足か、嘘を付いている時だけよ。」
セリーナもアルフの揶揄いに便乗するように挑戦的に微笑んだ。
「なるほどね。確かに、その占いとやらは合ってるよ。俺は確かに村では浮いた存在だ。」
アルフはその事実を恥ずかしがる様子も、悔しがる様子もなく、ただ事実として告げた。
これは真性の7の性格だ…。
人は少なくとも、他人から自分がどう見えるのかを気にする生き物だ。
同じ7の数字を結果とする者でも、育った環境などによって、その度合いは前後する。
しかし、アルフは本当に他人など気にして居ないのだ。
「浮いた存在かもしれないけど、他人を気にしない利点もあるわ。探究心よ。」
「探究心?」
「ええ、アルフは何かを深く突き詰める事に向いてるわ。そして、誰も思い付かないようなアイディアを思い付く力も持っているわ。研究者や発明家向きね。」
ふーん、アイディアねぇ…と、相槌のように繰り返しているアルフを見て、セリーナは突如湧き上がった閃きに、思わずテーブルに手を付き立ち上がった。
「うわっ…突然なに?」
目の前に座っていた人物が突如立ち上がり、前のめりにこちらを覗き込んで居るとなれば、アルフの驚いた反応は至極当然だ。
そんなアルフの様子に構う事なく、セリーナは興奮気味に告げた。
「ねぇ、この水害を解決する方法をアルフも一緒に考えてくれない?」
その時のセリーナの瞳はティナにも負けない程キラキラと輝いている。
「いや…、俺には無理だよ。」
セリーナの勢いに完全に押され気味のアルフではあるが、こういう時でも嫌なことは嫌だと、無理なことは無理だと言えるのが7の数字の特徴だ。
「貴方ほど適任な人はいないわ!」
「解決って言ったって…。」
逃すまいと更に前へと身を乗り出すセリーナに、アルフは中途半端に言葉を切った。
その言葉の不自然な途切れ具合に、セリーナもアルフの言葉の続きを待つ形となり、先程までの興奮とは打って変わって、沈黙が部屋を支配する。
その時、セリーナはアルフの表情を見て気付いた。
これはセリーナの突然の提案に困惑している沈黙ではない。アルフが何かを思案している沈黙だと。
「もしかして…何かアイディアがあるの?」
占いではなく、ただ直感でセリーナはそう思った。
ただ、その直感が当たっている事は、目の前のアルフの反応で明白だ。
「いや…違う、これはそんなんじゃ…。」
何の解決策もないまま闇雲に占っていたセリーナにとって、的外れだろうが、何だろうが、新しい意見はとてつもなく貴重なものだ。
「どんな話だっていいの!聞かせて!」
だから、セリーナは興奮で忘れていた。
7の数字を持つ者の大切な特徴を。
「何もアイディアなんて無いって言ってるだろっ!占いってのが終わったなら、もう行くから。」
この数字の者は、他の人に無理強いされるのを何よりも嫌う。
その事を思い出したセリーナは、彼を引き止める言葉も思い付かないままアルフの背中を見送るのだった。
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