前世占い師な伯爵令嬢は、魔女狩りの後に聖女認定される

皐月 誘

文字の大きさ
32 / 68
3章 疑惑の夜会編

3 伯爵令嬢はドレスアップする

しおりを挟む
「うわぁ…流石セリーナ様。普段の慎ましやかなドレスも聖女然としてお似合いですが、この様な華やかなドレスも素敵です!特に明るく豊かな御髪が…信じられないくらい輝いていますっ!あとはネックレスとイヤリングを着ければ完璧です。」

ドレスの着付けを手伝ってくれたティナが、いつもの5割増しに目を輝かせた。
ティナの相変わらずな様子に呆れながらも、セリーナも鏡に写る自身の姿をもう一度じっくり確かめた。

…綺麗。
いや、私が…じゃないわよ。
そんなの、とんだ勘違い女じゃない。
でも…このドレス…本当に綺麗で…私も少しくらいマシに見えるわ。

そのシルバーグレーのドレスは、シンプルなラインとは対象にポイント事にふんだんにレースがあしらわれ、所々で純白のレースの花を咲かせている。
光沢のある生地は会場ではシャンデリアの明かりに照らされて輝き、純白にもシルバーにも見せてくれるだろう。

普段はドレスから自立して個性を主張する明るいオレンジの髪も、このドレスの前ではいいアクセントになっている。

「こんな色のドレス…夜会で着てる人見た事ないんだけど…。」

ティナが丁寧に蓋を開いたドレスの箱から「美しい貴女をエスコート出来る事を心待ちにしております」と、胸焼けしそうな程甘いコーエンからのメッセージカードと共に取り出したドレスを見て、セリーナがそうツッコミを入れたのは、つい先刻の事だ。

当日着るドレスは是非とも自分が選びたいとコーエンが強く希望しており、セリーナ自身も王城での夜会にどのような物を着るのが適切か判断がつかない為、お言葉に甘える事にしていた。

そして当日届いたのが、このシルバーグレーのドレスだった。

令嬢達が好んで着るパステルカラーでも、ましてや社交界の花と呼ばれる方達が自信の現れとして身に付ける派手な色でもない。

その薄いシルバーグレーは、光に照らされて…まるで純白にも見えて…。

「こんな色…結婚式でしか見ないわ。」

そう、正にウエディングドレスの様だ。

こんな事なら自分で用意するべきだったかも…と背中に冷たい汗を感じるセリーナとは逆に、ティナは興奮を隠しきれない様子で語り始めた。

「何を仰いますか。今日はセリーナ様が聖女として初めて公の場にお目見えされる日でもあるのです。ご覧下さい。この色!正に聖女様の色です!本当は純白でもいいくらいですが…きっとコーエン様が純白のドレスは結婚式に…とお考えなのでしょう。そんな所までご配慮されるなんて…本当に愛されてますね!」

聖女としてなら、夜会でこの色のドレスを着るのも有りなのだろうか。
城での勤めの長いコーエンが選んだと言うのだから、わざわざパートナーに恥をかかせるような選択はしないだろう…。

それよりも、純白は結婚式に…なんて言われれば、嫌でもドレス姿の自分と正装で並び立つコーエンを考えてしまいセリーナは頬を赤らめた。

あれから1人になり冷静に考えてみたのだ。
コーエンからのアプローチについて。

三日三晩、睡眠不足を感じながら悩み抜いた結果…特に問題無かった。

そう、何の問題も無いのだ。

コーエンはたぶん、ディベル伯爵家への婿入りを希望しており、家督を継いで皇太子の側に仕えたいのだろう。

そして、セリーナ自身もディベル伯爵家を継いでくれる婿を探さなければならない。
それが皇太子の乳母兄弟であるコーエンとなれば、ディベル伯爵家にとっては願ってもない申し出なのだ。
両親も諸手をあげてコーエンを迎えるだろう。

そしてセリーナ自身もコーエンの事が嫌いでは無かった。

そりゃ、最初は鬼か悪魔だと思ったわよ。
だって笑顔で冤罪を着せた上に、軟禁までされて…好意を抱けと言う方が難しいわ。

だが、母であるリリアを心配するコーエンの姿に、厳しくも正しく皇太子を支える姿に、そして自分を気遣ってくれる姿には好感が持てるのだ。

例え、コーエンがセリーナ自身ではなく、就職先としてのディベル伯爵家を望んでいたとしても…セリーナに損になる話は何も無かった。

セリーナはもう一度、鏡に写る自身の姿を確認した。

「コーエン様は褒めて下さるかしら…。」

本人も気付かぬうちに、まるで恋する乙女の様な小言を漏らせば、敏感な侍女は色めきだった!

「勿論ですよっ!こんな美しいセリーナ様を見れば、コーエン様だって目が離せません。きっとパーティーの間中、他の方に取られるんじゃないかとハラハラされるハズです!!」

この若くて活発な侍女は、恋愛関係の話になると普段より更に饒舌になる事は、出会ったその日から、胸焼けを起こすほど思い知らされていたので、セリーナは思わず苦笑を漏らした。

「ティナの言う事は一理ありますが、そこから先は自分で伝えるので大丈夫ですよ。」

入り口から急に聞こえた聞き慣れた声に、セリーナは驚き、ビクッと肩を震わせた。

「コーエン様…な…え…?」

セリーナはたった今ドレスの着付けを終えたばかりだ。
一歩間違えば支度を見られる所だった…。

どうして…?なぜ…?いつから…?

「驚かせてしまった様ですね。失礼しました。ティナから大方の準備が整ったと連絡を受けましたので、私の選んだドレスで着飾ったセリーナ嬢にいち早く会いたくて駆け付けました。ご無礼をお許し下さい。」

ゆっくりこちらに歩み寄るコーエン様に、チラリとティナを振り返れば、ニコニコと頷き返される。

この若くて活発な侍女は、ただ恋愛事情に饒舌なだけでなく、仕事も出来る女なのだ。

まだ状況が整理しきれていないセリーナの正面までゆっくりとたどり着いたコーエンが、その細長い指がセリーナの耳横に降ろされた後れ毛おくれげをすっと撫でる。

「本当にお似合いです。他の人の目に触れさすのが惜しいですね。夜会へ連れ出すのはやめて、この塔に閉じ込めてしまいたいくらいです。」

ボンっと音がして、セリーナの顔面が一気に赤み掛かる。

わかっているわ。お世辞というやつよ!

セリーナは自分に言い聞かせるが、先程まで勝手に妄想して居た2人の結婚式姿を思い返せば、その頬の熱が引く事はない。

「実際に閉じ込めた人が何を言ってるんですか。」

これ以上触れられれば、自分は羞恥で爆発でもしてしまうかもしれない…。

セリーナはコーエンから目を逸らしながらも、後れ毛に触れる手をそっと払った。

「それもそうですね。…ティナ、アレを…。」

コーエンはそんなセリーナの様子に苦笑を浮かべるが、その様子は余裕に溢れている。

呼ばれたティナはと言うと、セリーナ自身よりも前のめりに2人のやり取りをガン見していたが、コーエンから呼ばれた途端に待ってましたと言わんばかりに白い箱を差し出した。

中には水色に輝く石で花を象ったネックレスと、遂になるイヤリングが入っている。

「それは…アパタイト…?」

セリーナは見覚えのある石であるにも関わらず、見たことも無いほど透明度高く磨き上げられたソレに思わず目を奪われた。

「ご存知ですか?あぁ、宝石にもそれぞれ色や意味があるのだから、占いをされるセリーナ嬢の専門分野ですね。」

確かに自然から生まれて、特有の色を持つ宝石はそれ自体がおまじないの効力を持つ。

「えぇ。綺麗…。」

「気に入って頂けて何よりです。本当はサファイアでもお贈り出来れば良かったのですが…。」

こんなに喜んでいただけるなら、もっと奮発するべきでした。と苦笑するコーエンに、何故サファイア…?と聞こうと顔を上げて、セリーナは彼の青い瞳を思わず直視してしまった…。

アパタイトもサファイアも、コーエン様の瞳の色…。

そう思うと、一旦引いたはずの顔の熱がぶり返して来るのをセリーナは感じた。
そんなセリーナの様子に、コーエンは満足そうに笑みを深めた。

「お着けしましょう。」

コーエンの手が耳に触れ、その後、正面から抱きしめる様に首に回されてる間に、セリーナは身じろぎどころか、呼吸さえまともに出来ない。

もちろん、コーエンがそんなセリーナの様子を堪能するかの様に殊更ゆっくりとイヤリングとネックレスを付けているのに気付いているのは、前のめりにその様子を見守る侍女だけだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 7月31日完結予定

処理中です...