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漫画家を目指す、1人と1匹

タヌキとキノコご飯

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「なうな、このペンカリカリするなうな。カリカリするなう。」

 家に帰って来て早速朱花は原稿用紙にペンで絵を描く練習を始めた。

「慣れないと難しいよな、頑張れ。」

 俺はどうだったかな? ちゃんとGペンとか使えるようになったんだっけ、そんな事もおぼえてないや。

 しかし、狭い部屋で朱花が一生懸命何かやってると自分だけゴロゴロしてるのが悪い気がするな。
 ・・・夕ご飯の内容でも考えるか。

「夕ご飯何がいい?」

「なう、きのこなうな。」

 きのこか。おう、ペンが無数のきのこを生み出していく。何、その妖怪図鑑に出てきそうなきのこ達は。

 きのこなら炊き込みご飯か、あと天ぷらにお吸い物もつける。
 うん、肉要素はないけどこれでいくか。

「俺はシイタケ無理だからうちの食卓にはシイタケは出ないからそれは覚えておいてくれ。」

「なう、興味ないなう。」

 おー、原稿用紙に夢中で俺の事見てもくれない。
 邪魔しちゃ悪いし買い物行ってこよう。


 きのこの炊き込みご飯は上手く出来て朱花からは2回のお代わりを獲得した。やったぜ。

 夜も朱花が頑張ってるから、俺も顔だけは真面目にしている、やっている事は競馬の予想だけど。
 
 ネットで馬券を買える様に登録してあるから、仕事の日でも問題ないのだ。
 ちゃんと1日2000円までってルールは設けてあるから、設けてあるだけで守れてはいないけど・・・いや、今なら大丈夫、家族もいるし、俺は自分を抑えられる。
 おかしな話なんだよな、別に欲しい物とか贅沢したい訳じゃないのに、お金が欲しいって欲をかいて逆に無くしてる。
 ビギナーズラックって言葉があるのに俺の所には一向に来てくれないからな。
 よし、明日の土曜日は京都の11レースに勝負をかける!!

 朱花が頑張ってる横で俺は何をしているんだろう・・・。

 俺も絵を描いたりしてみようかな、なんか楽しそうだし。

 よし、ベッドから起き上がってテーブルを挟んだ朱花の向かいに座る。
 顔を上げた朱花と目が合う、特に意味はないけど頷くと頷き返される。アイコンタクトバッチリだな。
 朱花が立ち上がって俺の股に枕を乗せて座ってくる。
 違う、さっきのにこんな意味はなかった!
 いや、別にいいけど、むしろ嬉しいけどさ。

「すんすん。今日は優しい油の匂いがするなうな。」

 なんだよ、それ。・・・きのこの天ぷら揚げたからその匂いか。
 原稿用紙、こっちに持ってきてこの体勢で描き始めるの? 俺それだと何も出来ないんだけど。
 まあいいか、身体に力を抜いてボンヤリと朱花の作業を眺める。
 ネームを見ながら定規で線が引かれていく、そうか、下書きに取り掛かるのか。

「油おじさん、あたし漫画家になって見せるなうな!!」

「おう、頑張れよ。」
 
 夢を見る事はきっといい事の筈だから。
 あまりにも微笑ましくて自然と頭を撫でてしまった、ふわふわだな! 天使のはね見つけたわ。

「はふん! もっと激しくなう! 煙が出るくらい激しくなうな!」

 いや、それは駄目だろう、せっかくの天使のはねが潰れてしまう。

「漫画、少しなら俺も手伝うから。」

「なう? 油おじさんの油ハンドが?」

 やめろよ! その原稿用紙を汚しそうな名前。とりあえず、この角度から見るキョトンと首を傾げた朱花もかわいい。

「黒く塗ったりするのとかあるだろ、そういうのとかさ。ベタって言うらしいんだけど。」

「油おじさんの油べたべたなう。」

 クドイわ! 油だけに。

「じゃあ、一緒に頑張るなうな。」

「そうだな。」

 その笑顔の為ならなんだって出来そうだよ。
 当分は椅子になるだけだけど。

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