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漫画家を目指す、1人と1匹
タヌキと競馬に行く 後編
しおりを挟むそして東京11レースまで残り10分、俺と朱花はまた外に出る。
ちなみに今日の俺の戦績だが手堅く買っている筈なのに、まだ一枚も馬券を換金する機会に恵まれない、ネットで買った方はちょろちょろ当たってはいるけど赤字だ。
「俺はこのレースは1番、3番、14番で勝負してる。」
隣の朱花にそう伝える、1と3が本命で一緒に14が来てくれれば大きく勝てるという買い方をした。
「あたしは14番、2番、7番の3連単に五千円なうな!!」
・・・まじで? 3連単で勝負に出たの?
3連単と言うのは一位から三位までをピッタリと当てなくてはいけない馬券の買い方で、一番当てるのが難しい。
俺は真剣な表情で真っ直ぐ前を向く朱花を横目に携帯で馬の情報を引き出す、・・・朱花の言っていた馬の組み合わせ、人気の無い馬ばっかりだ。その代わり、もしも当たれば千倍、賭けたのが五千円だから五百万・・・当たれば大きいけど・・・当たれば大きいけどさ。
どうしよう、俺が負けた時でさえ一緒にショックを受けてくれた朱花だよ、自分が五千円も負けたりしたらどれだけ悲しむか!
「始まったなう!」
まじか! 考えてるうちに始まった!!
朱花が俺の手を握って来る、俺は小さなその手を強く握り返した。
大きな画面の中で14番が先頭を走る。
「こいなう!」
俺も一緒になって祈る! お金の為じゃない、朱花の笑顔の為に!!
そしてレースは最後の直線へ! 今も先頭は14番! 観客席からどよめきが聞こえる!
「来い!! 14来い!!」
今まで恥ずかしくて声を出す事なんて出来なかった、でも今だけは叫ぶ。
「14なう! 14なう!」
横では朱花も一緒に叫ぶ!
14来い! 2番と7番と続け!!
「14!! 14!」
「なうな! なうな!」
先頭を走っていた14番は丁度俺達の目の前で失速、次々と抜かれていった。
・・・終わってみれば14番は八着、この瞬間に朱花の持つ馬券に意味はなくなった。
手を繋いだままの朱花が力なくへたり込む。
「あーあーあーあー」
・・・茫然自失ってこういう事か? 目はうつろでだらしなく開いた口からは魂が抜けていそうだぞ。
「大丈夫か? 最後のレースに今なら間に合うし、もう一度買うか?」
俺の経験から考えて負けた悲しみはリベンジする事でしか癒されない、ダメ人間な考え方だがたまにはいいだろう。
ちなみに俺も同じように負けているが慣れているので平気である。
「油おじさんはすぐお金で解決しようとするなう! 人の心はお金で買えないなうな!」
えええっ!? なにその発言!
・・・やだ、周りから嫌な視線が集まる。・・・撤収!
俺は朱花を無理やり立たせるとその場を離れる。
「油おじさん、すまなかったなうな。おじさんの貴重な生活費を、あたしは、あたしは。」
朱花が前を歩く俺の背中にぴとっと顔をくっつけてくる。
いや・・・俺の事そんなに生活苦しいと思っているの? 家賃は会社が出してくれてるし、お金使う趣味もないから生活には結構余裕があるんだよ。
俺だって今日朱花以上に負けてるし。
「あんまり気にしなくていいからな。今日はもう帰るか。」
俺が言うと朱花はくっついたまま小さく頷く・・・ねえ、泣いてませんか?
「なんか、甘い物でも食べて帰るか?」
「いらないなう、夕ご飯もふりかけご飯でいいなう。」
・・・いや、それは俺が嫌なんだけど。
あっ、京都のメインレースも俺が買ったのは外れたみたいだ。
小さなテレビ画面を横目に俺は競馬場を後にする。俺やっぱり競馬向いてないな、止めようかな。
・・・そうは思っても止められないんだよな。
家に帰ると朱花はすぐに狸の姿になった、 服を脱ぎ捨ててベッドに突入する。
「みゅーみゅー!!」
なんで俺の枕を鼻でぐりぐりしてるんだよ。
俺も一緒にベッドに入ると今度は俺のあごをぐりぐりしてくるから抱きとめて頭を撫でると大人しくなった。
「油おじさん、ごめんなさいみゅう」
「いや、泣かなくていいし。あんまり気にするなよ。」
このまま二人で昼寝をした。
こういう気持ちは駄目だとは思うんだけど、弱った朱花もかわいかった。
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