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漫画家を目指す、1人と1匹
タヌキとクリスマス 1
しおりを挟むさてあっという間に12月だ。
朱花の原稿は順調に進み下書きが完了。いよいよペン入れに突入した、今年中には投稿すると鼻息を荒くしている。
俺はというと、一人競馬の大きなレースで歴史的な大敗を記録していた。
あまりにも俺が負け続けるのでバイトの男の子達には俺が買った馬を避けて買えば当たると言われ始めている。そしてその言葉にムキになった俺が更に大きく勝負に出てそして負けたのだ。
もう少しで冬のボーナスという希望が無ければ心が折れていたかもしれない。
「ただいま」
部屋に入ると薄くインクの匂い、真剣な表情で原稿に向かっていた朱花が顔を上げる。笑顔の花が咲く。
「おかえりなう、お腹空いたなうな」
「おう。今日は豚丼にするぞ! 少し待っててな」
手を洗ってうがいをしてから、料理を始める。
今日は切るものが玉ねぎだけだからサクサク進む、鍋に水と調味料、玉ねぎを入れて火にかける、後から豚肉も投入してコトコト待つだけ。お吸い物も作るかね。
俺がコトコトしていると後ろに朱花が待機する。・・・そこで待っても早く出来たりはしないからな、そんなにお腹空いてるのか?
こら、俺の肩の上から顔を覗かせるな! 可愛くて仕事の疲れが癒されるだろ。
「・・・味見する?」
「するなう」
箸で一枚肉を捕まえて朱花の開けた口に入れてやる。
「熱! 熱い! 熱いなう、・・・美味しいなう」
「お、おう」
目に涙を浮かべながらニコリと笑う朱花に思わずうろたえてしまった。
買ってきた温泉卵を乗せた豚丼を二人でがつがつと食べる。食べ終えた朱花はすぐに原稿用紙をテーブルに広げる、俺は食器を洗ってから合流する。
「どこにベタを塗ればいい?」
朱花の向かいに座った俺はペン入れの終わった原稿を貰う、黒くする場所を探して塗っていく。
・・・? カリカリした音が聞こえないと前を見れば朱花と目が合った。
「どうかしたか?」
俺の問いかけには答えずに立ち上がった朱花が横に来る。
「油おじさん、仕事で疲れてるのにあたしの手伝いをさせて、すまないなうな」
いや、それはいいんだけど、なんで悪女みたいに俺の顎を指でなぞってくるの? どこでそういうの覚えてくるの? やめて、くすぐったい。
「・・・油おじさん、口の下に黒いのがついてるから後でしっかりと洗うなうな」
・・・いや、俺の目の前に指先に墨を付けた人がいるんだけど自首はしなくていいのか?
「悪かったなう」
ジト目で見る俺の前に朱花が屈した。
俺は笑いながら目の前に下げられた頭を優しく撫でる。
「別にいい。これも俺が好きでやっているんだから気にしなくていい」
「・・・あぶらのおじさん」
・・・潤んだ瞳で見つめてくる朱花、なんで油とおじさんの間にのを入れたの? それだけで大分受ける印象が違うんだけど。
まあ、そんな感じで原稿は順調に進んでいた。
ところで、12月と言えば、そうクリスマスである。
俺は中々機会には恵まれないがサプライズだったり人のプレゼント買ったりというのが好きなのである。
・・・今まで機会がなかったからこそそういうのが楽しみという可能性もあるがそれについては置いておこう。
というわけで来たる仕事終わり、俺は一人おもちゃ屋さんに来ていた。
そう、プレゼントを買う為にだ!!
クリスマスプレゼントを用意する、そう考えた時に頭に浮かんだものはただ一つだった。
それは少し前まで売り切れ続出だった携帯ゲーム機。うん、我ながら喜ぶ顔しか思い浮かばない、俺はよく知らないけどあれって一台あれば二人で遊ぶ事も出来るみたいだし、二人で一緒に遊べるとか幸せすぎる。
・・・うん、想定よりも少し高いけど必要経費だ問題ない、ソフトも二つ買ってしまえ。
よし、これで後はクリスマスを待つだけだな。
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