補欠勇者のわくわくパーティー

D−con

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冒険者パーティーイレヴンズ

大丈夫、涙は誰にも見られないうちに拭いた

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 前回のあらすじ

 うちの聖女が兎を瞬殺。
 止むことのないメイドの拍手。



 そして始まる解体作業、今ここ。

 俺は絶句している、血とか苦手だよ。だって現代っ子だもん。

「ここで僕のスキル神の手(肉)レベル4を使うよ!これでこのお肉は未知の領域の味に!!」

 あーー、解体用のナイフで皮を剥がしていくうちの聖女様の手から神聖な光が・・・今更だけどなんでそのスキルをレベル4にしたんだよ!
 いや、分かるよ!食べ物にこだわりを持ってるのはもう分かってるけどさ、それでも。
 俺はその光景を見ていられずに手で顔を覆う。

「・・・」

 知的好奇心旺盛なのかうちの賢者様は解体作業に引き寄せられていく。

「うーん、僕の食材鑑定スキルじゃまだ料理になってない食材は何か分からないんだよね。今回は臓物諦めようかな、うーーん」

 おーーう、何をしてるのか見たくない。

「捨てる様なら私がもらってもいい?きっと魔法錬金に使えるわ!元気になるポーションが作れそう!」

「うん、いいよ。美味しく出来たら僕にもちょうだいね」

「任せておいて!」

 ・・・兎の内臓ポーション、俺はいらないからね・・・

「そういえば、ユラは兎の分の経験値は貰えたのかしら?さすがにレベルは上がってないでしょうけど」

「うーん、どうだろ。兎のお肉が終わったら確認してみるよ」

「いえ、経験値はもらえませんよ」

 あっ、肩に召喚鳥を乗せたナナが優雅に合流した。今まで自分の召喚鳥と戯れてたのか・・・。

「そうなの?」

「ええ、私達が経験値を得られるのは魔物や魔族と呼ばれる体内に魔石を持つ生き物を殺した時だけなのです」

「へー、そうなんだ。魔物や魔族ね」

「ナナちゃん、その魔族にもレベルってあるんだよね?魔族は何から経験値を貰うの?」

わたくし達の逆です。つまり魔石を持たない動物、わたくし達人間を含めてですね。だから人間と魔族は争いあうしかないのです」

 いや、経験値貰えるからって殺し合わなくてもいいんじゃないかと思ったけど、レベルのある世界じゃそうなってしまうのか。

「なるほどね。なんか魔石がない生き物の方が経験値少ないイメージじゃない?そもそも弱そうだし魔族はレベル上げづらいんじゃない?」

「そうですね。なので魔族は最初から強く、私達はレベルを上げることでようやく魔族に対抗出来るといったところですね」

 なるほど、そしてそれだけじゃ足りなくて定期的に異世界から勇者達を召喚してるって所か。

「私達もどんどん魔物をコロコロしなきゃいけないって事ね」

「そして僕がお肉をころころ肉団子にするという訳だ」

 緊張感ないな。

 ガサガサ

 森の奥の方から音、

「噂をすれば、血の匂いに惹かれて出てきましたね」

 俺の横に並んだナナが鋭い眼光を森の中に送る。

「ゴブリンです!」

「っ!!」

 ゴブリンとエンカウント!!?
 いや、だがこっちには聖女兼聖騎士みたいなユラがいる。さっきの動きを見る限りこっちに来る前に瞬殺してくれそうな

「わわわ!!あわわわわ!!」

 ・・・分かりやすく慌てたユラが解体途中の肉を掴んでこっちにダッシュしてくる!

「ちょっ!置いていかないでよ!私は戦えないんだからね!」
 
 ハルもあたふたとユラの後を追って逃げてくる。
 そして2人が俺を盾にする様に後ろに隠れる。・・・ハルはともかくユラ、さてはこいつ食べられない相手とは戦う気がないな!?

「さー、アキさん経験値がやってきましたよ」

 ナナもナナで俺の横から一歩後ろに下がる。・・・やっぱりこれ、俺が戦うの?
 え?本当に俺が戦うのか?
 1番レベル高いメイドはどこ? いや、ユラの肩に手を置いているのが視界の端に映ったからもういいや。

「・・・」

 姿を見せたゴブリンは昔のゲームで見た姿に似ている、俺のヘソぐらいまでしかない身長で小柄、ボサボサの髪はハゲ散らかし手足には肉が一切なく骨と皮のみ、身に纏うのは腰に巻いた汚い布切れだけで、手には材質の分からないナイフに似た刃物、大きく避けた口から覗くどす黒い舌と隙間を空けて配置された尖った黄色く濁った歯、顔に対して大きすぎる三角の鼻と耳に目やにの目立つ黒目。
 いや、醜悪すぎる。Gのイニシャルを持つものに感じる独特の嫌悪感がすごい!
 そんなのが3匹もいるんだが!

「経験値私達にも分けてね、アキ」

「えっ?」

 うわ、ハルの奴が俺の後ろから火を付けた爆弾を投げ始めてる!それ、全然威力のないやつだろ!
 ユラも渡された爆弾を一緒に投げ始めてるし。

 パンパン!パン!

 投げた爆弾が連続して小さな音をたてる!うお、ゴブリン怯んでるぞ!このまま逃げ帰れ!

 いや、腕で顔を隠しながらこちらを射抜く澱んだよどんだ瞳からは強い感情が窺える、憎悪とか殺意とかいうやつだろ、これ!
 背中に寒気が走る!
 奴らは諦めたりしない!来るぞ!!

 鼻に届いていた爆弾の煙の匂いを突き破って、脳に直接刺さる様な刺激臭が!

「アキ!」

 うわ! バカ!誰か背中押したろ!誰だよ!?
 つんのめる、身体が前に進む!
 ゴブリンもこっちに進んでる、低い所にある汚い瞳と目が合う。
 怖い、俺の喉が短く息を吸う、酸っぱくて苦い!!
 嫌いだ!!
 右手に持った剣から水が渦巻く、剣を包んだ水は剣の倍ほどの大きさまで広がる、倒れる様に片手で剣を振り下ろす!
 手応え? あまりにも呆気なく自分は今命を奪ったのが理解できた。
 舞う水飛沫の中に赤が混じるのを感じながら身体ごと回して振るう剣が2匹目のゴブリンの顔を薙いだ、耳が鼻が飛ぶ。
 スキルの脚力強化を使いながら踏ん張り態勢をなんとか保ち、最後のゴブリンは胸を刺し貫いてから下に向けて2つに割る。

 終わった・・・?
 スキルのレベルを上げておいて良かった。勇者武技と剣術のレベルを3にした効果は絶対あった筈、自分の中に残った冷静な部分がそんな風に感じながら震えた手は口を抑える。
 やばい、なんだこれ!頭が真っ白になる、吐きそうだ・・・


「おうえええー、れろれろれろれー」

「!?」

 俺の物ではない嘔吐音に反射的に振り向けばうちの聖女様が・・・そしてその背中を優しくさするメイド。
 ・・・今、不自然に移動したの見えたぞ!俺の事を押したのお前だろラズ。

 ・・・吐き気は治らないが、ハルのショッキングな姿に頭の中は正常に戻りつつある気がする。

 ん、なんか身体の奥がモゾモゾする感覚・・・これ、レベル上がったか?
 嫌な経験をしてしまったが欠陥オーライだと思えるかもしれないな。

「うわ、カエル肉と私のポーションが、酸っぱくなってる」

 やめろよ。なんで観察するんだよ!

「あっ、レベル上がったっぽい」

「んむぐ、僕もレベルアップしたかも」

「・・・」

 いや、これでお前らまでレベル上がったら不公平すぎるだろ。
 やばい、心が弱ってるのかな、目から凄い熱い涙が溢れてくるんだけど。

 確認したらみんな仲良くレベルが2に上がってた。
 大丈夫、涙は誰にも見られないうちに拭いたから。
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