贖罪少女と慈愛の姉は俺を愛欲で惑わす

ららんぼ

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少女は贖罪に肌を晒す

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「ごめんなさいっ! ほ、本当にごめんなさい!」

 土下座せんばかりの勢いで、彼女は謝罪を繰り返した。
 とある日の夕暮れだった。誰もいない教室で、前髪を垂らして最敬礼の角度で頭を下げる彼女を、俺は呆気にとられながら見た。
 驚く俺に彼女は言葉を続ける。

「全部、私の勘違いでした。その……それで今までひどいことし続けて……どんなに
謝っても許してもらえないのはわかってる。でも、謝らないと気がすまなくて……ごめんなさいっ!」

 そうしてまた頭を下げる。
 傍から見たら、愛の告白した男子がご丁寧に断られたように見えるかもしれないな、などと思いながら、俺は彼女に視線を向けていた。
 彼女……楠芽衣子の謝罪は必死な様子だった。頭を下げられているこちらが申し訳なくなってくるほどだ。

「いや……俺はそんなに気にしてないよ。そりゃあ、面白くはなかったけどさ。でも、それでも適当にやり過ごして来れたし」

 俺の言葉に嘘はない。事実、俺は彼女が謝る一件があってもそれ相応になんとかやってきた。当時はなかなかに不愉快だったが、今となってはどうでもいい。

「だから、そんなに謝ることはないよ」

 気にするな、と付け加えて俺が言うと、彼女はようやく頭を上げた。しかし、俺を見ることはなく、気まずそうにもじもじとしている。

「そ、そうは言っても……私、吾妻くんに酷いことしてきたのは事実だし……」

 俺がいくら気にするなと言ったところで、彼女自身の中で罪悪感は消えていないようだった。


 
 俺、吾妻京介と楠芽衣子とは、中学時代からの同級生だった。中学ではどういうわけか、一年から三年までのすべての期間でクラスメイトでもあった。
 芽衣子は中学一年生の頃からその美少女ぶりは有名で、男子からはもちろん女子からも憧れの的のような存在だった。成績も良くて運動神経も悪くない。そのうえ人当たりがいいのだから、人気が出ないほうがおかしい。なので、当然のように彼女は常にクラスの中心的グループに属していた。
 対して俺はといえば、ぼっちでは無いにしても、特定のグループといったものには属さず(……正確には属せず)に、一人気ままに学校生活を謳歌していた。気の合う連中とその時々でちょろっと会話するくらいであった。
 
 そんな対象的な俺ではあったが、実は芽衣子とはそこそこ気が合う関係でもあった。学校で会ったら普通に会話する程度であったが、なんとなく話しやすい女だったのだ。芽衣子のような完璧美少女と話せていることはそこそこ嬉しいことであったし、彼女も屈託なく俺に接してくれていた。
 
 そんな学校生活の中、とある事件が起きた。
 芽衣子の下着が盗まれたのである。それも2 回も。
 最初は夏のプール授業のときだった。更衣室から彼女の下着すべてが盗まれたのだ。被害者が芽衣子ということで、クラス中が大騒ぎになった。
 二回目は三年生時の修学旅行のときだった。宿泊先の旅館で、女子たちが浴場に入ってたところ、芽衣子の下着だけが盗まれたのだった。当然、またしても大騒ぎになり、二度目ということもあって他クラスを巻き込んでの大騒動へと発展。修学旅行の浮かれたテンションはどこへやら、犯人探しまで始まる始末だった。結局、犯人は見つからなかった。その時は。
 
 最大の事件は、修学旅行が終わって数週間してからだ。
 なぜか俺が犯人である、ということになってしまったのだ。
 俺を犯人だと信じた連中の言い分はこうだ。プール授業のとき、俺はその授業に出席せず、体調不良と称して保健室に言っていたように見せかけて、実は更衣室に忍び込んだ。修学旅行では、俺が誰よりも先に風呂から上がったが、それは下着を盗むためだ、と。
 
 あまりにもバカバカしい話だったので、知ったときは怒りよりも呆れのほうが圧倒的に強かった。そんな妄想、一部の人間しか信じないであろう、と。俺は適当に否定しつつ、ことの噂には極力触れないことにした。
 が、それがどうも良くなかったらしい。俺の呆れたゆえのその姿勢は、真犯人故に触れたくないからだ、という認識が広まり、あっという間にクラスはもちろん全学年、全校に広まった。
 何よりの誤算だったのは、その噂を直接の被害者である芽衣子が信じ切ってしまっていたことだ。彼女は俺に直接罵倒してきたり暴言を吐いたりなどはしなかった。代わりに彼女が取った行動は、ただただ冷たく蔑んだ視線を向けてくることと徹底的な無視、そして周囲への伝聞だった。俺が下着を盗んだ最低に下劣でキモい犯罪者というレッテル貼りだ。

 最初は噂を眉唾なものだと思ってくれていた連中も数は少なくともいてくれたが、被害者の芽衣子がそんな調子のせいか、その数は徐々に減り、ついには誰一人として居なくなった。
 結局、俺は残りの中学生活を「下着泥棒」のレッテルを貼られて生活せざるを得なかった。
 
 そんななので、高校ではもう少しマシに学校生活を謳歌したいと思っていたのだが、なんと芽衣子も同じ学校だった。てっきり県下一の進学校に通うと思っていたので驚くと同時に、今後も暗い学校生活が待っているのを察して、入学前の春休み中は毎日深いため息の連続だった。
 
 そんな中で衝撃のニュースが飛び込んできた。中学の教師が逮捕されたのだ。容疑は住居侵入罪と窃盗罪。ベランダに干していた女性の下着を盗んだらしい。警察が捜査したところ、なんと教師は自身の教え子の下着を他の盗み続けてきた大量の下着とは別に保管していた。それこそが芽衣子の下着だった。
 事件は瞬く間に俺達卒業生に広がって、それと同時に俺の身の潔白が証明された。何人かのクラスメイトからは、犯人と決めつけていた件を謝られた。
 
 だが、それで俺の中学時代が戻ってくるわけではない。既に俺にとっての中学時代は屈辱めいたものになってしまっていて、今更真犯人が見つかり、身の潔白が証明されようと、それは最早どうでもいいことだった。
  強いてよかったことといえば、下着泥棒という濡れ衣を高校で広げられることはないということだけだ。そう考えただけで、下着泥棒のレッテルとそれに起因する暗黒の中学時代は本当にどうでもいい代物になった。俺は過去のことを気にしたくない。忌まわしき中学時代の全てと決別できるのだから、そんなことを気にするほうがバカだと思っていた。
  
 だから、こうして芽衣子が必死に頭を下げてくるのは、自分としてはどうでもよいことについてであったし、そんなことでこんな行動をさせてしまっているのが申し訳ないくらいであった。
  そもそも、例の件で本当の被害者は彼女なのである。クラスメイトの面前で下着を盗まれたという事実が広まり、それが2回。その都度、耐え難いほどの恥辱を受けたに違いなかった。女性は目の前で自身の下着を嗅がれると、レイプされたような気分になると何かで読んだことがあるが、下着を盗まれたというのはそれ以上に陵辱めいた気分になるのではないだろうか。男とて、その心中は察するに余りある。
 そんな状況下で、俺が犯人だという情報が回ってきたわけだ。いくら彼女が聡明な女性だとは言え、所詮は中学生。耐え難かったであろう恥辱と鬱屈を、感情の赴くままに俺にぶつけてくるのも仕方が無かったのだ、と俺は思う。



「いや、だからさ。もう中学の頃の話じゃん? 本当の犯人もわかったし、俺は俺で疑いは晴れた。せっかく高校生になったんだから。もう中学校のことを引きずるのはやめようよ」
 
 俺は努めて明るくあっけらかんと言った。そうすることで、彼女の罪悪感が消えて、彼女も彼女らしく過ごしてくれればそれでいい、と。
  が、それでも芽衣子の表情は少しも晴れていなかった。むしろ、罪の意識はより深くなってしまったのか、ただでさえ歪んでいた表情がより歪み始めていた。

「そうは言っても、私のせいで……吾妻くんの中学生活めちゃくちゃにしちゃったのは本当じゃん……」

「いやいやいや……悪いのはあの変態クソ教師だよ。あいつのせいで俺も楠もあんな中学校生活になっちゃったんだ。悪いのは楠じゃない」

 俺が静かにそう言うと、芽衣子はふっと表情を緩めた。ようやくわかってくれたようだった。

「そっか……。吾妻くんはそうやって、自分の気持ちを押し殺しているんだね……私にはそんなこと出来ないよ……」

 芽衣子のそのつぶやきは、予想していたものと全く違うものだった。彼女が何を考えているのか、俺にはさっぱりわからない。が、俺の言葉の真意が上手く伝わっていないことは確かなようだった。

「いや、押し殺すとかそういうんじゃなくて……」

「わかってる。あんな酷い身に遭わせちゃったんだもの……。私が早合点したばかりに……。もう……もう……」

 芽衣子は俯きながらそう言うと、体をふるふると振るわせ始めた。その後の言葉は続かない。

「お、おい……?」

 不審に思った俺は、前かがみになって彼女の顔を覗き込んだ。
 その顔は……真っ赤に染まっていた。

「ど、どうした? 気分でも悪いのか?」

 紅潮している理由がわからず、俺はあわてて彼女に尋ねた。
 彼女は俺に視線を合わそうとせずに、ただただ黙って首を振る。
 いよいよ芽衣子の言動が理解できず、俺は怪訝に思いながらも黙ってその場に立ち竦んだ。

「……らで………………います……」

 ふいに、垂れた黒髪の奥からかすれるような声が聞こえてきた。何かを言ったはずなのだが、あまりに小さい声で聞き取れない。

「ん? なんだって?」

 俺は彼女のほうに数歩近寄って、その発言をもう一度促した。
 ビクリ、と彼女の肩が跳ね上がる。
 小さく息を吸い込む呼吸音。
 少しの沈黙の後、彼女の唇が開いた。

「か……か、体で……償います……」
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