贖罪少女と慈愛の姉は俺を愛欲で惑わす

ららんぼ

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贖罪と慈愛の果て

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「そう……そうなのね……」

 力なく翔子がつぶやいた。顔を深く俯かせている。垂れた前髪のせいでその表情は確認できない。しかし、その姿からは俺が期待しているものとは違う、不穏な空気が醸し出されている。

「……姉さん?」

 思わず一言だけ尋ねる。すると、翔子の体はかすかに震え始めた。震えは徐々に大きくなり、同時に何かを言っているのか極めて小さい声が漏れる。
 やがて、その声の正体が笑い声だと分かった。肩を小刻みに震わせて、翔子は不気味な笑い声を響かせる。
 俺も芽衣子もあっけに取られて、何もすることができなかった。
 やがて、うつむいていた翔子の顔がゆっくりとこちらを再び向く。悲しくて苦痛さを訴えるかのような表情で、彼女は笑い続けていた。

「ど、どうした……んだ……?」

 あまりの豹変ぶりに、俺は思考が真っ白になる。想像もしなかった翔子の姿に、焦りとともに恐怖にも似た感情が体を支配して、じっとりと嫌な汗が噴き出していた。

「だって……私、全部取られちゃったんだなって思って……。あなたのことを好きなのは、彼女よりも私が先なのに。心も体も全部、京介に捧げたのに、きれいさっぱり取られちゃうなんて……。それも、自分があなたを想うゆえに恨み連ねていたこの子にね……」

 そこまで言うと、翔子は突然その場に崩れ落ちた。慌てて彼女の体を支える。

「ほらね、この子優しいでしょ? あなたも、この子の優しさに触れて好きになったんじゃない? こんなことしょっちゅうされてたら、女として意識しないほうが無理なのよ」

 うなだれて垂れた前髪の間から、うつろな瞳を芽衣子に向ける。呆然としている芽衣子は、黙って視線を合わせるだけだ。

「私たちはね、半分だけの姉弟なの。母親は同じだけど、父親が違うのよ。つまり、もう半分は他人なの。半分とはいえ、他人であることに変わりはない。そんな男女が一つ屋根の下で二人暮らししてきたのよ。そして、私は彼のことをずっと好きだった。もちろん、肉親としてではなく、一人の男としてね。……そうなれば、どうなるかは想像できるでしょ?」

 自嘲と哀れみをないまぜにした歪んだ微笑を浮かべる翔子。その視線には、一片の勝ち誇ったかのようなものも見え隠れしていた。

「お、おい……っ!?」

 俺は焦った。絶対にバレてはいけないことだ。姉弟間で肉体関係を持っていたことなど、絶対に他人に知られてはならない。
 にも関わらず、翔子の独白は止まらない。それが自身を社会的破滅へと導きかねないことだというのに。
 思わず、俺は声を荒げた。

「言うなっ! それ以上言って何になるっ!」

 がっしりと彼女の両腕を掴む。翔子は一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、すぐに邪悪な笑みに戻った。

「あなたもそうなんでしょうけど、私はね、彼に女にしてもらったの。そう、私はあなたなんかより先に京介とセックスしてるのよっ!」

 翔子はそう叫ぶと、歪んだ殊勝さを芽衣子に向けた。
 言ってはいけないことを言ってしまった。隠さなければならない事実。それを声高に翔子は叫んだのである。
 愕然とする俺。押さえつけていた腕から自然と力が抜けた。
 ちらりと芽衣子に視線を落とすと、彼女は乱れた髪や着衣をそのままに、突きつけられた事実に絶句していた。瞬きすら忘れたかのように、驚愕に目を見開いている。
 もはや彼女を直視することができず、俺は気まずさを感じて視線を逸らした。

「ほ、本当……なの……?」

 力のない声がポツリと漏れる。唇を震わせた芽衣子の声だった。衝撃的な事実は、彼女の理解を超えていたのだろうことは想像に難くない。

「本当よ。あなただって彼に抱かれてわかるでしょ? 全く女を知らない男の抱き方じゃないってことくらいは」

 お前のセックスは自分との経験ゆえのものだ、と言いたいのだろう。勝ち誇ったように翔子は芽衣子を見下ろしていた。

「でも勘違いしないでね。彼から誘うことはなかったわ。誘うのはいつも私から。私が彼と繋がりたいから相手をしてもらってたの。だから、愛し合っていたとかそういうのじゃない。恋人ができたって聞いたときにはもう関係を終わらせなきゃって思ったわ。だって、私がいくら彼を愛していたところで結局は姉弟だし……自分の好きな人が幸せを見つけたなら、それを応援しなきゃ。たとえ、自分が傷つく形だったとしてもね。それが……姉として本来あるべき姿だと思うから」

 そこまで言うと、翔子は一つ深く息を吸い込んだ。そして、大きな瞳で芽衣子を見つめる。

「でも、その相手があなたなら別。私は……認めない」

 先までの怒鳴り声は影を潜め、代わりに静かに低い声で翔子は言った。それは自分自身に確認するかのようなはっきりとした口調だった。

「姉さん……」

 あまりに強固なその意志に、俺はため息を漏らすしかない。

「認められなくても……仕方がないです……」

 ポツリと呟く芽衣子。視線を落として悲しそうな顔をしていた。

「め、芽衣子……」

 ドキリと心臓が跳ね上がる。知られてはならない事実を告げられて、さすがの彼女も幻滅してしまったのでは、と俺の心が騒がしくなる。
 しかし、彼女は顔を上げたかと思うと、まっすぐに俺を見た。

「お姉さんとそういう関係だったのはびっくりだけど、でも、それで私の気持ちは変わらない。私はやっぱり京介が好き」

 はっきりとそう言うと、今度は翔子を向く。

「今言ったとおりです。私にはそんなこと、大した問題じゃありません。そういうこともある、ってだけです。私はそんなことで彼と別れるような女じゃない」

 キッと視線を鋭くさせて、芽衣子は翔子に宣言した。
 髪は乱れて、頬の赤みも涙の濡れも引いてはいない。それでも彼女は自身の本心をまっすぐにぶつけている。その姿に俺は好意や憧れといったものを超越した熱い何かがこみ上げてくるのを感じた。ここまで俺のことで真剣になってくれているとは思いもしなかった。

「そう……そこまで言うなら……」

 芽衣子の言葉に翔子は静かにそう返す。
 納得したのか。一瞬だけでそう思ったが、違う。彼女の呟いた姿は、芽衣子の言葉を素直に受け取ったものではなかった。怪しく口元に笑みを浮かべて、ゆらりと体を揺らす。そして俺に顔を向けた。

「私と京介が、どれだけ深く関係していたのか、今目の前で見せてあげる……」

 歪んだ微笑に妖艶さが加えられ、彼女は自身の服に手をかけた。
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