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予想以上の
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不機嫌です、の気持ちを全身から溢れ出させて黙りこんだ咲良を、何も知らない店主は怪訝な顔で見る。
「どうしたってんだい」
「すまない。ちょっとご機嫌斜めになったらしい。気難しいやつなんだ。じゃあ、俺たちはこれで」
「はいよ。またの起こしお待ちしてるよ!」
これ以上咲良の機嫌が悪くならないうちに戻ろうと咲良を促す。
店主が笑顔で手を振っている。お世辞にもいいとは言えない態度を向けられたのに気のいい態度を向けることができるのは希少な才能だ。咲良を見ているとそう思うことがよくある。
「咲良。機嫌を治せ」
「別に悪くしてなんてないですよ〝紅の舞の君〟」
「お前の機嫌が悪くなったら二つ名で呼ぶ癖何なんだ」
「だーかーらー! 別に機嫌悪いわけじゃないです! 国なんかの使いと思われたのが気に入らないだけですー!」
頑なに認めずそっぽを向く咲良は、林檎を齧りながら神楽の隣を歩く。
「俺たちはヴィンズの迫害を止める。そのためにまずは〝彼岸の悪魔〟を探し捕らえる。そのために共にここまで来た。それだけだ。俺たちだけが知っていればいい」
「……そう、ですね。無知な愚か者であり続ければいいんです。皆。皆」
何も知らない一般人は、何も知らないままでいい。
それはある意味得難い特権だと神楽は思う。
「そうだな。だから気にすることは無い。いつものように能天気なふりして笑ってろ」
「……仕方ないですね~。神楽がそーんなにこの可愛い笑顔をご所望なら優しい咲良様が叶えて差し上げましょう!」
神楽の言葉がお気に召したのか、咲良は神楽の顔を見上げた後、気取ったようににぱっと笑って見せた。
いつもの様子に神楽は心穏やかになる。
「か~ぐら! 今日のおやつは何ですか?」
「昼すっ飛ばしてもうおやつの話か。ホットケーキでも作ろうと思ってるが」
「神楽のホットケーキ! ふわふわのやつがいいです!」
「ふわふわ以外作ったことないだろ」
「はい! いつものやつがいいです!」
さっきとは打って変わってスキップでもし始めそうなくらい上機嫌になった咲良に自然と口角が上がる。
旅をするついでに極めてみた趣味だが、こうして手放しに喜ばれるのは嬉しいものだ。
早く残りの食材を買い込んで、お腹いっぱいになってからこれからの事を考るでも遅くは無い。
そう頭の中で予定を組んでいると、向かいから人影が歩いてきていることに気づいた。それ自体はおかしいことでは無い。だが、それが人であることはわかるのに、実態を持った影が歩いているように感じて顔の造詣がわからない。
故にわかった。それが魔法によってもたらされた現象だと言うことに。
「咲良。少し付き合ってくれ」
『魔女』中でも上位に入る実力の持ち主。咲良ほどの規格外ではないにしろ、十分に規格外な才能を有する〝紅の舞の君〟それが美ノ上神楽に与えられている階級と二つ名。
そんな神楽ですら影しかつかめないとなると相当な実力を兼ね備えている。そしてやましいことが無ければわざわざ維持が面倒な姿隠しの魔法など使わない。七割がた罪人だろう。
違うならいい。けれど予想が正しければ今止めないといけない。
救えるなら、守れるなら、導けるなら、手を差し伸べるのは力を持って産まれた者の特権。
そう、教えてくれた人がいたから。
神楽は咲良に声をかけ駆けだそうとした。が。
「神楽。あいつを追いますよ」
「は?」
いつもなら呆れた顔をして後ろからついてくるのが咲良なのだが、その人影を見ると咲良は眼を見開き手に持っていた林檎を道に落としてその人影へと走った。
あの人影が一体どうしたというんだ。
咲良の突拍子もない行動には慣れているが、今は様子がおかしい。訳も分からないまま、神楽は一歩遅れて咲良を追った。
咲良の身体能力はさして高くない。むしろ平均よりも下だ。すぐに追いついて人影を追尾する。
急に走り出した二人を町の人たちの変人がいると言わんばかりの視線が痛い。そんな目で見ないでくれ。
人影にたどり着くまで後三メートルほどになったころ、追われていることに気がついたのか人影が急激に薄くなった。自分にかけていた魔法を強化したのだろう。
気を抜けば見失いそうだ。そう判断し両の瞳に魔力探知の魔法を込める。それでもぼやける存在感。やはり普通じゃない。
人気のない路地に差し掛かろうとした辺りで、神楽はその人影を見失ってしまった。魔力の残滓を探ろうとしたが、そこに存在した痕跡を見つけることはできなかった。
「っ、見失った! 咲良、どっちに……」
早々に自力で探し出すことをあきらめ、自分よりも格上の咲良を頼ろうと隣を向くが、咲良は石造りの壁に手をついて愕然とした様子で肩で息をしていた。
初めて見る咲良の姿に息を詰める。まさか……。
「は、ははっ。この私を、欺いた? 『森羅万象』が? 『魔女』ごときに?」
「まさか、お前まで?」
「っ、っ!! ああもう! 絶対絶対許しません! 必ず後悔させてやる」
『森羅万象』の咲良を撒くなんて相手は思っていた以上にやばい相手だったらしい。恐らく神楽と同等以上の実力の持ち主。
いや、それ自体はありえない話じゃない。それよりまずは咲良をなだめて話を聞かなくては。神楽には人影が姿隠しに特化した『魔女』だということにしかわからない。
「咲良。とりあえず落ち着け。どうしたんだ。知り合いだったか?」
「知りませんよあんな人! でも神楽も知ってます。有名人です」
「俺も?」
「さっきまでその人のことについて話していたじゃないですか~」
いつも通りののんびり口調。しかしその表情は不本意と普段は見ることができない真剣な色を帯びていた。
さっきまで話していた『魔女』
それが示していることを理解すると、神楽の背筋にぞくりとしたものが走った。
「……! まさか、〝彼岸の悪魔〟か?」
「そうです。間違いありません」
「あれが……。予想以上に厄介だな」
それなら咲良がこんなにも荒れているのもわかる。捕えようとしていた存在が手の届く範囲にいたにもかかわらず逃げられているのだ。咲良じゃなくても悔しい思いをする。知らず神楽の拳に力が入る。
「にしても、咲良はどうしてあれが〝彼岸の悪魔〟とわかったんだ?」
神楽も咲良も〝彼岸の悪魔〟についての情報は闇属性。『魔女』。彼岸花を用いる。このくらいの一般で出回ってるほどしか知らない。なのに何故咲良は一瞬で見抜くことができたのか。
何も考えて無いようでいて最高位の魔導師に相応しい頭脳を持つ咲良の考えは、普段とは違う意味で神楽にはわからない。
「ええ~。神楽ったらわからないんですか? もう、しょうがないですね~。この優しい優しい咲良様が神楽の為に丁寧に教えてしんぜましょ~!」
「取り合えず、お前が殴りたいくらい腹立たしいことはわかったよ」
意地悪く笑った咲良は本当に、ほんっとうに腹が立つくらいに通常運転だった。
「どうしたってんだい」
「すまない。ちょっとご機嫌斜めになったらしい。気難しいやつなんだ。じゃあ、俺たちはこれで」
「はいよ。またの起こしお待ちしてるよ!」
これ以上咲良の機嫌が悪くならないうちに戻ろうと咲良を促す。
店主が笑顔で手を振っている。お世辞にもいいとは言えない態度を向けられたのに気のいい態度を向けることができるのは希少な才能だ。咲良を見ているとそう思うことがよくある。
「咲良。機嫌を治せ」
「別に悪くしてなんてないですよ〝紅の舞の君〟」
「お前の機嫌が悪くなったら二つ名で呼ぶ癖何なんだ」
「だーかーらー! 別に機嫌悪いわけじゃないです! 国なんかの使いと思われたのが気に入らないだけですー!」
頑なに認めずそっぽを向く咲良は、林檎を齧りながら神楽の隣を歩く。
「俺たちはヴィンズの迫害を止める。そのためにまずは〝彼岸の悪魔〟を探し捕らえる。そのために共にここまで来た。それだけだ。俺たちだけが知っていればいい」
「……そう、ですね。無知な愚か者であり続ければいいんです。皆。皆」
何も知らない一般人は、何も知らないままでいい。
それはある意味得難い特権だと神楽は思う。
「そうだな。だから気にすることは無い。いつものように能天気なふりして笑ってろ」
「……仕方ないですね~。神楽がそーんなにこの可愛い笑顔をご所望なら優しい咲良様が叶えて差し上げましょう!」
神楽の言葉がお気に召したのか、咲良は神楽の顔を見上げた後、気取ったようににぱっと笑って見せた。
いつもの様子に神楽は心穏やかになる。
「か~ぐら! 今日のおやつは何ですか?」
「昼すっ飛ばしてもうおやつの話か。ホットケーキでも作ろうと思ってるが」
「神楽のホットケーキ! ふわふわのやつがいいです!」
「ふわふわ以外作ったことないだろ」
「はい! いつものやつがいいです!」
さっきとは打って変わってスキップでもし始めそうなくらい上機嫌になった咲良に自然と口角が上がる。
旅をするついでに極めてみた趣味だが、こうして手放しに喜ばれるのは嬉しいものだ。
早く残りの食材を買い込んで、お腹いっぱいになってからこれからの事を考るでも遅くは無い。
そう頭の中で予定を組んでいると、向かいから人影が歩いてきていることに気づいた。それ自体はおかしいことでは無い。だが、それが人であることはわかるのに、実態を持った影が歩いているように感じて顔の造詣がわからない。
故にわかった。それが魔法によってもたらされた現象だと言うことに。
「咲良。少し付き合ってくれ」
『魔女』中でも上位に入る実力の持ち主。咲良ほどの規格外ではないにしろ、十分に規格外な才能を有する〝紅の舞の君〟それが美ノ上神楽に与えられている階級と二つ名。
そんな神楽ですら影しかつかめないとなると相当な実力を兼ね備えている。そしてやましいことが無ければわざわざ維持が面倒な姿隠しの魔法など使わない。七割がた罪人だろう。
違うならいい。けれど予想が正しければ今止めないといけない。
救えるなら、守れるなら、導けるなら、手を差し伸べるのは力を持って産まれた者の特権。
そう、教えてくれた人がいたから。
神楽は咲良に声をかけ駆けだそうとした。が。
「神楽。あいつを追いますよ」
「は?」
いつもなら呆れた顔をして後ろからついてくるのが咲良なのだが、その人影を見ると咲良は眼を見開き手に持っていた林檎を道に落としてその人影へと走った。
あの人影が一体どうしたというんだ。
咲良の突拍子もない行動には慣れているが、今は様子がおかしい。訳も分からないまま、神楽は一歩遅れて咲良を追った。
咲良の身体能力はさして高くない。むしろ平均よりも下だ。すぐに追いついて人影を追尾する。
急に走り出した二人を町の人たちの変人がいると言わんばかりの視線が痛い。そんな目で見ないでくれ。
人影にたどり着くまで後三メートルほどになったころ、追われていることに気がついたのか人影が急激に薄くなった。自分にかけていた魔法を強化したのだろう。
気を抜けば見失いそうだ。そう判断し両の瞳に魔力探知の魔法を込める。それでもぼやける存在感。やはり普通じゃない。
人気のない路地に差し掛かろうとした辺りで、神楽はその人影を見失ってしまった。魔力の残滓を探ろうとしたが、そこに存在した痕跡を見つけることはできなかった。
「っ、見失った! 咲良、どっちに……」
早々に自力で探し出すことをあきらめ、自分よりも格上の咲良を頼ろうと隣を向くが、咲良は石造りの壁に手をついて愕然とした様子で肩で息をしていた。
初めて見る咲良の姿に息を詰める。まさか……。
「は、ははっ。この私を、欺いた? 『森羅万象』が? 『魔女』ごときに?」
「まさか、お前まで?」
「っ、っ!! ああもう! 絶対絶対許しません! 必ず後悔させてやる」
『森羅万象』の咲良を撒くなんて相手は思っていた以上にやばい相手だったらしい。恐らく神楽と同等以上の実力の持ち主。
いや、それ自体はありえない話じゃない。それよりまずは咲良をなだめて話を聞かなくては。神楽には人影が姿隠しに特化した『魔女』だということにしかわからない。
「咲良。とりあえず落ち着け。どうしたんだ。知り合いだったか?」
「知りませんよあんな人! でも神楽も知ってます。有名人です」
「俺も?」
「さっきまでその人のことについて話していたじゃないですか~」
いつも通りののんびり口調。しかしその表情は不本意と普段は見ることができない真剣な色を帯びていた。
さっきまで話していた『魔女』
それが示していることを理解すると、神楽の背筋にぞくりとしたものが走った。
「……! まさか、〝彼岸の悪魔〟か?」
「そうです。間違いありません」
「あれが……。予想以上に厄介だな」
それなら咲良がこんなにも荒れているのもわかる。捕えようとしていた存在が手の届く範囲にいたにもかかわらず逃げられているのだ。咲良じゃなくても悔しい思いをする。知らず神楽の拳に力が入る。
「にしても、咲良はどうしてあれが〝彼岸の悪魔〟とわかったんだ?」
神楽も咲良も〝彼岸の悪魔〟についての情報は闇属性。『魔女』。彼岸花を用いる。このくらいの一般で出回ってるほどしか知らない。なのに何故咲良は一瞬で見抜くことができたのか。
何も考えて無いようでいて最高位の魔導師に相応しい頭脳を持つ咲良の考えは、普段とは違う意味で神楽にはわからない。
「ええ~。神楽ったらわからないんですか? もう、しょうがないですね~。この優しい優しい咲良様が神楽の為に丁寧に教えてしんぜましょ~!」
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