森羅万象の厚生記録

星川ほしみ

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瑠伽の涙

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 机と椅子を作り、ホットケーキを皿にのせて蜂蜜とジャムを並べる。つい昨日も見た光景だが、今日は皿が一つ多い。

「できたぞ。座れ」
「わーい! 遅いですよ神楽!」
「……わーい?」

 神楽が声をかけると、うんうん唸っていた咲良が両手をあげて飛び上がった。瑠伽も戸惑いがちに咲良の真似をして両手をあげる。咲良がやけに唸っていたようだが何を話してたんだ。

「神楽のホットケーキはすっごく美味しいんですから! 私のお気に入りなんですよ!」
「咲良様の?」
「まあ神楽の料理はみーんな美味しいですけど!」
「キラキラ。ふわふわ」

 咲良様呼びが定着してしまったらしい瑠伽がほっぺに手を当てて目を輝かせる。こんなもの見たことが無いというような反応に、神楽は少し複雑になりつつ、素直に嬉しく思った。
 これからは痛みも苦しみもない、温かくて優しいところに行ける。そこで傷ついた心をゆっくり癒せばいい。

「蜂蜜、ジャム。気になるものを試せばいい」
「あむ。やっぱりロゼッタの林檎は美味しいです~」
「咲良様と、同じ、の。どれ?」
「そこの赤い粒々が入ってる黄色のやつですよ~」
「ん」
「随分懐かれてるじゃないか」
「おかしいですね~。特に懐かれることをした覚えは……」
「咲良様、好き。ホットケーキも好き」

 フォークを咥えながら隣にいる咲良のワンピースをくいっと引っ張りながら咲良を見上げる瑠伽の目は純粋だ。慣れない視線に咲良が居心地悪そうだ。普段と違う咲良の姿に神楽は愉快だとにんまり笑う。

「何ですか神楽」
「いや、珍しいと思ってな」
「ぐぬぬ。性格が悪いですよ」
「咲良に言われるとは俺も落ちたかもしれないな」
「ちょっと待ってくださいどういうことです?」
「そういうことだ」

 涼しい顔の神楽を咲良がじと目で睨む。

「ああ。そんなことより……」
「そんなこと!?」
「そんなことより。六時間後秋璃が迎えに来るぞ」
「むぅ。いつの間に秋璃に連絡とったんです」
「作りながらだな」
「良かったですねー。新しい家族ができますよ~」
「……家族」

 これで解放される。と言わんばかりの満面の笑みで言う咲良の言葉に、瑠伽が俯き、目に涙が溜まっていく。これに咲良があっと声を漏らした。
 何か知っているらしい。

「瑠衣……」
「あー。そうでした」
「咲良。話せ」
「んーっとですね~。瑠伽の弟なんですけど、闇属性でどこかに連れていかれて二度と会えないって言われたらしいんですよね~」
「ん……ぐずっ。瑠依ぃ……」

 ぐずぐずと本格的に泣きだした瑠伽のぽっぺを、咲良が軽く引っ張った。
 かける言葉を探していた神楽はギョッ目をむいた。

「咲良!?」
「ふぇあ? はふゅひゃひゃま?」
「びよーん。子供のほっぺって結構伸びるんですね~」
「咲良、お前なにし……」
「ふふん。なーんか気に入らないからお仕置きです。ほらびよ~ん!」
「ひ、ひほーん」
「あ、ついでに神楽のもびよーんと」
「何がだ! やめろその手を下ろせこっちに来るな!」
「逃げないでください傷つきますよ~」
「お前にそんな繊細な心は存在しない」

 驚いて涙が引っ込んだ瑠伽を置いて、神楽の顔がある位置で両手をワキワキさせて咲良が迫ってくる。食べてる途中だろ行儀悪い。やめろ来るな逃げるしかなくなるだろう。

「つーかまえた!」
「んぐっ。瞬間魔法は卑怯……ほひひゃめろ」
「あんまり柔らかくありませんね~。楽しくないです」
「ひゃあ、は、なせ馬鹿!」

 目視できる範囲に移動する瞬間移動魔法まで使ってぽっぺを引っ張ってきたあげく楽しくないと言い放った咲良の手を叩く。なんてやつだ。
 いつもの調子の二人のやり取りに、涙の痕を残したままポカンとしていた瑠伽が小さく噴き出した。
 助けてから一度も光のないぼんやりとした瞳しか見せることが無かった瑠伽が笑ったことに、神楽も咲良も一瞬ポカンとして顔を見合わせる。

「ふふ。あははっ。咲良様いじわる」
「だーれが意地悪ですか。意地悪は神楽です」
「よく言えたなお前」

 心外。というように反論した咲良を信じられない思いで見やる。俺が意地悪だったら咲良は悪魔だ。
 瑠伽はそれにも控えめに笑って、思い出したように目を潤ませた。こぼれそうになった涙を隠すように、咲良に飛びついて抱き着く。咲良の顔があからさまに引きつった。それでも無理やり引きはがさないのは、闇属性が故に傷つき、兄弟を失った瑠伽に同情しているからだろうか。
 それとも、健気に慕ってくるのが内心満更でもないのか。

「うわ。もう。勘弁してくださいよぉ。あっちの方がお人好しで扱いやすいですよ?」
「いろんな意味で酷いぞお前」
「今更ですね」
「改善のご予定は?」
「ございませんね」
「知ってた」

 相も変わらずなやり取りの間にも、瑠伽は咲良の膝に顔を押し付けて声を殺してしゃくりをあげる。その様子は瑠伽の悲しみが伝わってくるようだった。
 咲良がそんな瑠伽の頭を優しくなでる。瑠伽を見下ろす視線も温かい。初めて見る咲良のそんな表情に、思わず見入る。

「うっ、瑠衣ぃ……。大事、大事だったのに。守って、あげなきゃだったのに……」
「しょうがないですねぇ。そんなに泣くなら復讐でもしに行きますか」

 ただ、優しい顔で言った言葉は物騒なもので、神楽は慌てた。
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