転生したけどレア度N!?ディレイ「遅くなる(対象:自分)」しか使えない件

月猫ひろ

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走る、走る―
地下牢への道は足元が悪く、非常に走り難い。
ともすれば足を取られ、転びそうになる。
それでも、走る、走る―
冷たい空気に冷えていく肺が苦しくとも、岩に擦った耳から血が滲んでも。
モンスターを食い止めてくれている2人の為にも、早く神の御使いを助けなくてはならない。
「こっち……です…あの奥!」
「あれっすね!」
もうすぐ地図の場所に到着する。
トウタが指を指すと、タカは追い抜いて向かっていった。
トウタは限界とばかりに足を止め、壁に手を突いて息を整える。途端に滝のような汗が吹き出し、地面を濡らしていった。
幾ら息を吸っても全く足りない。
手足が奮え、視界が揺れている。
部活の合宿もこれくらい苦しかったなと思いつつ、なまっている自分の体が情けなくなった。
「牢屋の扉、開きましたぜ!中に……うっひゃ、美人がいるぜ!」
「す…すぐ行きます……」
タカが檻の鍵を開けたらしい。
トウタは急いで奥へと進んだ。
「はー!神の御使いじゃなければ、やっちゃいたい所っすね!」
「同意を求められても……困ります……」
「そっすか?まあ、トウタの兄貴には、ユリアの姉さんがいますもんね」
タカの性根は相変わらず腐っているようだが、時と場合は弁えているらしい。
両腕を縛られて吊るされているレイカを、いそいそと解放している。
(う~ん……綺麗だもんね……)
衣服が破れ、肌の所々が赤く裂けている。
鎖に縛られている姿は、タカに言われるまでもなく扇情的だった。
「ありがとう、助かった」
「いやー、俺はタカって言います!以後よろしく!」
レイカは随分と疲弊している様子。
しかし、威厳のようなモノは失われていなかった。
「せっかくの再会だが、時間もないのだろう?」
「あ……はい!ワシさんとリズさんが…通路を守ってくれているんです」
「君の視界を通して、それなりの情報を把握している。私に残っている力は少ないが、道くらいは切り拓いて見せよう」
レイカは傷だらけの体の動きを確認すると、右腕を体の前に掲げた。
「『戻れ』!」
スキルの発動の後、しばしの間。
レイカの手から衝撃が発生し、トウタは思わず目を閉じた。
目を開けると、レイカの手には柄も刃も真黒な、闇を形にしたような槍が握られていた。

「『無影脚』!!」
ワシの姿が消え、次の瞬間に狼の魔物を蹴り飛ばしていた。
「切りがないな!」
横合いから突撃してくる豚の魔物を交わし、横腹に蹴りを食らわせる。
ギャアアアアア
「く!『豪爆脚』!!」
後ろから迫る体長2メートル強の魔物の右腕を、右足の蹴りで受け止めた。
「うぐ……!」
ビシリと、右足の中から嫌な音が這い上がってくる。
「はああ!『ストンプ』!!」
魔物の右腕を、右足で蹴り飛ばす。
そのまま懐に踏み込んで、魔物の胸を蹴り飛ばした。
「頭下げな!!」
「!!」
リズの声に反応して姿勢を低くする。
しゃがんだワシの頭上を、リズの大斧が薙ぎ払う。
ワシに迫っていた魔物達が、風圧で吹き飛んでいく。
「遠距離攻撃が来るぞ!!」
ワシの声で辺りを確認。
ライオンの魔物が口を開け、リズに向けて熱線を吐き出そうとしていた。
「ウォール任せた!!」
「もうそろそろ、ストックがなくなるぞ!『ストーンウォール』」
ワシがカードを投げると、リズの前方に石の壁が表れた。
モンスターは構わず熱線を吐き出し、石の壁が粉々に砕け散る。
「『暴風戦斧』!!」
リズは体に風を纏ってスピートアップし、ライオンの魔物との距離を詰める。
「横から来てる!!」
「っ!!『シールド』!!」
リズは横から距離を詰めていた熊の魔物に叩き飛ばされた。
そのまま数メートル転がり、壁に激突した。
「大丈夫か!」
ワシは、リズを守る様に位置を変える。
「シールドの上からだったから、死にゃあしないよ……ぐ!」
リズは強がっているが、すぐには動けない様子。
立ち上がれないリズを狙って、熊の魔物が突撃を開始した。
「『ストーンウォール』!!」
ワシはリズと熊の魔物との間に入り、石の壁を出現させた。
が、しかし。
「ぐああああ!!」
熊の魔物は石の壁を破壊し、そのままワシも弾き飛ばした。
「だ…大丈夫かい?」
「死んではいない……」
ガアアアアアアアアアアアアアアアアア
立ち上がれない2人を見てか、部屋中に魔物達の吠え声が響き渡った。
勝ち誇る様な、蔑む様な。
リズもワシも体勢を整え直すが、魔物達は既に遠距離攻撃の準備に入っている。
シールドやウォールは後何回分か残っているものの、それを消費してしまったらお終いだ。
「左右に別れて……突撃するぞ」
防ぎ切ることが出来ないのならば、一か八か、遠距離攻撃を掻い潜って突撃するしかない。
ワシは折れた右足の違和感を誤魔化すために、強化のスキルを発動した。
「今更悪いんだけど、壁抜けとかで逃げるのは無理かい?」
「ここの壁は複雑な仕組みになっていて、壁抜けは簡単には出来ない。破壊して逃げるのも不可能だろうな」
「そうかい、ならやるしかないね」
リズは不敵に笑うと、大斧を杖にして立ち上がった。
「勇敢な戦士達だな。立ち上がってくれた所申し訳ないが、伏せててくれ」
そんな2人に、聞き覚えの無い声が届いた。
「誰だい?」
リズとワシが声の方を振り向くと、そこには漆黒の槍を構えるレイカの姿があった。
2人はレイカが神の御使いだとは知る由もない。
しかし、これから何か大変な事が起こる事だけは、本能的に恐怖できた。
「ありったけのシールドとウォールを使うぞ!」
「ダメだって!とにかく伏せて小さくなるんだよ!」
慌てふためく2人を他所に、空間中の魔力がレイカへと集まっていった。

空間を埋め尽くす膨大な量の魔力。
それを使用できるのは魔物、魔獣、魔人、魔王の類だけだ。
しかし、神の造形物である神器を使えば、普通の人間でも活用することが出来る。
「頼みます。この体はもうそれ程持ちませんが、役目だけは果たします」
レイカは漆黒の槍に語り掛けると、投擲の構えを取った。
槍に集まっていく魔力を感知したのか、魔物達はレイカに警戒心を向ける。
ガアアアアアアアアア
熊の魔物が咆哮を上げ、レイカへと突撃を開始した。魔力を纏った数トンの肉の塊は、レイカを易々と押し潰すことだろう。
けれどもレイカは臆することなく、プログラムを実行する。
「『殲滅する千棘の偽証(グングニル・レプリカント)』!!」
レイカが投擲すると、漆黒の槍は球形に変化。爆発と共に、無数の槍をまき散らした。
ガアアアアアアアアアアアア
部屋中に魔物の断末魔が反響する。
血や臓腑の匂いが充満し、レイカの後ろにいたトウタは吐きそうになる。
「すげえや」
タカが感動を吐き出す程、戦力差は圧倒的。
全滅は、あっけないほど一瞬で訪れた。
「『戻れ』」
動くモノは死体から噴き出す血飛沫だけ。
静寂に包まれた部屋で、レイカの声が漆黒の槍を呼び戻した。
「すげえええええ!」
「あんた、あんた!もしかして神の使徒様かい!?」
「やったぜ!姉さん!」
ワシ、リズ、タカの3人とも、レイカに走り寄って燥いでいる。
無数の魔物を屠った今の攻撃は、冒険者から見ても強烈な一撃だったのだろう。
「下がった方が良い」
駆け寄ってくるワシ達に、レイカは警告を出した。
何かに気付いたタカは、部屋の上方を指さした。
「ワシ!まだ来てるぞ!」
「っ!」
天井を見ると、体長5メートルほどのモンスターが壁を駆け下りて来ていた。
羽と角が生えた大型の獣で、ゴリラの様な出で立ちをしていた。
「魔獣だ!あんなヤツに勝てる訳ねえ!」
「そ…そうなんですか…!」
タカが慌てるのを見て、トウタもあたふたする。
一方レイカは落ち着いた様子だ。
「出口に向う。死にたくなければ、ついて来るんだ」
「は…はい…!」
レイカは空間の出口に向かって走り、他の皆は後に続く。
魔獣は壁を蹴ると、空中からレイカに襲い掛かった。
「『大斬撃』!!」
魔獣の腕がレイカに触れる直前。
エネルギーの刃が、魔獣の巨体を吹き飛ばした。
「大丈夫かよ!」
「ああ。だが、肉体が限界だ。あいつは任せて大丈夫か?」
「余裕に決まってるだろ」
見ると入り口にはカズオ、スミレ、ジュン、タクシの4人が立っていた。
レイカはカズオと言葉を交わすと、速度を緩めずに空間の外に出る。
「ま、待ってくれ、姉さん!」
タカ、ワシ、リズもレイカの後に続き、外に出ていった。
「あ?無事だったのかよ、トロタ」
「……うん」
しかしトウタは、4人の前で立ち止まっていた。
どうしていいのか戸惑うトウタに、ジュンが冷たく言い放つ。
「どうせ役に立たないから、そこら辺に居ろよ」
「……分かった」
トウタは空間から出て、遠慮がちに中を窺う。
カズオ達4人は魔獣に向き直り、迎撃体制を整えた。
「行くぞ、援護しろ!」
カズオの掛け声をきっかけにして、地面を揺るがす激しい戦闘が始まった。
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