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第四章『進む道』1
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「どういうこと……なの……?」
トウタは訳も分からぬままベッドから降りる。動いた拍子に点滴の針が外れたが、痛みを感じている余裕も無かった。
カーテンを開けて外を確認する。
夜空には月、建物の周りには、鬱蒼と木が生い茂っている。
病院は山の中腹にあるらしく、周りに近代的な建物は見当たらない。
しかし、遠くの方には街明かりを見ることが出来た。
「電気だ……僕達の街だ……」
知らない内に涙が溢れていた。
それが何の感情なのか、分からなかった。
帰ってきたことが嬉しかったのか?途中で投げ出してしまったことが悔しかったのか?そもそもあれは現実なのか?夢を見ていただけではないのか?
「夢……?」
トウタは自身の体を見る。
見慣れぬ患者服を着ているが、目立った外傷はない。
別段気分が悪い事もなく、健康体と呼べる分類に思えた。
「皆が戦っているなら……戻らないと……」
硝子に映る自分に向かって、思っても無い事を口走る。
ガトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト
電車が走る音が、耳の奥で這い回る。
車窓に反射する自身の顔には、驚くほど表情がない。
小学生でバレーを始めた。小5の時点で身長が170センチあり、元々の身体能力の高さもあって、県内有数の選手となった。バレーの強い中学に行き、大会でも活躍を続けた。
しかし、身長は175センチで止まってしまった。
身長の低さはバレーにおいて致命的だ。寧ろ身長こそが才能と言え、無いモノはそれだけで脱落しかねない。
初めは他の才能や練習量、戦い方で覆せると思っていた。いや、思いたかった。
ミドルブロッカーは、190センチを超えることも珍しくない。腕が長い者も多く、言うなれば皆は自分より20センチ高い場所に居るのだ。
相手よりも20センチ高く飛べばいい。相手よりも努力すればいい。
そんな事を言って、悦に浸っていた奴もいた。
しかし、それは正論ではなく机上の空論だ。
高く飛んだって相手も高く飛ぶ。努力したって相手も同程度、人生を使い潰している。
身長対策に努力を割いている分、自分が出遅れ続けるのなんて目に見えているのだ。
「おえ……っ……」
高校ではバレーは辞めようと思った。バレーの強い私立の勧誘を蹴り、地元の公立に進学する事にしたのだ。しかし、地元の公立はそれなりにバレーが強く、しかも長年一緒にバレーをしていたジュンが同じ高校について来てしまった。
内申に加味して貰った負い目もあり、勧誘を断ることが出来ずにバレー部に入部。
変なプライドのせいで持てる全てを必死にぶつけ、1年時にレギュラーを勝ち取り、春高バレー全国への切符を手に入れた。
全国大会の戦場には、化け物ばかりがいた。
「うぇ……え……」
勝てる訳が無かった。戦ったって意味がない。自分が出ない方が勝つ確率が高い。
そんな風に考えて、
――いや、何も考えていやしなかった。
試合当日に逃げ出した。
正確には試合会場に向かう電車で、降りるべき駅で降りなかった。
その後はただただ電車の窓の外を眺め続けて、皆から掛かってくる電話を無視していた。
『逃げた後の記憶が無い』なんて言えたら良かっただろう。
実際は試合後に到着した会場の悲壮感も、チームメイトや応援団からの叱責も、帰りのバスでの怒号も、全て鮮明に刻み込まれている。
勿論、その後の地獄のような学生生活も。
「逃げた……から……そうなった……逃げなかったら……昔の……」
皆が褒めて、期待して。注目してくれるような人間に。
バレーは出来ない。勉強だってやってこなかった。
この惨めな人生に終止符を。
生まれ変わったら、ヒーローになりたい。
そんなことを考える終わりが、僕の人生なのだと思う。
「っ……!!」
夜風に頬を叩かれてハッとした。
窓から上半身を乗り出して、長い時間が経っていたらしい。
血が上ってクラクラする頭が、間違って前に進まない様に、ゆっくりと病室に体を戻す。
窓を開けて吐いていたのか、それとも飛び降りようとしていたのか。
思考がグチャグチャのまま、ベッド脇に凭れて床に座った。
「生まれ変わったって……ヒーローになんてなれなかった……」
あの異世界は夢だったのだろう。
ならいっそのこと、この世界まで夢だったらよかったのに。
トウタは自身の腕を眺めた。
そこに手甲は無く、見覚えのあるリストバンドが嵌められていた。
中にお金が入れられるタイプのリストバンドだ。修学旅行の朝は付けていなかったので、寝ている間に、誰かが付けてくれたのだろう。
「……炭酸飲みたいな」
リストバンドのチャックを開けて確認すると、千円札が入っていた。
トウタは吐瀉物の付いた口元を拭うと、自販機を求めて病室を後にした。
トウタは訳も分からぬままベッドから降りる。動いた拍子に点滴の針が外れたが、痛みを感じている余裕も無かった。
カーテンを開けて外を確認する。
夜空には月、建物の周りには、鬱蒼と木が生い茂っている。
病院は山の中腹にあるらしく、周りに近代的な建物は見当たらない。
しかし、遠くの方には街明かりを見ることが出来た。
「電気だ……僕達の街だ……」
知らない内に涙が溢れていた。
それが何の感情なのか、分からなかった。
帰ってきたことが嬉しかったのか?途中で投げ出してしまったことが悔しかったのか?そもそもあれは現実なのか?夢を見ていただけではないのか?
「夢……?」
トウタは自身の体を見る。
見慣れぬ患者服を着ているが、目立った外傷はない。
別段気分が悪い事もなく、健康体と呼べる分類に思えた。
「皆が戦っているなら……戻らないと……」
硝子に映る自分に向かって、思っても無い事を口走る。
ガトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト
電車が走る音が、耳の奥で這い回る。
車窓に反射する自身の顔には、驚くほど表情がない。
小学生でバレーを始めた。小5の時点で身長が170センチあり、元々の身体能力の高さもあって、県内有数の選手となった。バレーの強い中学に行き、大会でも活躍を続けた。
しかし、身長は175センチで止まってしまった。
身長の低さはバレーにおいて致命的だ。寧ろ身長こそが才能と言え、無いモノはそれだけで脱落しかねない。
初めは他の才能や練習量、戦い方で覆せると思っていた。いや、思いたかった。
ミドルブロッカーは、190センチを超えることも珍しくない。腕が長い者も多く、言うなれば皆は自分より20センチ高い場所に居るのだ。
相手よりも20センチ高く飛べばいい。相手よりも努力すればいい。
そんな事を言って、悦に浸っていた奴もいた。
しかし、それは正論ではなく机上の空論だ。
高く飛んだって相手も高く飛ぶ。努力したって相手も同程度、人生を使い潰している。
身長対策に努力を割いている分、自分が出遅れ続けるのなんて目に見えているのだ。
「おえ……っ……」
高校ではバレーは辞めようと思った。バレーの強い私立の勧誘を蹴り、地元の公立に進学する事にしたのだ。しかし、地元の公立はそれなりにバレーが強く、しかも長年一緒にバレーをしていたジュンが同じ高校について来てしまった。
内申に加味して貰った負い目もあり、勧誘を断ることが出来ずにバレー部に入部。
変なプライドのせいで持てる全てを必死にぶつけ、1年時にレギュラーを勝ち取り、春高バレー全国への切符を手に入れた。
全国大会の戦場には、化け物ばかりがいた。
「うぇ……え……」
勝てる訳が無かった。戦ったって意味がない。自分が出ない方が勝つ確率が高い。
そんな風に考えて、
――いや、何も考えていやしなかった。
試合当日に逃げ出した。
正確には試合会場に向かう電車で、降りるべき駅で降りなかった。
その後はただただ電車の窓の外を眺め続けて、皆から掛かってくる電話を無視していた。
『逃げた後の記憶が無い』なんて言えたら良かっただろう。
実際は試合後に到着した会場の悲壮感も、チームメイトや応援団からの叱責も、帰りのバスでの怒号も、全て鮮明に刻み込まれている。
勿論、その後の地獄のような学生生活も。
「逃げた……から……そうなった……逃げなかったら……昔の……」
皆が褒めて、期待して。注目してくれるような人間に。
バレーは出来ない。勉強だってやってこなかった。
この惨めな人生に終止符を。
生まれ変わったら、ヒーローになりたい。
そんなことを考える終わりが、僕の人生なのだと思う。
「っ……!!」
夜風に頬を叩かれてハッとした。
窓から上半身を乗り出して、長い時間が経っていたらしい。
血が上ってクラクラする頭が、間違って前に進まない様に、ゆっくりと病室に体を戻す。
窓を開けて吐いていたのか、それとも飛び降りようとしていたのか。
思考がグチャグチャのまま、ベッド脇に凭れて床に座った。
「生まれ変わったって……ヒーローになんてなれなかった……」
あの異世界は夢だったのだろう。
ならいっそのこと、この世界まで夢だったらよかったのに。
トウタは自身の腕を眺めた。
そこに手甲は無く、見覚えのあるリストバンドが嵌められていた。
中にお金が入れられるタイプのリストバンドだ。修学旅行の朝は付けていなかったので、寝ている間に、誰かが付けてくれたのだろう。
「……炭酸飲みたいな」
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トウタは吐瀉物の付いた口元を拭うと、自販機を求めて病室を後にした。
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