長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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109:幸運か不運か

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 僕たちはパンを持って
別荘に戻った。

 それからアンナに
匂い袋を見せて
ガイに買ってもらったから
今日から使うと告げる。

アンナは匂い袋を珍しそうに見て、
「良い香りです」と頷いた。

「甘い香りの袋は、
ぼっちゃまの寝室に置くことに致しましょう。

もう一つは、普段身に着けても
構いませんし、
クローゼットの中に
忍ばせておくのも良いかと」

「うん、そうだね」

匂いは徐々に薄れていくだろうし、
もったいないからと使わないよりは、
どんどん使った方が良い。

「それとぼっちゃま。
夕食はいかがいたしましょうか」

もうすぐ夕方だから
食事の準備があるのか。

でも僕にしてみたら、
起きたばかり……でも
ないけれど。

あまりお腹は空いていない。
なんか、盛り沢山の経験をしたし。

「まさか、外で何か飲食を?」

「えっと、ケインに
飲み物を買ってもらったんだ。

あ、大丈夫だよ。
ケインがちゃんと
確認したものを飲んだから」

勝手に買い食いしたんじゃないよ、って
僕は慌ててアンナに言う。

僕は小さいころに慣れないものを
食べただけで寝込んだことが
あるから、毒物だとか
そういう意味だけではなく、
普通に食べ物には注意を払うようにしているんだ。

……僕ではなく、
僕の周囲の人たちが。

それにガイにも
知らない人にもらったものは
すぐに食べたらダメって
言われているから、

外で購入したものも、
キャシーさんのパンだって、
僕はちゃんとガイやケインが
確認したものしか口に入れていない。

あ、でも。
これからは天使の加護が
あるから大丈夫なんじゃないかな?

そんなこと、アンナには言えないけれど。

「僕、先にお風呂に入ろうかな」

その方がお腹が空く気がする。

「かしこまりました」

「そうだ。
今日はね、大浴場に行ってみたい」

2日連続で露天風呂だったから
今日は室内の大きなお風呂を見てみたい。

僕がそう言うと、
アンナが「確認して参ります」と
頭を下げた。

一応、誰も入ってないか、
確認してから、
準備をするのだという。

広い大きなお風呂は初めてだ。
しかも温泉だなんて。

一人で入ったら、
泳げるかも。

でもガイが一緒に入ろうって
言ってくるかも。

そうなったら、
一緒に入ってもいいけれど、
今は一人でお湯を堪能したいかも。

その後は、ガイと一緒に
ご飯を食べたらおいしいだろうな。

僕が、むふふ、って
考えている間、
机の上に置いたブレスレットが
ほんのり赤く輝いていたことに
僕は気が付かなかった。

普段アクセサリーを
身に着けることがないから
すっかり忘れていたのだ。

アンナが戻ってきて、
僕を大浴場に連れて行ってくれる。

着替えとタオルを用意して
アンナは僕に「いいですか」
と念を押すように言う。

「湯の中で遊んで
溺れないように
気を付けておはいりください」

「わかってるよ」

さすがにお風呂で
溺れることは無いと思う。

「私はお側に付くことが
できませんが、
大丈夫でしょうか?」

僕はびっくりだ。
アンナは絶対に僕の髪を
洗うのだとついてくると思っていた。

「本日、調理場の人出が
足りないらしく、
手伝いを頼まれているのです」

「そうなんだ。
頑張ってね」

「ありがたき言葉。
誠心誠意、努めてまいります」

アンナは頭を下げた。

「それから、あの次男様ですが」

「えっと、ガイのこと?」

「そうです。
ガイディス・ブレイトン様ですが」

相変わらず、アンナは
ガイの名前を呼ぶときに
ちょっとトゲがある。

「ぼっちゃまと屋敷に戻った後、
騎士団に呼び出されて
出かけております。

……本当にお一人で
入られますか?」

「もう、アンナ。
大丈夫だよ。
僕をいくつだと思ってんの」

「……承知致しました」

アンナはしぶしぶと
言った様子で頭を下げて
脱衣所から出て行く。

僕は「もう、過保護なんだから」
とつぶやいて。

あのブレスレットのことを思い出した。

「僕が、一人でお風呂に
入りたいって思ったから?」

まさかね。
偶然だよね。

僕は脱衣所で服を脱いだ。

物凄く広い脱衣所だ。

服を置く棚も多いし、
体を休める場所もある。

長椅子や、飲み物が
入っているんだと思う。

棚に置けないぐらいの
大きな保冷箱も
床に置いてあった。

タオルの棚も、
使用済の洗濯物を
入れる籠もある。

きっと使用人たちが
一度に沢山お風呂に
入りに来ても
対応できるようになってるのだろう。

僕はお風呂場へ続く扉を開けた。

むわっと熱い空気が
僕の顔にかかった。

目を凝らしてみると……
「広い~」
思わず声を挙げてしまうほど
大きなバスがあった。

床は大理石で、
昨日入った滝の露天風呂が
3つは入りそう。

と、思ったけれど。

このお風呂も1つじゃなかった。

良く見たら区切りがある。

僕はシャワーを浴びてから
一番小さなお風呂に
手を入れてみた。

「冷たい」

なんと、水だった。

なんで水!?

その次に大きなお風呂に
手を入れてみる。

すると、なぜか手が
静電気にあたったみたいに
ピリピリした。

なんで?
と湯を覗き込むと
魔石が取り付けてあるのが見える。

あの魔石で、わざと
ピリピリした湯にしているのかも。

何か理由があると思うけれど、
僕にわかるはずがない。

結局僕は一番大きなお風呂に
入ることにした。

石造りのお風呂だったけど、
壁には動物のレリーフがあり、
ライオンの口から
温泉がどんどん吐き出されていく。

そっと手を差し出すと、
かなり熱い湯が入ってきている。

お風呂には段差があり、
座れるようになっていたけれど、
それだけじゃなかった。

淵にそって手すりが
あったので、
手すりを持ったまま
お風呂をくるりと移動してみたら
ものすごく深い場所があったんだ。

僕の背伸びをしても、
なんとか首が湯の上に出るぐらい。

こんなに深いお風呂なんて
僕は初めてだ。

泳ぐ?
泳いじゃう?

と言っても、
僕は泳いだことがないから
足が付く場所で、
体を浮かせて
手足をバタバタさせてみる。

すると、体が
すい、っと動いた。

すごい、すごい。

僕は大はしゃぎだ。

とはいえ、ここはお風呂で
室内の温度も高い。

湿気もあるし。

つまり僕は、
あっという間に疲れてしまった。

のぼせてきたとも言える。

もう上がりたい。
けど、体がだるい。

「ガイ~、迎えに来てー」

一人でお風呂に入りたいなんて
思ってごめんなさい。

って僕は心の中でガイに謝った。

すると。

「エレ? いるのか?」

って扉の外からガイの声がした。

「ガイ? ほんとに?」

来てくれたの?
どうして?

え?
あの、ブレスレットの力で?

驚いている僕の前で
扉が開き、
裸足になったガイが入ってきた。

「大丈夫か?
この風呂は深い場所があるから
一緒に入ろうと思っていたんだ」

ガイは服を着ていたけれど、
僕が手を伸ばしたら
濡れるのも気にせずに
僕を抱き上げてくれた。

「少し温度が熱かったかもな」

「うん。外のお風呂よりは
熱かった」

「露天風呂は外の空気で
すぐに冷めるからな」

ガイは言いながら
僕を脱衣所に連れていく。

そして近くの椅子に僕を下ろし、
僕の体をタオルで包むと
魔石を使って風を僕の体に当ててくれた。

「飲めるか?」

「うん、ありがとう」

冷たい水を差し出されて
僕は一気に水を飲みほした。

ふう。
良かった。

あのままのぼせていたら
絶対にお風呂で溺れていた。

僕はちらりとガイを見る。

「ガイはお仕事じゃなかったの?」

「仕事というか……
呼び出されたんだが、
たいした用事でもなかったんだ。

ただ騎士団ではなぜか
俺の意見を聞くべきだとか
そんな空気になってたみたいでな。

俺が実際に出向いたら、
なんで呼び出したんだ、って
あちこちで責任転嫁が起こってた」

ガイは苦笑しながらいう。

僕は、あんなに
体が熱かったのに、
背中に冷や汗が出た気がした。

だって、やっぱり
そう言うことだよね?

「エレ?」

「ううん。なんでもない。
これからご飯だって
アンナが言ってたよ」

「そうだな。
一緒に食うか」

ガイはそう言って
僕に着替えを渡してくれたけど。

僕はあのブレスレットのことを
ガイにどういうか
物凄く悩んでいた。

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