165 / 355
隣国へ
164:魂と器
しおりを挟む改めて言うと『私』と言う存在は、
肉体と魂がある。
でもこの肉体は、勇くんの体で、
私の体は元の世界で勇くんが使っている。
だから、身体はしょせん、魂を入れる『器』のようなものだ。
私個人の意識は、魂の中にある。
と、女神ちゃんは言う。
女神ちゃんは、
私の愛されたいという気持ちを増幅させ、
勇くんの体を媒体として、
愛情を注ぎ、貯めておくための『器』を作った。
そして『器』に溜まった愛情を
『聖なる力』に代えて私は魔を浄化したりしていたのだ。
ところが、女神ちゃんはこの前
私の魂に、女神ちゃんの力を注ぎ込んだ。
『器』に溜まった聖なる力と、
女神ちゃんの神の力は、まったく別のものらしい。
女神ちゃんも、神の力を貸し与えた人間は
私が初めてらしいので、確証はないけれど
どうやらこの異なる二つの力がせめぎ合い、
一つに融合したのではないか、と言う。
しかも私、ディランとマイクに愛されて
『器』は満タンだったしね。
『器』では収まり切れない量の愛情と
強大な神の力が互いにぶつかり合い、
『器』が壊れてしまったらしい。
らしい、というのは、私ではわからないから
女神ちゃんの言葉を信じるしかない。
そして今私には、神の力と聖なる力が
混ざり合い、私の体を循環しているそうだ。
つまり『器』に愛を溜める必要はなくなったということだろうか。
『いや、わしの力はそなたに貸し与えているから
常に使えるが、聖なる力はまた別じゃ。
愛が不足したら、その分だけ力は弱まるじゃろう』
つまり絵具と同じか。
愛情が赤で神の力が青だったら。
今、私の体には紫の力があるけれど、
愛情の赤色が少なくなったら、青紫、もしくは
青の力しかなくなる。
愛情で満たされたらまた赤い色が増えて
通常の紫にもどるということか。
何か私、だんだん人間離れしていってるよね?
『これからは力の使い方も変わってくるじゃろう。
なにせ『器』が無くなったんじゃからの』
「それで……具体的に、私はどうしたらいいの?」
『ん? そのままでいいと思が、違うのか?』
女神ちゃんは可愛らしく首を傾げるが
そんな仕草では誤魔化されない。
「だって、力の使い方が変わるんだったら
どうやって使えばいいのか教えて欲しいし、
女神ちゃんの力を借りてるって言っても、
それを何に使えばいいかわからないし。
そもそも、聖なる力と神の力の違いも
何ができて何ができないのかもわからないし」
教科書とかテキストとかあるなら持って来て!
と私が怒ると、女神ちゃんは目に見えておろおろした。
『そ、そんなものは無いし、
感覚でわかるじゃろう?』
「わからないから聞いてるの」
というと、女神ちゃんは
本当に困ったような顔をした。
いやもう、困ってるのは私なんだけどね。
どうしたものか。
どうせ力を練習するつもりだったから
片っ端からやってみればいい?
でも何をどう使うかもわからないのに?
やっと『器』の力の使い方が
わかってきたところだったのに。
とほほ、と私は紅茶を飲む。
うん、美味しい。
『そ、そうじゃ!
今のユウなら、心眼が使えるぞ』
「しんがん?」
『そうじゃ。見たいと思ったことが
見えるようになるのじゃ』
これまた曖昧なことを言う女神だ。
『便利だと思うぞ?
心眼をテキスト代わりに使うと良い』
「それはどうやって使うの?」
『見たい、と思えばいいんじゃ!』
と自信満々に可愛い顔で言うけれど、
全然わかんないし。
女神ちゃんはきっと、
家電を買ったら説明書を見ずに
ひたすらボタンを押していくタイプだな。
『せっかくあの村にいるんじゃ、
心眼も使ってくれ』
「あ、そうだ。
あの泉、なんか闇の……怨霊みたいなのが
封印されてたんだけど」
思い出した。
あれをどうするか聞いておかないと。
『怨霊?
なんじゃ、それは』
女神ちゃんが首を傾げるので
私はとりあえずざっくりと説明する。
『やはり人間の感情というのは
やっかいなものじゃのう』
神にも扱えないんだもんね、
人間の感情は。
『わしは、泉さえもとに戻れば
それでいい。
その人間の魂は……どっちでもいい。
ユウに任せる』
「どっちでもいいって、
何が?」
どれとどれを比べて言ってるの?
『わしには興味ないとうことじゃ。
それが消滅しようと
わしの元に還ろうとどうでもいい」
「女神ちゃんの世界の人間なのに?」
ちょっと冷たいんじゃない?
『人間たちはわしが創ったが、
どう生きるかは人間たちの問題じゃ。
わしが手出しすることはできん。
その魂が闇に堕ちることを選んだのであれば
それがその魂の生き方なのじゃろう?』
目の前の女神は、
やりたいことをやりたいようにやる女神だ。
いきあたりばったりだけど、
やりたいことに物凄い情熱を持つ女神。
けれど、情熱を向けていたわりには、
創ったあとは、クール対応だった。
『わしが気にしているのは泉じゃ。
あの泉の水は、あの世界の『聖樹』の根に
繋がっているんじゃ。
せっかくそなたが『聖樹』を
復活させてくれたのに、
水が悪くて枯れてしもうたら
申しわけないしの』
ええっ。
そんなに大事だったの!?
それなら早く言って欲しかった。
「あ、でもあれ、
聖女の試練のために作ったんじゃないの?」
そういうと、女神は首を振った。
『わしが創ったのは、小さな魔獣だけじゃ!
そんな闇の魔素に囚われた人間など
想定外じゃ!』
つまり、あの岩から飛び出してきた魔獣は
女神ちゃんの仕業ということか。
なんかもう本当に、
想定外の色んなことが起こるものだ。
私はため息しか出ない。
『じゃが、そなたなら大丈夫じゃ。
あとは……』
女神ちゃんが私を見る。
『そなたが、愛を注がれなくても
力を使えるようになれば良いのじゃが』
「え? そんなことできるの?」
つまり、いろんな人の愛され、
抱かれなくても良い状態ということ?
『そなたがレベルアップすれば、な』
「それはどうやって?」
修行すればいいの?
そう聞いたが、女神ちゃんは
首を振るばかりだ。
『こればかりは、そなたが
その方法を見つけるしかない。
わしは可能性の話をしておるだけだし、
わしがどうこうできるもんでもないんじゃ』
申し訳なさそうに女神ちゃんは言う。
『わしの勝手で、
わしはそなたをこの世界に連れて来た。
勇と魂を入れ替えてまで、
わしの世界を救ってくれたユウには
感謝しておる。
だからそなたには、わしの世界で
幸せに過ごして欲しいんじゃ。
じゃが、人間たちの感情を操作することは、
創造主であっても、できんのじゃ。
じゃから、わしは手を貸すことはできるが、
そなたを成長させることはできん』
つまり私の心の持ち方とか
心の成長具合で、これからの未来は
変わっていくと言うことか。
それを聞けただけでも、
随分と気持ちが違う。
私はこの先ずっと『愛されたい欲』に
振り回されて生きていくのかと
ちょっと不安になっていたから。
「わかった。
教えてくれてありがとう」
私がお礼を言うと、
女神ちゃんは嬉しそうな顔をした。
『どうじゃ?
まだケーキはあるぞ』
と、女神ちゃんは私に勧めてくれる。
でも私はそれを辞退した。
お腹も膨れて来たし、
そろそろ戻らないと、
あの二人が心配してしまう。
『そうか、わかった。
泉のこと、よろしく頼む』
女神ちゃんはそう言うと、
軽く手を上げた。
視界が歪み、世界が震える。
あぁ、覚醒する。
ふ、と私はそう思った。
ーーーー瞬間。
私は大広間で目を開けた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!
ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。
らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。
なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる