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隣国へ

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 あれからいつもと違う私に
ディランもマイクも心配して
色んな声を掛けてくれた。

それに、大丈夫、としか
言えないのが口惜しい。

でも、感覚的なことなので
うまく説明ができない。

私は裸のまま毛布に包まって
寝ていたようなので、
着替えてから、マイクに
キッチンで具沢山スープを
飲ませてもらった。

2人は私がスープを飲むのを
心配そうに見ている。

大丈夫、と言う言葉は何度も言っているので
私は話題を変えることにした。

「このスープ、いつもと
違う具材が入ってるね」

丸い……里芋みたいなのが
スープに入っていた。

これはこの世界に来てから
一度も食べたことが無い。

「はい、例の辻馬車の御者が
この土地の名物だと購入してきたのです」

「そうなんだ。
御者さんには、村が変わったこと
バレれてない?」

「はい。
変化があったのはこの湯殿の屋敷
だけですし、外から見たら
何も変化はないかと」

そうか、じゃあ、安心かな。

「あの岩は大丈夫そう?」

私が寝ている間に変化はないかと聞くと
ディランが頷いてくれる。

「問題ない。
何も変化はなさそうだしな。

そういやあの聖獣が、岩の前で居座ってたぞ。
俺が木の実の持っていくと
嬉しそうに食べるし、
聖獣って結構可愛いもんだな」

笑うディランに、マイクは
複雑そうな顔をした。

そうだよね。
聖獣はペットじゃないもんね。

でもホワイトがディランを
受け入れているから、マイクも
文句は言えないのだろう。

私は笑ってスープを食べ終えた。
それから二人と一緒にお茶を飲んで。

体の中に巡る力を再確認する。

うん。
なんかだいぶ、馴染んできた。

「よし、行こう!」

私は立ち上がって二人を促す。

なんだかものすごく元気になった気がする。

相変わらず抱っこしようとする二人を制して
私は歩くことにした。

体を動かすたびに、力が溢れる。
……と思ったのは、気のせいではない。

だって私が歩いた場所には
何故か整備された小道が生まれ、
その周囲には草木が芽吹き、
花が咲くのだから。

「……ユウ、なんか、な」

ディランが何か言いたそうにする。

「心なしか、空気も綺麗に
澄んできたような気がします」

とマイクも言う。

「違うの。
やろうと思ってやってるわけじゃ
無いからね?

なんか力の制御ができないというか、
昨日までの私と違うというか。

とにかく慣れるまで、
ちょっと待って」

私は必死で弁解する。

力が巡る感覚が馴染んで、
制御できるようになったら
きっと落ち着くと思う。

今は力が勝手に巡るのを
感じているだけだけど、
その流れの早さや強さを自分で
コントロールできるようになったら、
きっと力の調節もできるし、
こんな風に力を垂れ流すことも無いと思う。

……思いたい。

私は歩きやすい小道を作りながら
岩の前まで来た。

ホワイトが岩の前に
ちょこん、と座っていたが
私を見るなり飛びついて来る。

「ありがとう、ホワイト。
見張っててくれたのね」

というと、ホワイトは
鼻を私の頬にすりつけ
喜びを示してくる。

だが、すぐに鼻をぴくぴくさせて
首を傾げた。

『ごしゅじん、へん』

「変?」

『かわった!』

あはは、そう、変わったの。
レベルアップしたんだよ、たぶん。

私はホワイトの体を撫でて
地面に下した。

「えっと、まずはあの魔獣ね」

私は光の繭に閉じ込めた魔獣を見た。

どうしよう。
どうすればいいのかな。

と思ってじっと見ていると、
頭の中に魔獣の情報が浮かんだ。

「え?」

「なんだ?」

「いかがなさいましたか?」

思わず声を挙げてしまい、
2人が心配そうな顔をする。

「ううん、ごめん、なんでもない」

私は慌てて手を振る。

そうか、これが『心眼』だ。
私は女神ちゃんの言葉を思い出した。

確かに、見ようと思ったら見れたよ、女神ちゃん。

私は苦笑して、脳裏に浮かんだ情報を確かめる。

情報では、確かに『聖女の試練』と言う明記があり、
討伐方法は『浄化』となっている。

「浄化すればいいのね。
わかった」

私は二人とホワイトに少し下がるように言う。

なにせ今の循環した力を使うのは初めてだ。

ドキドキしながら、
手のひらに力が集中していく様子をイメージする。

体を巡る力を、1つの場所に集める。
そしてそれを『浄化』の力に変えるのだ。

私は色までイメージした。

浄化するのだから、聖なる力。
白く輝く……白銀の……刃になる!

そう思った瞬間、私の手に聖なる力でできた
刃が生まれた。

後ろで二人が息を飲む。
けど、私もびっくりしてるからね。

私はそれを繭に向かって投げつけた。

剣なんて投げたこと無いから
ただ棒を投げるように投げただけだけど。

光の刃は繭にうまく当たってくれた。

そして当たったと思ったら
大きく繭を包み込むように広がる。

じゅーっと、水が蒸発するような音がした。

その音は徐々に大きくなり、
それに比例して繭は小さくなっていく。
やがて音が。
何かが弾けるような、
とても大きな音がしたかと思うと、
繭は、消えた。

しーん、と周囲が静まり返る。

ホワイトだけが、ぴくぴくと
鼻を鳴らして、繭が消えた場所の
匂いをかいだり、足で地面を叩いたりしている。

『ごしゅじん、いなくなった!』

ホワイトが嬉しそうに言う。

「そ、そう。良かった」

物凄く予想外だったけど、
うまくいって良かった。

良し、次はこの岩だ。

私は呆然としていた二人を背にしたまま
岩の正面を向く。

よし、やるぞ!
















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