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世界の均衡
134:父と陛下との話し合い
しおりを挟む部屋は豪華なソファーがあり、
一番奥の一人掛けのソファーに
陛下が座っていた。
入口にいる俺から見て
陛下の右斜め向かいにある
二人掛けのソファーに
ティスが座っている。
ティスの前の
一人掛けのソファーには
父が座っていて、
その隣の一人掛けソファーが
1つ、空いていた。
陛下の正面にある
入口に近い二人掛けの
ソファーには
義兄が座っている
通常であればこの国では
地位の高い者から奥に
座っていく。
そして入り口から見て
右側より左側に地位が
高い者が座る。
王子であるティスと
王弟の父とでは父の方が
地位が高いと認識されていると言うことか。
通常であれば、
王子であるルイは、
同等のティスの隣に
座る筈だが、
隣国からの客人であり
王子であるルイは
父の隣に座る……はずだ。
だから、
父の隣が空いているのだろう。
通常であれば
俺は義兄の隣に
座るはずだ、が。
俺は部屋に入るなり、
その空気の悪さに顔をしかめた。
ルイが軽く肩をすくめるのが
気配でわかる。
なるほど。
ルイが迎えに来た理由が分かった。
ルイ、父の隣に
座りたくなかったんだな。
どう見ても、
父は近寄りがたい雰囲気を
醸し出している。
俺が部屋に来たことにも
気が付かない様子で
何やら陛下を怒鳴りつけている。
いや、怒鳴ってはいないが
怒気をはらんだ声で
なにやら訴えている。
ティスは顔を青くして
黙っていたし、
義兄は俺をちらりとみて
小さく目くばせをしてきた。
陛下に至っては
俺を見るなり視線だけで
父へと俺を誘導する。
俺は陛下に頭を下げてから
父に声をかける。
「とーさま」
わざと甘えた声を出すと
父は、はっとした様子で
俺の顔を見た。
そして瞬時に笑顔を作る。
早業過ぎて怖い。
「どうしたんですか?
そんなに怒っている父様は
怖いです」
俺がそう言うと、
父はブンブンと首を振った。
「怒ってないぞ。
優しい父様が
怒るわけがないだろう?
おいで」
俺がルイを見ると、
ルイは無言で頷く。
陛下も早く行けと
言わんばかりに
視線を動かした。
俺が父のそばに行くと
父は嬉しそうに
俺の腰を掴んで膝に乗せる。
「父様、陛下の前では
不敬になります。
僕は一人で座れますよ」
一応は言ってみたが、
父では無く陛下が
構わないとばかりに首を振った。
父を宥めるために
俺は膝にいろ、ということですか。
そうですか。
義兄に視線を向けると
もっとサービスしろと言うように
義兄は小さく顎を動かす。
その様子を見ていたルイが
笑いを堪えたような顔で
義兄の隣に座る。
父から一番離れた安全地帯だ。
さりげなくルイは
一番良い場所をゲットしたらしい。
俺にだけ見えるように
膝の上で組んだ手で
そっと親指を立てている。
「父様、陛下。
僕のために時間を取って下さり
ありがとうございます」
俺が父の膝の上で
そう言うと、義兄と陛下は
違う、と言わんばかりに首を振る。
挨拶はいらないと?
そんなことより
この父を何とかしろと?
「僕は優しい陛下と
優しい父がいて嬉しいです」
一応、陛下も、と言ったが
陛下は気を遣わなくても構わないと
視線で俺を促す。
俺は仕方なく
内緒話をするように
父の耳を手で隠すようにして
小声でささやく。
「昨日は父様と沢山
一緒にいれて嬉しかったです」
小さな声で言うと、
途端に、父は驚くほど
デレッとした顔になり、
俺の頬にすりすりしてきた。
「アキルティアは可愛いなぁ。
ずっと父様のそばで
ずーっと一緒にいよう」
何やら不穏な言葉が聞こえたが
俺はスルーした。
父が俺をすりすりしながら
俺を後ろから
ぎゅうと抱きしめてくる。
すっかり大人しくなった父に
陛下はようやく
落ち着いた顔になった。
うちの父が色々とスミマセン。
俺は声に出さずに頭を下げる。
父が大人しくなってからの
話し合いはスムーズだった。
陛下の話では、
神殿の使者とやらは
俺を神子として神殿に
迎えたいとか言っていたらしいが
もちろん、それは父が
却下している。
俺はたまになら神殿に
行っても構わないと言う
感覚で話をしていたが、
神殿では俺を神子として
代々的に迎え入れて、
民衆の関心を惹きつけたいと
考えたらしい。
あのおじいちゃん大神官は
そんなこと言わないと思うから
きっと別の神官が絡んでると思う。
俺は陛下には神殿と
喧嘩するつもりもないし、
神官も穏やかな人もいれば
過激なことを考える人も
いるのだろうと伝える。
おじいちゃん大神官は
絶対に良い人だったしな。
陛下は頷き、
神殿とことを起こす気はない、と
きっぱりと言った。
だが、視線は父を見ていたから
事を起こしそうなのは
父なんだな、となんとなく思った。
俺はそんな父の重石となるべく
膝の上で父の腕を掴む。
陛下は俺の動きに
満足したような顔で頷くと
さて、と声を出した。
「アキルティア、そなたが
創造神と会ったと言う話は
本当か?」
話を聞かせてくれ、と言われ、
俺は昨日同様に
同じ話を繰り返す。
陛下も報告を聞いていたのだろう。
頷きながらも、
驚く気配はない。
俺の正面に座るティスは
何も言わなかったが
心配そうな顔で俺を見つめていた。
さて、どう話を持って行くか。
俺が昨日、父に話をしたのと
同じ内容をすべて話した後、
俺がどう言おうかと
躊躇っていると、
父が俺をぎゅっと抱きしめた。
「アキルティア、
父様は強いぞ、
それに偉い」
はい、知ってます。
父は創造神にも
喧嘩を売るぐらいの
ツワモノです。
「だから、
父様は頼りになるぞ」
そう言われて、
俺は、そうか、と頷いた。
俺が頼りになる大人に
相談したい、という話を
義兄がしてくれていたんだった。
「私もこの国の王だから、
頼りにしてもらっても大丈夫だ」
陛下までそんなことを言ってくれる。
優しい、と思って陛下を見ると
そんな俺を父が嫌そうな素振りをして
陛下をにらんだ。
陛下は苦笑している。
うん、なんだか良い流れだ。
話してみるか。
俺は父と陛下を交互に見て、
父の膝から立ち上がった。
さすがに父の膝の上に座ってする話ではないからな。
俺が立ち上がると
父は寂しそうな顔をしたが
俺が本気の顔をしたからだろう。
黙って俺の言葉を促すように
背中にそっと大きな手で
触れてくれた。
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