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世界の均衡
144:満天の星・1
しおりを挟む俺たちは温かい飲み物を飲んで
のんびりと会話を楽しんだ。
ティスは俺たちの前世の話を
聞きたがり、俺と義兄、ルイは
差し障りのないことだけを
面白おかしく話した。
前世の俺と弟の生活や
ルイと俺の仕事の話とか。
ティスは物凄く興味を持ったようで
俺がどんな服を着ていたのかとか
好きな人はいたのかとか。
職場で仲の良い友人はいたのかとか
色んなことを聞いて来る。
その度にルイが茶化したり、
義兄が急に弟の顔で
「兄貴の作る料理は美味しかった」
なんて言うから、
ティスが俺の手料理を食べたいと
言い出したり。
話が弾む頃には
俺たちはソファーではなく
絨毯の上に座り、
自由にくつろいでいた。
義兄がかいがいしく
手で摘まむことができる
小さなお菓子を
持ってきてくれたりしたが
それも床の上に置いている。
ルイにいたっては
足を伸ばして、
まさにリラックス状態だ。
俺や義兄も床に座ることは
前世の記憶もあり
抵抗感はなかったが
最初ティスは少し戸惑うような
顔を見せた。
けれど、ルイが
「ずっと座ってたら腰が痛い」
と言い出して床に座ったのを
見て、確かに、と思ったのだ。
サンルームは夜に
寝転がって星を見るために
真ん中に広いスペースを
準備していて、
座っているソファーは
部屋の隅に寄せられている。
こんなところに座わるより、
部屋の真ん中でゴロゴロした方が
絶対に楽しい。
俺はティスの手を引き
絨毯の上に座らせる。
「足は崩して座って。
ほら。こうやって」
俺がティスの足を
伸ばしてやると、
ティスは強張っていた体の
力を抜いて、笑う。
「この方がすぐ近くに感じられて、
視線が合って、いいと思う」
友だちとの距離が
近づいたと嬉しかったんだと思う。
だから俺はさらに
ティスに身を寄せて
「ここなら一緒に寝ても
ベットから落ちる心配がないから
大丈夫」と笑って見せた。
するとティスは顔を真っ赤にして
「わ、私は寝相はいい!
……と、思う」なんて言う。
うん。
ティスは可愛い。
俺がそんなティスを構っていると、
義兄が俺とティスの間を
割り込むように
飲み物やお菓子を持ってくる。
義兄も、なんだかんだと
かまってちゃんで、可愛い。
そんな俺たちの様子を
ルイは揶揄って笑う。
次に俺たちは
前世のゲームを
ティスに教えた。
と言っても、子どもの頃に
遊んだ簡単なものばかりだ。
しりとり遊びや、
連想ゲームとか。
ルイがサンルームの
飾り棚の奥に刺しゅう糸を
見つけた時は、
それを使ってあやとりまでした。
ゲストハウスは
俺が生まれる以前から
ずっと使われていなかったらしいから
何かでそこに置かれて
忘れ去られていたのだろう。
紫の瞳の母が公爵家に
嫁いでから、
公爵家は社交などは
ほとんどしていない状態だし、
ましてやゲストハウスに
泊まりに来る客などいない。
刺しゅう糸が何故サンルームに
置いてあったのかは謎だが、
あやとりは盛り上がった。
俺の記憶も曖昧で、
だからこそ、面白かった。
ティスはやり方を知らないので
俺とペアになり、
ルイと義兄と3組で
交互にやりとりをする。
ティスは
「紐1本でこんなに遊べるなんて!」
と大はしゃぎだ。
その後、俺は一人で
あやとりの技を披露した。
「東京タワー!」
と俺が作り上げた紐を見て
義兄とルイは声援をくれたが、
ティスだけは、きょとん、だった。
まぁ、東京タワーが何か
知らないのだから、
仕方が無いが。
だが、四段はしごを
作った時は、大興奮してくれて
ティスが大喜びだったので
俺は六段はしごまで作った。
うろおぼえだったが
上手くできて良かったと思ったが
興奮したティスが
やり方を教えてくれと
必死な様子で強請るので
そこからが大変だった。
俺の指は紐が絡んでいるので
俺の説明を聞いて
ルイと義兄がティスの指を
あちこち指示して
動かしていくのだが、
なかなかうまくできない。
「ダメだ。
アキは器用すぎる」
とティスがうなだれた時には、
すでに時間は深夜になっていた。
「こんなに楽しい時間は
初めてだ」
ティスが穏やかに笑う。
「床に座ったのも、
私に本気で遊びを教えてくれたのも、
ゲームで勝負をして負けたのも、
初めてだ」
ティスは王子様だからな。
忖度がある関係しか
作れなかったんだろうな。
そう思うと俺はティスを
甘やかしたくなる。
手を伸ばして、ティスの頭を
よしよし、と撫でると、
ティスは嬉しそうに笑った。
「いいなー、俺も」
すると、わざわざルイが
俺の隣に移動してきて
頭を差し出してくるので
俺はぐしゃぐしゃと
ルイの髪を乱してやる。
「一応俺だって王子様なのに
ひどいなぁ、アキラは」
「なーにが王子様だ。
王子様は自分から
頭を差し出したりしないんだよ」
俺が笑って言うと、
ティスに腕を引かれる。
「わ、私も自分から
頭を差し出したらダメなのか?」
え?
なにそれ、可愛すぎない?
「ティスはいいんだよ。
だって、可愛いし、特別だもんね」
「……かわいい」
ぽつり、とティスが呟く。
いかん。
つい本音がポロリと出てしまった。
年頃の男の子に
可愛いは禁句だったな。
「で、でもね。
ティスは可愛いけど
カッコイイからね」
俺は慌てて付け足す。
「それにほら。
兄が弟に、可愛い、というのは
動物を見て可愛いとか
そういう単純な意味だけじゃなくて。
可愛い、って言葉は
大好き、って言う意味なんだ」
だって俺、
前世で弟に毎日、毎日
可愛い、って言い続けたことあるし。
……思春期で無視され続けたけど。
「あれ、そういう意味もあったんだ」
義兄が呟く。
「そうだぞ。
さすがに弟に、毎日毎日
大好き、って言ったら
さすがに引かれると思って
可愛い、って言葉に変えたのに。
おまえ、全然気が付かないんだもんな」
「いや、無理だし。
健全な男子に向かって
毎日、毎朝、顔を見るたびに
可愛い、可愛いって言われてみろ。
さすがに、バカにされてるのかと
思うだろう?」
「なんでだよ。
可愛くて大好きだから
そう言ってただけだろ。
曲解する方が悪い」
俺が言うと、
義兄もムキになる。
「だいたい兄貴の愛情表現って
分かりにくすぎ。
それなら面と向かって
大好きだ、って言ってくれた方が
よっぽど良かった」
「じゃあ、言う。
大好きだ!」
って俺がムキになって
言い返したら、
義兄が、笑った。
「俺も」
って笑う義兄も、可愛い。
「ずるい、俺も、俺も。
俺もアキラのこと
大好きだからな」
「はいはい」
ルイの言葉を
俺はぞんざいに扱う。
毎回言われていた言葉だから
すっかり慣れてしまっているのだ。
そんな中、ティスだけは
何も言わずに、
ただ俺の腕をぎゅっと握った。
「ティス?」
どうした? と顔を覗き込むと
ティスは何やら呟いている。
「……だいすき?
おとうと?
弟……として?
でも、かわいい、が好き?」
壊れたかのように
ティスがぶつぶつ言っている。
だ、大丈夫か?
そんなティスまでも
ルイはいつも通りの反応だ。
「ティス殿下、
好きなものは好きって
言っとかないと、
誰も気が付かないし
手に入らないよ、な」
って、何故俺を見る。
そしてその、
にやにや笑うはヤメロ。
「わかった。
あ、アキ、アキルティア」
「うん?」
ティスが真っ赤な顔で
俺を見ている。
「わ、わ、私も、
アキルティアが、その、だ、
だ、大好きだ!」
可愛ーっ!
「僕も大好きだよーっ」
って俺はティスに抱きつこうと
腕を伸ばしたが。
義兄が「誤解を与えるからヤメロ」と
俺をひょい、と抱き上げ、
ティスから離れた場所に降ろしてしまった。
むむむ。
俺がティスが大好きなのは
誤解でもなんでもないぞ?
と思ったが。
あれか?
弟のヤキモチなのか?
「大丈夫。
兄様も大好きだよ」
しょうがないなぁ。
俺の可愛い弟兼兄は。
だが俺の言葉に
義兄はため息をつき、
ルイはとうとう噴き出した。
おまえ。
そんなに笑うんだったら
ルイのことも大好き、っていうのやめるぞ。
するとルイはそんな俺のことなど
すでにわかっているというように
「アキラが俺のこと好きなのは
知ってるもんね」なんて言う。
くそ、小学生か!
その物言いに腹が立ったが、
アキラのことは親友だし
一応好きだから、
否定できない。
俺の悔しそうな顔を見て
ルイはますます楽しそうに
声を出して笑いだした。
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