完結・転生したら前世の弟が義兄になり恋愛フラグをバキバキに折っています

たたら

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閑話8

我が創造神の愛し子様・2【統括神官・イシュメルSIDE】

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 私は浮かれて
別室へと移動したのだが。

私の、愛し子を神殿に
お連れすると言う願いはすぐに砕かれた。

別室で私は創造神のすばらしさや
今の世界の危うさ。

破滅に向かう不安など
すべてを愛し子に伝えた。

だが、愛し子は私の話を
最後まで聞き終えた後に、
自分は愛し子でも神子でも
無いと言った。

私は驚き、頭が真っ白になった。

「え? は!?」

言われている言葉の意味が
理解できずに意味不明な言葉を
発してしまう。

だがそんな私の前で愛し子は
大量のメモと地図を私に見せた。

愛し子は私の話した内容を
すべてメモにして、
地図に落とし込んでいたらしい。

この短期間で!
私の言葉をすべて聞いてくれていた!

私はまた驚いた。

正直いままで、
私の言葉を真摯に聞いてくれる者はいなかった。

大神官殿ですら、
私が創造神への賛美を始めると、
途中で姿を消してしまう。

私は別にそれでも良かった。
ただ自分の中に沸き起こる感情を
言葉にしていただけで、
誰かに受け止めてもらいたいなど
思ってはいなかったからだ。

だが。

目の前に座る愛し子は
私の言葉をすべて聞き、
メモにまで残して下さっている。

私はその処理能力の高さと
私自身の言葉を受け止めて下さったと言う
二重の意味で驚き、感激した。

愛し子は私の話した『災い』は
人間たちの力で食い止める、
もしくは収束できるという。

そんなこと本当にできるのか。

一瞬、疑ってしまったが、
私の目の前で愛し子は
『災い』の解決策を話していく。

原因は何か、それを
どうすれば食い止めることが
できるのか。

その知識はすばらしく、
私はただ頷くことも忘れて
話を聞くことしかできない。

そして愛し子は最後に言った。

「イシュメルさんの
教えて下さったことは
必ず陛下と父に伝え、
王家から人を派遣してもらいます。

そのことで
創造神の救いを待たずに、
状況は改善されるでしょう」

創造神は必要ないと
そう言ったのだろうか。
愛し子は。

言葉が出ない私に、
愛し子は優しく笑いかけた。

「イシュメルさん、
人間の力では
どうしようもないことは
必ずあります。

そんな時、創造神に祈り、
救いを求めることも
間違ってないと思います。

創造神に祈り、
心の苦しみから
救われる人も多くいるでしょう」

あぁ、良かった。
愛し子は創造神を否定しているわけではない。

安堵の思いで愛し子を見る。

私の視線を受け止め、
愛し子は言葉を続けた。

「ただ、創造神は
イシュメルさんが思う程
視点は人間には近くないんです」

視点?
どう言う意味だろうか。

愛し子は私の目をじっと見つめている。

「創造神は、世界を見ています。
大きな世界を、高い場所から
見下ろしているんです。

その中で人間は、
この世界の動植物と同じです。

たった一人の人間を見つめ、
救うことはできない。

イシュメルさんが言ったように
誰もが創造神の前では
平等であり、平等に愛されています。

それは誰か一人を特別扱いして
手助けすることは無いと
言う意味でもあるんです」

私は衝撃を受けた。
そのような考えなどしたことがなかった。

創造神の前ですべての者は平等だ。

その教えが、まさか
創造神が一人の人間を
救うことを否定する意味を持つなんて!

だが、指摘されて私は思った。

『特別視しない。すべては平等だから』
この意見は、確かに正しい。

虚を突かれて動けない私に、
愛し子は言う。

「創造神は大きな存在です。
だからこそ、直接は動かない。

創造神が動く時は
この世界が崩壊するときでしょう。

イシュメルさんが言うように
それほど、創造神は
偉大なのです」

なんと……いうことだろう。
私が長年信じていたことは
間違っていたと言うのか。

そして愛し子の最後の言葉が
私を打ちのめした。

「何の努力もせずに「助けて」と
手を伸ばしてくる人の手を
助け続けてあげることができますか?」

……できるわけがない。

私は創造神への信仰を言い訳に
何も努力をしない自分を
正当化していただけだったのだ。


 私は打ちのめされた。
何も考えることができない。

今までの人生の全てが
間違っていたのだと思い知らされたのだ。

私はぽろり、と涙を落とした。

さすがに神殿ではないので
感情を流し続けることはできない。

そう思ったものの、
いつも感情を出し続けた私の心は
閉じ込めることなどできなかった。

ただ、声を出さないようにすることが
精いっぱいだった。

愛し子が私の涙を見て
困ったような顔をした。

そしてハンカチを差し出したが、
私は恐れ多くて受け取れない。

すると。
愛し子はハンカチを私の頬に
優しくハンカチを押し当て、
私の涙を拭いた。

これにはさすがに私も
一瞬、涙を止めた。

だが今度はあまりの光栄に
再び涙が零れ落ちる。

私の様子に愛し子は
一生けん命私に声を掛ける。

だが、私の頭には
何も入ってこない。

やわらかいハンカチの肌触りが
頬やまぶたに落ちる。

こんなに近く、
誰かの体温を感じたのは
いつごろだろうか。

子どもの頃に神殿に捨てられた私は
誰かに抱きしめられるなど
されたことがなかった。

大神官殿にでさえ、
私は甘えることができなかったのだから。

そんな私を愛し子は
身を寄せ、髪をよしよしと撫でた。

「イシュメルさんは悪くないよ?
大丈夫、大丈夫。
僕と考え方が違っただけだからね」

泣き続ける私を、
愛し子は悪くないという。

こんな失態を犯してもなお、
愛し子は私に優しい目を
向けるのだ。

そのことが嬉しくて。
私はただ涙を落とす。

そんな私を誰かが愛し子から
引き離した。

そして、あれよあれよという間に
王宮を追い出され、
神殿に戻された。

まだ何も愛し子と
話をしていないというのに。

愛し子。
いや、愛し子様。

あの方は私のために。
そしてこの世界のために
創造神によって
遣わされた方だ。

私はそう確信した。

もう一度、あの方に会いたい。
きちんと話をしてみたい。

そう思っていた私のところに
あの方が来たのはその翌日のことだった。

突然先ぶれが届き、
あの方が神殿に来るという。

あの時お借りしたハンカチは
私の宝物だ。

私が使ってしまったものを
お返しすることはできないので
まだ準備はできていないが、
機を見て別の物をお返ししようと思っている。

私は手の空いている神官たちに
声を掛けてあの方を出迎える準備をした。

ただ私はまだ、泣きじゃくる自分の
姿を見せてしまったことに
気恥ずかしいと言う思いが
胸の奥にくすぶっていた。

なにせあの方に身を寄せ、
大泣きしてしまったのだ。

まずは謝罪を。

そう決意する私の前に
あの方の馬車が停まる。

あの方が馬車から下りてくる姿に
私は胸が高鳴った。

黄金の髪が、
日の光にあたり輝いている。

あぁ、美しい。

私が麗しい姿に見とれていると
愛し子様は私の前に立った。

そして、優しく声を掛けてくる。

私は驚いた。
あんな失態をしてしまったというのに
こんな私を許してくださるよいうのか。

「わが神の愛し子様!」

私は謝罪の意を伝えるために
身を地面にこすりつけるように伏せた。

なんと謝罪をすればいいのか
言葉が浮かばない。

あれほど何を言うか
考えていたと言うのに、
いざとなると頭が真っ白だ。

「イシュメルさん。
昨日のことは気にしていませんから。

顔を上げてください。
立てますか?」

優しい言葉に、私はまた
涙があふれて顔を上げることができない。

焦る私の後ろから
大神官殿の声がした。

「ようこそお越しくださった。
アキルティア様」

あぁ、助かった。

大神官殿が愛し子様を
連れて神殿の中に入っていく。

私はただ頭を伏せて、
あの方の気配が消えるのを待った。

そして心を落ち着かせてから立ち上がる。

あの方を『祈りの場』に
お連れすることは
前もって大神官殿から聞いていた。

私も早く『祈りの場』に行かなければ。

神聖な『祈りの場』で
祈るあの方を一目見てみたい。

そして私は『祈りの場』で
素晴らしい奇跡を目にしてしまう。

その奇跡は私があの方に
人生を捧げようと
改めて決意をした出来事だった。

私を受け留めて下さった愛し子様。

私は今まで創造神に縋り生きてきた。

神殿に捨てられ、
絶望した私は
ただ目の前にあった創造神へ
愛を捧げることで
なんとか生きてこれたのだ。

だが、これからの人生は違う。

私は、私の意志で、
愛し子様のために生きるのだ。

愛し子様が望むことは
私がすべて叶えて差し上げたい。

私のこれからの人生は
すべて愛し子様のために使おう。

私はそう決意をして
愛し子様をこの世界に
遣わせてくださった創造神へ
感謝の祈りを捧げた。







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