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愛溢れる世界
232:大魔王攻略
しおりを挟むティスは俺の髪に
『祝福』の花を挿して
「可愛い」と笑う。
そして改めてティスは俺を見て
「僕は王子だけど、
アキの『力』はプロポーズとは
関係ないよ」と言う。
「うん、わかってる」
と俺が返事をすると
ティスはほっとしたような顔をした。
俺が紫の瞳を持っていたり、
カミサマから貰った『力』を
持っていることは、
王族なら、というか、
高位貴族たちには周知されている。
俺は隠さずに『創造神の愛し子』
として、存分にその力を使ったし。
だから俺の『力』を利用したいのなら
俺を囲い込むのが手っ取り早い。
でもティスはそんなの関係ないって
俺がスクライド国で
『力』を使いまくった後でも
そう言ってくれる。
それは純粋に嬉しかった。
それに。
俺の『力』はやはり特殊だった。
俺は『力』を別の何かに
付与することもできたのだ。
たとえば幼い頃から義兄に
お守りになるかも、と思って
プレゼントしていた庭の石は
俺が磨いたおかげで、
本当に『護り石』になっていた。
そう思って考えてみれば
幼い頃、王宮でティスと
一緒に暴漢に襲われた時も、
何故か助かったが、
その時ティスに渡していた
庭の石が割れてたらしい。
きっと俺が無意識に
相性の良い石を選んで、
それに『護り』を付与していたのだろう。
この『力』のことは
ルイが義兄の部屋に
出入りするようになり、
俺が義兄にプレゼントしていた
数々の品を見て、
魔力が籠っていることに気が付き
発覚した。
だがもちろん、
公表する気はない。
もしかしたら
俺が魔力を込めた石を
大量に作ったら、
魔力が無い人たちも
魔法が使えるようになるかもしれない。
そうなったら民衆の生活は
格段に良くなるだろう。
だが、将来、俺が死んだら、その恩恵は終わる。
人工的に魔石を作り、
誰でも簡単な魔法を使えるように
することで、俺たちは
民衆の生活を楽にしたいと
思ってはいるが、
俺や、そしてルイたち
魔法研究所のメンバーは
誰でも簡単に魔法を使う方法を
見つけたいのだ。
俺一人に頼るような
方法では未来が無い。
ティス俺の髪を撫で、
「そろそろ、行こう」と
俺の手を握る。
それから俺の手を引いて
『祝福』の花壇を通り抜け、
ゆっくりと王宮へと戻った。
まるで俺が『祝福』の花を
付けているのを見せびらかすように
ティスの足はゆっくりだ。
途中で父のところにいたらしい
キールが走って俺の前に来たが、
俺の顔を見た瞬間
深くお辞儀をして、
また来た道を戻っていく。
「公爵に報告に行くのかな」
ティスは小さくつぶやくが
父に何を報告するというのか。
ん?
さっきのプロポーズの話か?
いやいや、そんなの
キールがわかるわけないじゃん。
その前に父の攻略法を考えねば。
その為に今日は早めに王宮に来たのだし。
俺はティスに連れられ
執務室へと向かう。
まだお茶会まで時間はあるから
執務室で時間を潰させてもらうのだ。
義兄もいるだろうしな。
俺がティスと手を繋ぎ
執務室に行くと、
やはり義兄と、ティスの
側近が3人いた。
長期休みなので
クリムとルシリアンも
いるかと思ったのだが、
どうやら社交シーズンが
始まるのでその準備があり
王宮には来れないらしい。
なるほど。
貴族って色々大変なんだな。
……俺も貴族だけど。
俺が部屋に入り、
ティスからそんな話を
聞きつつソファーに座ると
俺を見た義兄が動きを止めた。
「兄様?」
なんだ?
どうした?
何故そんなに俺を凝視する?
義兄は俺が座るソファーのそばに来た。
俺は座ったまま義兄を見上げたが
次の瞬間、飛び上がる勢いで
立ち上がってしまった。
バン!とノックも無しに
執務室の扉が開いたのだ。
心臓が飛び出るほど驚いた。
だって、ティスの。
王子様の執務室だぞ。
そんな真似をする人間が
いるなど思うはずがない。
俺は涙目で扉を見た。
驚きすぎて感情がバグリそうだ。
が。
扉を見てさらに俺は
涙目になった。
父が扉の前に立っていた。
一応、そのそばに
キールの姿が見えたが
その顔は真っ青だ。
もちろん、俺も。
義兄も、ティスも、
執務室にいた側近の人達も
みんな一斉に固まった。
父が物凄い怒りの形相で
仁王立ちしていたからだ。
父の鋭い視線が
真っ先に俺を見る。
怖っ。
こんな父の目は初めてだ。
泣くぞ?
俺、泣くからな?
父が俺の視線を受けて
脅えていたのがわかったのだろう。
怒りの視線が急にゆるむ。
「アキルティア、すまない。
つい、殺気が漏れてしまった」
怖かったか?
と言いながら父は俺に近づくが
正直、後ずさりしたくなるほど怖かった。
「と、とーさま」
思わず、一歩、後ろに下がる。
すると父が驚いたように
足を止めた。
「こ、怖っ……」
咄嗟に隣にいた義兄のシャツを
掴んだつもりが、
間違えてティスのシャツを握ってしまった。
「アキルティア、俺の可愛い
可愛いアキルティア。
父様のことが怖いのか?
もう、嫌になったのか?」
そ、そうじゃないけど、
さっきのは本気で怖かった。
だって、まだ足が震えてるもん。
ガクブルだったぞ、なんて
冗談で言えないほどの迫力があった。
とん、と背中を押され、
何かと思うと義兄だった。
義兄を見ると、
父にアクションを起こせ、と
目で合図を送ってくる。
確かにこの状況をなんとかできるのは
俺しかいない。
わかってる。
だが、ビビってるんだ、俺は。
シャツを握っていた俺の手に、
ティスの手がそっと重なった。
大丈夫、って言われたように思えた。
「公爵、私はアキルティアに
結婚を申し込みました」
突然の告白に、
俺も義兄も部屋にいた全員が
目を見開いてティスを見た。
この父の顔を見て
今、それを言うか?って
俺に至っては驚愕するしかない。
「全身全霊を掛けて
アキルティアを愛し、守ると誓います。
婚姻をお許しください」
勢いよく頭を下げるティスに
俺はもうオロオロだ。
ティスの言葉に
父はまた怒りの形相になる。
だがティスのシャツを掴む
俺の指が震えていることに
父は気が付いたようで
俺の指をじっと見た。
それから俺の顔を見て
何度も大きく息を吐く。
「俺の可愛いアキルティア。
その髪の花は殿下にもらったのかい?」
怒りを必死で納めているような父に
俺はコクコクと頷く。
「それで、どう思った?」
「う、嬉しかった、です」
なんとかそれだけを言うと、
父は、ぐっと顔をしかめた。
「父より、殿下を選ぶのか?」
ど、どう言えば?
ここで父を選ぶと言えば
丸く収まるのだろうが、
今はそれを言うべきではないよな?
横目で義兄に助けを求めたが
義兄は首を振る。
だよな。
策は何一つない。
こんな時は……
「とーさま」
俺はいまだに頭を下げるティスの
腕をひっぱって、
顔を上げさせた。
「さっきの父様は
怖かったです」
「す、すまん」
「物凄く怖かった。
でも、ティスはそんな僕を
守ってくれました」
そう。
だって隣にいたのは
義兄の筈だったのに、
何故か一番近くにティスがいた。
扉が開いた瞬間、
俺を守るためにティスが
移動したからだ。
「僕は今まで、ずっと父様に
守ってもらって、
安心で安全な場所で生きてきました。
とても楽しかったし、
父様に愛されて嬉しかった。
僕はね、ずーっと
父様のそばにいれたら、
そんな人生もいいな、って
思ったこともあったんです」
俺の話に父の顔がゆるんでいく。
「そ、そうなのか。
そこまで父様のことを
好きだと思ってくれていたのだな」
「はい。父様、大好きです」
でも、と俺は一呼吸置く。
「僕はティスとも一緒にいたい。
ティスのことも大好きだから。
僕は王妃とか、そういうのは
まだ覚悟がないというか、
自信ないし、無理かも、って
思ってしまうけど。
でもティスはそれでもいいって。
ゆっくり、僕の想いが育つのを
待ってくれるって言ってくれました。
僕は、そんなティスと
一緒に、想いを育てていきたい。
あったかい場所で、
父様に守られているだけじゃなくて。
ティスと一緒に成長したい」
俺がそう言うと、
父は……なんと、人目もはばからず
涙を流し始めた。
「え? え? とーさま?」
「うう、アキルティア~っ」
号泣する父に俺は困惑しかない。
「兄様、どうしたら?」
義兄に助けを求めてみたが
義兄は無の境地に陥ったかのように
遠くを見ている。
だめだ。
当てにはできない。
ティスは?
とティスを見るが、
ティスも父の変わりように
唖然としている。
ダメだ。
ここで役に立つ人間は……
「あらあら。
どうしたの?」
そこに可愛らしい声が聞こえた。
俺が咄嗟に入口を見ると
なんと。
そこには母が立っていた。
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