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愛溢れる世界

247:は?帰れない?

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 俺は疲れていたせいか、
だんだん、遠い目になってきた。

横目で義兄とルイを見ると
二人とも俺と同じように
疲れているように見える。

そういや、義兄とルイは
今日からゲストハウスに二人で
住むって言っていたな。

同じ敷地内だから
寂しくはないけれど、
俺はタウンハウスの窓から
二人を見ては
このラブラブカップルめ、とか
思うようになるんだろうな。

「ルティア、大丈夫?
疲れた?」

俺が遠い目をしていたからか
ティスが俺に声を掛けてくれる。

「う。うん、ちょっとだけ。
ティスこそ、大丈夫?」

俺が小声で聞くと、
大丈夫だよ、ってティスは頷いた。

「もうちょっとだけ我慢してね。
もうすぐ父が挨拶をすると思うから。

それが終わったら、
あとは私が残ってなんとかするから
ルティアは先に下がっていいよ」

本気か!
ティス、神過ぎる!

俺がティスに感謝を告げると
その後、すぐに陛下が
この夜会の閉会を宣言した。

そこで未成年者は
帰宅を余儀なくされるし、
それ以外の者でも
帰宅しても良い状態となる。

ただ、結婚披露宴みたいなものなので
お祝いしたい者はまだまだ
残ってもかまわないし、
それこそ、タダ酒、タタ食いを
したい者たちは、祝いに関係なく
残る者もいるのだとか。

ティスはお祝いしてくれる人も
いるのだからと、
まだ残ってその人たちの
相手をするけれど、
俺は疲れただろうから
先に部屋を出てもいいと言う。

「ティスは一人で大丈夫?」
と聞いたが、
ティスは慣れてるから、
と笑う。

俺は正直疲れていたから
申しわけないとは思ったが、
心の底からティスに
お礼を言って立ち上がった。

隣を見ると、
義兄も疲れた顔で
立ち上がっている。

ルイがなにやら
ブリジット王国の人たちと
話をしていたが、
すぐに義兄をエスコート
するように立ち上がった。

俺は義兄とルイに
すぐさま近寄って、
一緒に部屋を出た。

「ふー、兄様、
ルイ、お疲れ様」

俺は部屋を出るなり
二人に声を掛ける。

「あぁ、お疲れ」

さすがにルイも疲れたようで
腕を回して、
肩が凝った、なんて言う。

「兄様も、疲れたね」

「そうだな。
さすがに人数が多かった」

義兄も疲れた顔をしている。

「兄様とルイは
このまま公爵家に戻るんでしょ?

馬車、一緒に乗せて貰える?」

「「は??」」

俺がそう聞くと、
ルイと義兄は、声を揃えて
俺を見た。

「え? ダメだった?
新婚の二人の間に割り込むなって?」

俺はムッとして言う。
このラブラブカップルめ。

「僕、もう疲れたし、
早くクマを抱っこして寝たいの。

タウンハウスに戻ったら
二人っきりにしてあげるから
馬車ぐらい乗せてくれてもいいだろ」

拗ねるぞ。

俺が唇を尖らせると、
義兄とルイは顔を見合わせた。

「俺は言われている意味がわからない」

ルイが真面目な顔をして言う。

「何が?」

「アキルティア、
今日は何の日だった?」

義兄の言葉に俺は何言ってんだ?て思う。

「結婚式だったけど?」

何を今さら。
だからこんなに疲れてるんだろ?

俺はムっとして言ったけど
義兄とルイは顔を見合わせる。

「それは理解しているのに
何故、公爵家に帰る話になってるんだ?

王宮に泊まるんだろう?」

ルイが言うので、
俺は首を傾げる。

そうなのか?
そんな話になってたっけ。

「じゃあ、俺、
客間を準備してくれてるのか?

なら、すぐにベットで寝れるかも?」

それは嬉しい。
いや、でもそうなら
俺一人で寝るのも寂しいよな。

「じゃあさ、
その部屋にルイも兄様も
一緒に来ない?

久しぶりに朝までだらだら
おしゃべりしよう。

今日はさすがにもう仕事はないだろうし」

俺が提案したのに、
ルイも義兄も微妙な顔をする。

「客間……じゃないと思うぜ」

ルイが迷う様に言う。

その言葉を義兄が受け継いだ。

「アキルティアは今日から
王子妃だろう?

ちゃんと自分の部屋があるんじゃないのか」

そうか!
王宮にも俺の部屋があるのか。

「じゃあ、遠慮はしなくても大丈夫だ。
僕の部屋なら、なおさら
ルイも兄様も一緒に……」

「いやいや、ダメだから」

ルイが早口で言う。

「俺もさすがに今日は
ジェルロイドと一緒がいいし」

その言葉に俺は驚いた。

ルイが義兄のことを
『弟君』ではなく名前で呼んでいる。

「アキラも今日はティス殿下と
一緒にいとけ」

ルイに強い言葉で言われ、
義兄を見ると、
義兄も大きく頷いている。

二人がそう言うのなら
お泊り会はまた次の機会にするか。

「じゃあ、俺たちは行くな」

とルイが言い、
それを合図に義兄は俺の頭を撫でた。

「またな」と義兄は言って
ルイと歩き出す。

え、じゃあ俺はどうすれば?

と思ったら、
義兄たちが離れたタイミングで
王宮侍女が声を掛けてくれた。

「あの、アキルティア様
お部屋にご案内いたします」

「あ、うん。ありがとう」

良かった。

俺が泊まる部屋は
ちゃんと用意されていたんだ。

王宮に泊まるのなら、
クマ、連れてくれば良かったな。

俺はそんなことを思いつつ、
侍女に連れられ、
王宮の奥へと向かった。

この時、何故こんなに
王宮の奥に連れて行かれるのだろうかと
疑問に思えば良かったのだ。

だが、俺は疲れていたし、
腹も空いていた。

披露宴の場では、
ひっきりなしに誰かが
挨拶に来るので
まともに食事もできなかったのだ。

なので俺はこの時、ただ
「やったー、休める!」
としか、考えていなかった。

俺は自分の浅はかさを
この後、思い知らされることになる。


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