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3日目
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ガタガタ ガタ ガタガタ ガタ…………
緑色の風景が流れていく。
電車の中は涼しい。他の乗客もほとんどいない。走行音とアナウンスだけが車内に響く。
次第に減速していき、駅で停まりドアが開く。2,3分は停車するらしい。単線だから仕方ないか。
「んぁっ、降りるんか?」
右に座る智士が飛び起きる。
「いや、あと5駅」
「まだそんなに?遠いなー」
「さっき乗ったばっかだろ」
祈李と仁奈に至ってはぐっすり寝ている。2人も昨日は部活があったらしいし、疲れているのか。
「敦輝も寝てていいで。俺がばっちり起きとくから」
左隣の遼がにっと笑う。
「別に眠くない」
「そう?ここんとこ割と続けて外出してるから疲れとらん?」
「俺いつからそんなデリケートな設定になったん」
「そうそう。お前今年はすんなり参加すんだな」
智士があくびを噛み締めながら言う。
「去年は祭りに行くのも結構渋ってたのに。なんか心境の変化でもあったん?」
椿にも言われたな。そんなに外出てどしたん、ミイラになるで、と。昨日はカビ生えるでとか言っとったくせに何あいつ。
でも、何でも最後だと思うと、やっておきたいという気になる。
「別に、せっかく誘ってくれたけぇ行こうと思っただけ。朝も起きれたし」
「そうなんよ。家行っても起こし甲斐がなくてつまらんくてさ」
「じゃけぇ来んでええって言っとるだろ」
やがてドアが閉まり、電車が動き出した。
車窓の風景がまた緑に染まっていく。
結局俺以外の全員が眠りに落ちて、降りる手前で起こす羽目になった。起きとくと言った遼に至っては、その数分後には俺の肩に頭を乗っけていた。重いし暑い。
寝惚け勢を連れて駅に降り立ち、無人改札を抜け山手へ向かう。
ザザザザザザザザザ…………
水の流音が聞こえ、それだけで少し涼しくなったような気分になる。
土手に上がると、大きな川が上流からうねうねと曲がりくねって伸びている。
「おっしゃ着いた。早速水遊びすっか」
「それもええけど、時間が時間だし昼にせん?うちお腹すいた」
「わたしもー」
「電車で寝とっただけじゃん。でも確かに腹は減った。どうする、遼」
「みんなが言うなら俺も賛成やけど、敦輝はどう?」
「俺もそれでいい」
「そっか。じゃあそこの木陰にレジャーシート敷こ」
それぞれ持参したシートを広げ、輪になって座る。4月の遠足を思い出すな。あの時もこのメンバーで弁当を囲んだっけ。
リュックから保冷バッグに入ったサンドイッチを取り出す。
「あれ、みんなコンビニで買ったやつなん。作ってきたのうちだけ?」
「祈李は昔から料理得意よねー。あ、それ唐揚げ?もらっていい?」
「ええよ。みんなも好きなん取って。どうせ作り過ぎたけぇ」
「やった。んじゃ俺卵焼き」
「ほら、2人も遠慮せんで」
祈李がおかずの詰まったタッパーを置き、箸を手渡す。
「そういや敦輝も結構料理できるよね。調理実習でうちら同じ班になった時めっちゃ手際よかったし」
「まぁ、嫌いではない」
「手料理がどんなんかちょっと見てみたかったな」
「敦輝には無理。早起きできんから」
「うっさい遼。お前は技量的に無理やろ。小麦粉と塩間違えるようなアホには」
「だってどっちも白いじゃん」
「砂糖じゃないんか。まさか小麦粉何百グラムいるとこを塩と間違えたわけじゃないよね。えらいもんが出来上がるよそれ」
「あーいや、味付けしようとして小麦粉入れたんよ。せめて片栗粉だったらとろみついたんかもしれんけど、ただの味なしスープだった。重曹と間違えんかっただけよかったわ」
「それは命に関わるやつでしょ」
その後昼飯を食べ終え、いよいよ川で水遊びすることになった。
今は満潮の時間ではなく、元々大した水深もない。
「なんか、俺が小学生ん時行ったこどもプールみたいや。あん時は割と深いなーって思っとったけど、今やったらこんな風に膝下くらいなんやろうな」
と、智士が裸足で川の中を歩いていく。
靴を脱ぎ、後に続いて水中にそっと足を入れる。
冷たい。
気持ちいいな。
水が透き通っていて、小石の敷き詰められた川底がよく見える。
「みんな気を付けてよ。水難事故って毎年起きとるけぇ。ここは比較的浅いけど、そっちは場所によって深くなっとんよ。うっかり深みにはまらんようにな」
遼が反対側の岸辺りを指差す。
岸の向こうは山で、草木がもわっと生い茂っている。なんか出そうやな。
「うっし。じゃここら辺で遊ぶか。何する?鬼ごっこするか」
「深みがあるから気を付けろってさっき言われたじゃん。そうやね、魚キャッチとか」
「魚おるー?見えんけど」
「じゃあこんなんどう?小石探し選手権。誰が一番きれいな小石見つけられるか。審査員俺がやるから、俺を納得させられたら勝ち。優勝者には後で何かおごるよ」
何か面倒くさいこと提案しよったな。
「言ったな遼。じゃあ俺が勝ったらあれおごれよ。お前が駅の自販機で買って、あのさっき飲んどったやつ。何やったっけ」
「レモン炭酸」
「それ。うまそうやから俺も飲みたかったんよ。絶対優勝するけ」
「うちも負けんよ」
「やるどー」
「敦輝もいい?」
「ああ」
「じゃあいくよ。よーいスタート!」
3人一斉に川底を漁り始める。元気やな。
特に乗り気ではないが、一応参加する。
つか、きれいな石って何。遼がそう思う基準を考えて探せってことか。そんなん分かるわけないだろ。
あ、でもあいつ、小学校の帰り道によく石拾ってたな。制服のポケットに入れたまま洗濯に出して親に怒られたって言ってたっけ。
えっと、どんなんだったか。
確か表面がつるつるで、水切りに使えそうな平たい石……。
ゆらゆらと揺れる川底をかがんで見つめる。
…………お、あれいいんじゃないか。
手を伸ばし、いくつもある小石の中から1つを掴む。
「あれっ?ない」
その時、背後で声が上がった。
「どしたのー、祈李」
「家の鍵がないんよ。ポケットに入れてたのに」
「さっきスマホ出した時に釣られて落ちたとか?」
「かもしれん。川原におった時はあったもん」
「何、川ん中に落としたんか?探すのたいぎーな」
「どの辺とか分かる?」
智士と遼も集まってきた。
「分からん。でもうちそんなに歩き回ってないから、そこまで遠くじゃないと思う」
「多少は流されてるかもしれんよねー」
「とりあえず手分けして探すか。どんなやつなん。目印になるもんとかある?」
「えっと、鍵と同じくらいの大きさの真っ赤な鮫のキーホルダーが付いとる」
「何それ。趣味悪」
「うっさい智士。顔はかわいいんよあれ」
「まぁでも鮫なら魚に食われたりはせんか」
「そういう問題なん」
「じゃあみんな一旦ばらけて探してみよ。でもあんま奥まで行き過ぎんように」
それぞれ解散し、鍵探しが始まった。
ひとまず、赤いものを探せばいいんだよな。
しばらく目を凝らして歩いてみたが、見えるのは灰色の石や岩ばかり。人工物の鮮やかな色があったらすぐ気付くだろうに。こっちにはないのか。
いつの間にか、水位が膝上まで来ている。かなり奥まで進んだようだ。
すると、前方の水中に灰色ではない何かが見えた。
もしかしてあれか。
手を伸ばしつつ足を踏み出した。
ザバァァンッ
視界が回り、大きな水音がした。
全身が冷たさに包まれる。息ができない。
底に手が着く。早く上がらないと。
苦しい。体が 動かな なん で あ
道路 白線
青信号
誰かの叫び声
トラック
目の前に迫って
あ 俺 死ぬんだ
……………………
……………………
…………ん………
明るい…………俺……何を…………なんか…………聞こえて…………
「___か!おい、敦輝!返事しろ!」
「…………ぁ…………遼?」
「よかった、意識あるな。痛いとこないか。苦しくないか」
「…………大、丈夫……だ」
「そうか。ほとんど吐かなかったから水は飲んでないみたいだな。あ、まだ横になってろ。無理せんでな」
そう言って、立ち上がって駆けていく。
なんか、全身がだるい。起き上がるのも億劫。
空が見える。真っ青。
背中の下は、石。いや、タオルが敷いてある。
「敦輝!大丈夫なんかお前」
「ごめんねほんと。うちが鍵なんか探させたから」
「無事生還したかー」
智士達が覗き込んでくる。
ああ、心配させたんか。
「大丈夫。三途の川までクロールで行って帰ってきただけやから」
「いやそれ全然洒落になっとらん。下手したら川越えてたで」
「そうよ。遼がすぐ敦輝がおらんの気付いて助けに行って、もうみんな大慌てやった。息してないけぇ人工呼吸してとか、タオル持ってきてとか。はぁー、目覚めるまでずーっと生きた心地せんかったわ」
「間に合ってよかったぞー」
「みんな……ありがとう」
溺れて死にかけたところを、みんなが助けてくれた。ありがたいな。後で遼にも礼言わんと。
そういえば。
もう一度死んだら、俺どうなるんだろ。
ただでさえ死んで生き返っとる状態なのに、さらに死を重ねたら…………。
「……それとも、実際間に合わんかったんかな」
「ん、どうした敦輝」
「……いや、別に…………っと」
「あ、もう起きて平気?寝とってもええんよ」
「大丈夫。祈李、ほらこれ」
「え、何…………ってこれ、うちの鍵じゃん!」
「なんか握っとった。多分川底に手着いたけぇそん時に」
「おぉー、さすが敦輝。溺れてもただでは起きんな」
「バカ智士、そんなん言っとる場合?危うく死ぬところだったんよ。敦輝がおらんくなるくらいなら、家の鍵なんか百個でも千個でも川に投げたるわ」
「それは環境破壊やからやめろ」
「もう無茶するなよー敦輝。人間死んだら終わりで」
「……ああ、分かってる」
本当にそうだ。死んだら終わり。そのはずだったんだけどな。
なんか、盛大にズルをしてる気分だ。
「敦輝、もう起きれるか」
遼がペットボトルの水と上着を手に戻ってきた。
「濡れたままはまずいから着替えんと。手伝おうか」
「いい。できる」
「あと一応水分もとっとき。少しずつな」
「ああ、ありがとう」
受け取り、ペットボトルの蓋を開ける。
あれ、そういや。
口の中、薄っすらレモンの味すんな。
電車で町に戻り、智士達と別れて病院に向かった。
診察を受けたが、特に異常はないとのことだった。
俺の両親は用事で外出中、妹は子ども会の集まりに行っていて家は留守。そのためひとまずは遼の家に向かうことになった。
「1階でええ?寝たいなら上の俺の部屋行くか」
「いや、下でいい」
「じゃあそこ座って。お茶持ってくるけ」
「うん」
畳の上に座り、ちゃぶ台に頭を乗せる。
エアコンが稼働し、ひんやりした空気が部屋を満たす。
はぁ…………疲れた。
少しして遼が戻ってきた。麦茶の入ったグラスをちゃぶ台に置く。
「濡れた服今洗濯しとるから」
「うん……ありがと」
「疲れた?座布団しかないけど、横になってもええよ」
「ああ、そうする」
頭を座布団に乗せ、寝転がる。
「今日は災難やったな。しっかり休めよ。何なら泊まってってもええし。昔はつーちゃんと一緒によくお泊まり会したよな。夜中まで騒いで母さんに怒られた」
「そうだったな。…………遼、今日はごめん」
「なんで謝るん」
「俺のせいで迷惑かけたから。心配、かけたから」
「迷惑なんて言うな。お前のこと大切やから心配すんの当たり前だし。お前を無事に助けられたけぇよかった。……ほんとに、お前が生きててよかった」
…………違う。
違う。俺はもう。
「……何なん急に。漫画のセリフか何かか」
「漫画か。確かにありそうやけど、人の本心をそんな風に片付けてほしくないな」
「本心…………お前、俺のこと大切なんか」
「もちろん。小学生からずっと一緒に過ごしとるしな。俺達の出会いはそう、入学式の日の廊下で__」
「回想せんでええ」
「そっから高校まで一緒で。このまま大学も同じやったらなーって、俺は思っとったけど」
「どこまでくっついてくるん。きもいわ」
「はは。言うと思った。でも俺はそれくらいお前のこと、……親友だと思っとるよ」
「……そうか」
畳の上に横になっているため、ちゃぶ台に隠れて遼の顔は見えない。
こんな話初めてしたな。10年も一緒におったのに。
お前は、俺のことそんな風に思ってたんか。
大切だって。一緒にいたいって。
なのに。
お前を置いていってしまって。
お前がもうついて来れないところへいってしまって。
「…………ごめん、遼」
「何の謝罪それ。あんま何回も言われるとこっちまで謝りたくなるけやめて」
「どんな心理効果やそれ」
「あくびがうつるんと一緒よ。あぁそうだ、敦輝これ」
「何」
むくっと起き上がると、ちゃぶ台の上に丸っこい小石があった。
「お前の服洗濯機に入れる時、ポケットに入ってるの気付いた。一緒に洗うとこだったわ」
「あー……忘れとった」
「もしかしてこれ、選手権のやつ?」
「そう」
「俺も色々あってすっかり忘れとったな。お前のだけでも審査しようか」
「じゃあ頼む」
小石を手に取り、じっくり眺める。
「…………んー、いいね。全体的につるつるしとるし平たい。これで水切りしたら遠くまで飛びそうやな。うん、気にいった。よくこんなん見つけたな」
「たまたま目に入っただけだ」
「じゃあ1人しかおらんけど、優勝は敦輝。パチパチー」
「はっ、虚しさ全開やな」
「で、何かあげるんだったよな。えっと、レモン炭酸だっけ?自販機で買ってこよっか」
「わざわざいい」
というか、もうもらっとるし。
緑色の風景が流れていく。
電車の中は涼しい。他の乗客もほとんどいない。走行音とアナウンスだけが車内に響く。
次第に減速していき、駅で停まりドアが開く。2,3分は停車するらしい。単線だから仕方ないか。
「んぁっ、降りるんか?」
右に座る智士が飛び起きる。
「いや、あと5駅」
「まだそんなに?遠いなー」
「さっき乗ったばっかだろ」
祈李と仁奈に至ってはぐっすり寝ている。2人も昨日は部活があったらしいし、疲れているのか。
「敦輝も寝てていいで。俺がばっちり起きとくから」
左隣の遼がにっと笑う。
「別に眠くない」
「そう?ここんとこ割と続けて外出してるから疲れとらん?」
「俺いつからそんなデリケートな設定になったん」
「そうそう。お前今年はすんなり参加すんだな」
智士があくびを噛み締めながら言う。
「去年は祭りに行くのも結構渋ってたのに。なんか心境の変化でもあったん?」
椿にも言われたな。そんなに外出てどしたん、ミイラになるで、と。昨日はカビ生えるでとか言っとったくせに何あいつ。
でも、何でも最後だと思うと、やっておきたいという気になる。
「別に、せっかく誘ってくれたけぇ行こうと思っただけ。朝も起きれたし」
「そうなんよ。家行っても起こし甲斐がなくてつまらんくてさ」
「じゃけぇ来んでええって言っとるだろ」
やがてドアが閉まり、電車が動き出した。
車窓の風景がまた緑に染まっていく。
結局俺以外の全員が眠りに落ちて、降りる手前で起こす羽目になった。起きとくと言った遼に至っては、その数分後には俺の肩に頭を乗っけていた。重いし暑い。
寝惚け勢を連れて駅に降り立ち、無人改札を抜け山手へ向かう。
ザザザザザザザザザ…………
水の流音が聞こえ、それだけで少し涼しくなったような気分になる。
土手に上がると、大きな川が上流からうねうねと曲がりくねって伸びている。
「おっしゃ着いた。早速水遊びすっか」
「それもええけど、時間が時間だし昼にせん?うちお腹すいた」
「わたしもー」
「電車で寝とっただけじゃん。でも確かに腹は減った。どうする、遼」
「みんなが言うなら俺も賛成やけど、敦輝はどう?」
「俺もそれでいい」
「そっか。じゃあそこの木陰にレジャーシート敷こ」
それぞれ持参したシートを広げ、輪になって座る。4月の遠足を思い出すな。あの時もこのメンバーで弁当を囲んだっけ。
リュックから保冷バッグに入ったサンドイッチを取り出す。
「あれ、みんなコンビニで買ったやつなん。作ってきたのうちだけ?」
「祈李は昔から料理得意よねー。あ、それ唐揚げ?もらっていい?」
「ええよ。みんなも好きなん取って。どうせ作り過ぎたけぇ」
「やった。んじゃ俺卵焼き」
「ほら、2人も遠慮せんで」
祈李がおかずの詰まったタッパーを置き、箸を手渡す。
「そういや敦輝も結構料理できるよね。調理実習でうちら同じ班になった時めっちゃ手際よかったし」
「まぁ、嫌いではない」
「手料理がどんなんかちょっと見てみたかったな」
「敦輝には無理。早起きできんから」
「うっさい遼。お前は技量的に無理やろ。小麦粉と塩間違えるようなアホには」
「だってどっちも白いじゃん」
「砂糖じゃないんか。まさか小麦粉何百グラムいるとこを塩と間違えたわけじゃないよね。えらいもんが出来上がるよそれ」
「あーいや、味付けしようとして小麦粉入れたんよ。せめて片栗粉だったらとろみついたんかもしれんけど、ただの味なしスープだった。重曹と間違えんかっただけよかったわ」
「それは命に関わるやつでしょ」
その後昼飯を食べ終え、いよいよ川で水遊びすることになった。
今は満潮の時間ではなく、元々大した水深もない。
「なんか、俺が小学生ん時行ったこどもプールみたいや。あん時は割と深いなーって思っとったけど、今やったらこんな風に膝下くらいなんやろうな」
と、智士が裸足で川の中を歩いていく。
靴を脱ぎ、後に続いて水中にそっと足を入れる。
冷たい。
気持ちいいな。
水が透き通っていて、小石の敷き詰められた川底がよく見える。
「みんな気を付けてよ。水難事故って毎年起きとるけぇ。ここは比較的浅いけど、そっちは場所によって深くなっとんよ。うっかり深みにはまらんようにな」
遼が反対側の岸辺りを指差す。
岸の向こうは山で、草木がもわっと生い茂っている。なんか出そうやな。
「うっし。じゃここら辺で遊ぶか。何する?鬼ごっこするか」
「深みがあるから気を付けろってさっき言われたじゃん。そうやね、魚キャッチとか」
「魚おるー?見えんけど」
「じゃあこんなんどう?小石探し選手権。誰が一番きれいな小石見つけられるか。審査員俺がやるから、俺を納得させられたら勝ち。優勝者には後で何かおごるよ」
何か面倒くさいこと提案しよったな。
「言ったな遼。じゃあ俺が勝ったらあれおごれよ。お前が駅の自販機で買って、あのさっき飲んどったやつ。何やったっけ」
「レモン炭酸」
「それ。うまそうやから俺も飲みたかったんよ。絶対優勝するけ」
「うちも負けんよ」
「やるどー」
「敦輝もいい?」
「ああ」
「じゃあいくよ。よーいスタート!」
3人一斉に川底を漁り始める。元気やな。
特に乗り気ではないが、一応参加する。
つか、きれいな石って何。遼がそう思う基準を考えて探せってことか。そんなん分かるわけないだろ。
あ、でもあいつ、小学校の帰り道によく石拾ってたな。制服のポケットに入れたまま洗濯に出して親に怒られたって言ってたっけ。
えっと、どんなんだったか。
確か表面がつるつるで、水切りに使えそうな平たい石……。
ゆらゆらと揺れる川底をかがんで見つめる。
…………お、あれいいんじゃないか。
手を伸ばし、いくつもある小石の中から1つを掴む。
「あれっ?ない」
その時、背後で声が上がった。
「どしたのー、祈李」
「家の鍵がないんよ。ポケットに入れてたのに」
「さっきスマホ出した時に釣られて落ちたとか?」
「かもしれん。川原におった時はあったもん」
「何、川ん中に落としたんか?探すのたいぎーな」
「どの辺とか分かる?」
智士と遼も集まってきた。
「分からん。でもうちそんなに歩き回ってないから、そこまで遠くじゃないと思う」
「多少は流されてるかもしれんよねー」
「とりあえず手分けして探すか。どんなやつなん。目印になるもんとかある?」
「えっと、鍵と同じくらいの大きさの真っ赤な鮫のキーホルダーが付いとる」
「何それ。趣味悪」
「うっさい智士。顔はかわいいんよあれ」
「まぁでも鮫なら魚に食われたりはせんか」
「そういう問題なん」
「じゃあみんな一旦ばらけて探してみよ。でもあんま奥まで行き過ぎんように」
それぞれ解散し、鍵探しが始まった。
ひとまず、赤いものを探せばいいんだよな。
しばらく目を凝らして歩いてみたが、見えるのは灰色の石や岩ばかり。人工物の鮮やかな色があったらすぐ気付くだろうに。こっちにはないのか。
いつの間にか、水位が膝上まで来ている。かなり奥まで進んだようだ。
すると、前方の水中に灰色ではない何かが見えた。
もしかしてあれか。
手を伸ばしつつ足を踏み出した。
ザバァァンッ
視界が回り、大きな水音がした。
全身が冷たさに包まれる。息ができない。
底に手が着く。早く上がらないと。
苦しい。体が 動かな なん で あ
道路 白線
青信号
誰かの叫び声
トラック
目の前に迫って
あ 俺 死ぬんだ
……………………
……………………
…………ん………
明るい…………俺……何を…………なんか…………聞こえて…………
「___か!おい、敦輝!返事しろ!」
「…………ぁ…………遼?」
「よかった、意識あるな。痛いとこないか。苦しくないか」
「…………大、丈夫……だ」
「そうか。ほとんど吐かなかったから水は飲んでないみたいだな。あ、まだ横になってろ。無理せんでな」
そう言って、立ち上がって駆けていく。
なんか、全身がだるい。起き上がるのも億劫。
空が見える。真っ青。
背中の下は、石。いや、タオルが敷いてある。
「敦輝!大丈夫なんかお前」
「ごめんねほんと。うちが鍵なんか探させたから」
「無事生還したかー」
智士達が覗き込んでくる。
ああ、心配させたんか。
「大丈夫。三途の川までクロールで行って帰ってきただけやから」
「いやそれ全然洒落になっとらん。下手したら川越えてたで」
「そうよ。遼がすぐ敦輝がおらんの気付いて助けに行って、もうみんな大慌てやった。息してないけぇ人工呼吸してとか、タオル持ってきてとか。はぁー、目覚めるまでずーっと生きた心地せんかったわ」
「間に合ってよかったぞー」
「みんな……ありがとう」
溺れて死にかけたところを、みんなが助けてくれた。ありがたいな。後で遼にも礼言わんと。
そういえば。
もう一度死んだら、俺どうなるんだろ。
ただでさえ死んで生き返っとる状態なのに、さらに死を重ねたら…………。
「……それとも、実際間に合わんかったんかな」
「ん、どうした敦輝」
「……いや、別に…………っと」
「あ、もう起きて平気?寝とってもええんよ」
「大丈夫。祈李、ほらこれ」
「え、何…………ってこれ、うちの鍵じゃん!」
「なんか握っとった。多分川底に手着いたけぇそん時に」
「おぉー、さすが敦輝。溺れてもただでは起きんな」
「バカ智士、そんなん言っとる場合?危うく死ぬところだったんよ。敦輝がおらんくなるくらいなら、家の鍵なんか百個でも千個でも川に投げたるわ」
「それは環境破壊やからやめろ」
「もう無茶するなよー敦輝。人間死んだら終わりで」
「……ああ、分かってる」
本当にそうだ。死んだら終わり。そのはずだったんだけどな。
なんか、盛大にズルをしてる気分だ。
「敦輝、もう起きれるか」
遼がペットボトルの水と上着を手に戻ってきた。
「濡れたままはまずいから着替えんと。手伝おうか」
「いい。できる」
「あと一応水分もとっとき。少しずつな」
「ああ、ありがとう」
受け取り、ペットボトルの蓋を開ける。
あれ、そういや。
口の中、薄っすらレモンの味すんな。
電車で町に戻り、智士達と別れて病院に向かった。
診察を受けたが、特に異常はないとのことだった。
俺の両親は用事で外出中、妹は子ども会の集まりに行っていて家は留守。そのためひとまずは遼の家に向かうことになった。
「1階でええ?寝たいなら上の俺の部屋行くか」
「いや、下でいい」
「じゃあそこ座って。お茶持ってくるけ」
「うん」
畳の上に座り、ちゃぶ台に頭を乗せる。
エアコンが稼働し、ひんやりした空気が部屋を満たす。
はぁ…………疲れた。
少しして遼が戻ってきた。麦茶の入ったグラスをちゃぶ台に置く。
「濡れた服今洗濯しとるから」
「うん……ありがと」
「疲れた?座布団しかないけど、横になってもええよ」
「ああ、そうする」
頭を座布団に乗せ、寝転がる。
「今日は災難やったな。しっかり休めよ。何なら泊まってってもええし。昔はつーちゃんと一緒によくお泊まり会したよな。夜中まで騒いで母さんに怒られた」
「そうだったな。…………遼、今日はごめん」
「なんで謝るん」
「俺のせいで迷惑かけたから。心配、かけたから」
「迷惑なんて言うな。お前のこと大切やから心配すんの当たり前だし。お前を無事に助けられたけぇよかった。……ほんとに、お前が生きててよかった」
…………違う。
違う。俺はもう。
「……何なん急に。漫画のセリフか何かか」
「漫画か。確かにありそうやけど、人の本心をそんな風に片付けてほしくないな」
「本心…………お前、俺のこと大切なんか」
「もちろん。小学生からずっと一緒に過ごしとるしな。俺達の出会いはそう、入学式の日の廊下で__」
「回想せんでええ」
「そっから高校まで一緒で。このまま大学も同じやったらなーって、俺は思っとったけど」
「どこまでくっついてくるん。きもいわ」
「はは。言うと思った。でも俺はそれくらいお前のこと、……親友だと思っとるよ」
「……そうか」
畳の上に横になっているため、ちゃぶ台に隠れて遼の顔は見えない。
こんな話初めてしたな。10年も一緒におったのに。
お前は、俺のことそんな風に思ってたんか。
大切だって。一緒にいたいって。
なのに。
お前を置いていってしまって。
お前がもうついて来れないところへいってしまって。
「…………ごめん、遼」
「何の謝罪それ。あんま何回も言われるとこっちまで謝りたくなるけやめて」
「どんな心理効果やそれ」
「あくびがうつるんと一緒よ。あぁそうだ、敦輝これ」
「何」
むくっと起き上がると、ちゃぶ台の上に丸っこい小石があった。
「お前の服洗濯機に入れる時、ポケットに入ってるの気付いた。一緒に洗うとこだったわ」
「あー……忘れとった」
「もしかしてこれ、選手権のやつ?」
「そう」
「俺も色々あってすっかり忘れとったな。お前のだけでも審査しようか」
「じゃあ頼む」
小石を手に取り、じっくり眺める。
「…………んー、いいね。全体的につるつるしとるし平たい。これで水切りしたら遠くまで飛びそうやな。うん、気にいった。よくこんなん見つけたな」
「たまたま目に入っただけだ」
「じゃあ1人しかおらんけど、優勝は敦輝。パチパチー」
「はっ、虚しさ全開やな」
「で、何かあげるんだったよな。えっと、レモン炭酸だっけ?自販機で買ってこよっか」
「わざわざいい」
というか、もうもらっとるし。
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