「打倒してしまっても構わんのだろう?」と魔王城へと向かい、逃げ帰ってきた勇者に追放された俺、その後英雄となり、美女たちと幸せライフを送る

ぐうのすけ

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黒い影と修羅の英雄

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 ウインが倒れたヘイトから離れ、立ち去ると、ヘイトの体から黒い霧が発生した。
 黒い霧は人の形に変わる。

「カムイめ、覚醒されていたら俺の魂まで消されるところだった」

 黒い影は口角を釣り上げた。
 ようやく力が戻ってきた。
 だがまだ足りない。

 カムイ、フレア、いや、今はウインとベリーか。
 くくく。

 肉体から離れ、ようやく思い出した。
 残るカケラは、魔の森の東の方か?
 くくく、大きく育っている。

 完全体になるにはカケラが必要だ。
 だが今は肉体を失い不安定な状態だ。
 この程度の力では……まだ足りんか。
 しばらく、力を蓄える。
 それが終わったら。

 さあ、神話の続きを始めようか、なあ、カムイいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!




【ウイン視点】

 俺は城に戻ってすべての南東島の敵を倒した。
 タケルが近くに来る。

「助かったわい。鬼神のごとき活躍じゃのう」
「そう、か」

「ウイン、その顔、修羅が宿っておる」

 俺は、敵を倒すと決めた。
 人も殺す。
 修羅、か。
 その通りかもしれない。

「そう、かもしれないな。所で敵はどうなっている?」
「うむ、今、南東島の大軍がこの島の東の港街を占拠しておるようだ。南西島は島の南部の港を占拠しておる。今の危機は南東島の大軍じゃろう」

「分かった。同じ国の民を殺す事になる。俺が南東島の兵をかく乱してくる」
「戦を仕掛けた者は死んでも仕方がない。ウイン、すまんのう。今回の戦の事を言っているのではないぞ。ベリーの事じゃ。ワシの方で調べられることは全て調べ、知らせよう」

 俺は休まず、そのまま南東島に向かった。
 俺は、兵を殺してベリーが目覚めるならそれでいいと思っている。
 兵を殺せて都合がいいと思っている。
 修羅か。

 タケルの言葉が何度も脳裏をよぎった。
 何度も同じ答えにたどり着く。
 やはり俺は普通じゃないのかもしれない。
 


 南東島の港にたどり着くと、俺は仮眠を取った。
 起きても怒りが消えない。
 俺は狂っているのかもしれない。
 俺の中に怒りと、それを眺める冷静な俺が居る。
 理性と感情が対立するように渦巻いておかしな調和が取れているような不思議な感覚を覚えた。

 南東島の兵士はヤマトの甲冑を着ており、額の兜には2本の鬼の角を模した突起があった。
 敵の大将の姿が見える。

 熊のように大きな体と背中に背負った身の丈を超える太刀。
 そして野太い声。
 斥候の能力を持った俺には遠くにいても良く見え、声もわずかに聞こえた。

 あの男がバンユウか。




【バンユウ視点】

「50万の兵は揃ったな?」
「は!すべて上陸し、待機しております!」
「うむ、これからタケルの首を取りに行く!!明日の日の出とともに出陣する!!」

 バンユウは知略も高く、戦闘能力も高い。
 刀を持てば一騎当千の力を持ち、軍を指揮すれば優秀な武将となる。
 それゆえ、今回のタケル討伐の総大将を任せられた。

「大変です!」

 兵が慌てて駆け寄る。

「落ち着いて報告せよ!」
「そ、それが!敵襲を受けております!密集した野営地を巨大な風魔法と思われる攻撃を受け混乱状態に陥っております!!」

「うむ、今すぐに陣の間隔を空けよ!密集するのは危険だ!それとワシが直接奇襲を止めに行く」



 バンユウは優秀だ。
 即座に範囲攻撃の対策を取り、密集した兵の間隔を空ける策を打った。
 そして自ら現場に赴き対応する柔軟さも持っていた。
 バンユウは現場に向かう。



「部隊はどこにいる?」

 夜で敵の奇襲を受けやすい。
 すぐに潰す必要がある。
 ワシ自らが先陣に立ち、一気に潰す!

「そ、それが!部隊が見当たりません!」
「何を言っている?」

「言葉の通りなのです!急に陣地に突風が巻き起こり、一気にこの陣地が混乱状態に陥りました」

 何が起きた?
 この50万の軍の中にはワシの優秀な部下を分散して配置している。
 ワシの部下すら対応できなかったのか?

「うむ、被害の現場はあそこか?」

 辺りを照らすと、テントがなぎ倒され、地面がえぐれている。
 確かに風魔法のサイクロンを使った後のような後は残っている。

 だが、おかしい。
 地面のえぐれる規模が大きすぎる。
 それに何度も乱射したような形跡がある。

 本土にそこまで優秀な魔法使いは居ないはず。
 居るとすれば、西の魔法使いを呼んだか?
 確かあそこには最強魔法の一角、ブラックホールを使いこなす者が居るという。

 何かのスキルを持っているとすれば大規模な広範囲攻撃魔法も可能、だが、それでもおかしい。

 高威力の大規模攻撃、そしてそれを乱射する能力、そのような存在には心当たりがない。

 現場が不自然すぎる。
 そこに突風が巻き起こる。

「く!風の大魔法か!」

 ワシは直撃を食らい、吹き飛ばされた。
 何とか地面に着地すると、そこには黒目黒髪の男が立っていた。

 右の方にはぬいぐるみのような小動物を乗せ、手には炎で燃える刀を握っていた。
 直感的に恐怖を感じた。

「な、何だ貴様はあああああ!!全力で殺せえええ!!!!」

 男は一瞬でワシとの距離を詰めた。

「キャンプファイア!」

 その瞬間ワシの左腕が燃える。
 そして右腕は切り落とされていた。
 
 男は精鋭の包囲をかいくぐり、その場を離れていった。

「な、何だ!奴は何だ!」
「そ、それより、その左腕の炎を消しましょう!」

 ワシはすぐに異常解除のポーションを飲んだ。
 消えない。
 炎が消えない!

 状態異常解除の魔法も効かない。
 氷の魔法でも消えない!
 何をしても消えない!

 その日、バンユウにとって人生で一番長い夜が訪れる。






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