海鷂魚

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 早朝六時。鳴り響く目覚まし時計を止めて、起き上がった。愛犬のジャックはベッドの下で座って待機している。
「おはようジャック。顔洗ってくるから待ってろよ」
 僕はそう言い残して部屋を出たが、結局ジャックも尻尾を振りながら付いてくるので待ってろと言った意味がない。まあ、本当に日本語を理解できる犬の方が僕はよっぽど怖いので、尻尾を振りながらでもついてくるジャックの愛らしさを再確認できてよかったということにしよう。
 顔を洗って着替えて、僕はジャックを連れて散歩に出た。
 僕は辺鄙なところに住んでいるが、裏山は道がちゃんと舗装されており、犬の散歩コースとしては最適だ。
 そしてしばらく歩いて、散歩も中盤というところで、
「にゃー」
 と、不敵な声で威嚇する者が現れた。というか猫だった。山に住む猫もそこそこいる。今回は運が悪いな。かなり図体がでかい猫に目をつけられた。ジャックも興奮気味に、猫に近づこうとしている。
「やめろ、ジャック。引っかかれて化膿するぞ」
 とはいっても言葉を理解しないジャックである。ガウガウ言いながら猫に近づこうと、リードを激しく揺する。
 猫も引かずにそこで唸っている。
 戦いは拮抗状態にある。というか、僕がリードを掴んでいるからなのだが。
 しかし、僕はリードを離してしまった。
 ふと視線を横にずらすと、窓があったからである。しかし、それだけでリードは離さない。
 窓。
 窓が、サッシごと直立している。周りやには不自然に草木が生えておらず、土の上に窓が直立しているのである。
 そしてその中に、空間も見えた。
 僕がリードを離したことによるジャックと猫の追いかけっこが激化という形で始まったが、それどころではない。
 近づいて見ると、中に空間、部屋がある。
 四畳半ほどの狭い部屋。そして、その中で、男がテレビを見ている。とても古い型のテレビだ。ブラウン管テレビ。
「…………」
 しばらく見ていたが、僕はその窓が恐ろしくなって、その場を去ることにした。
 僕が立ち上がった時には、猫を逃したらしいジャックが僕のそばで立っていた。
「……行くぞ」
 僕はジャックを連れて走った。
 散歩コースとは逆の方向に。
 自宅に向かった。
「はぁ……はぁ……なんだよ、これッ」
 家に着くと、そこに窓。
 窓が。
 窓がある。
 玄関の扉、廊下の壁、居間の壁、寝室の壁、トイレの壁、ありとあらゆる壁に。
 窓が付いている。
 そしてその中に。
 四畳半があり。
 その中で男がテレビを見ている。
「!」
 男が、こちらを向いた。目が合っている。
 そして立ち上がり、一歩。二歩。
 男はこちらに近づき、窓を開けた。サッシを跨ぎ、僕の部屋に立った。僕は何もいうことができず、部屋に侵入する男から距離をとることしかできなかった。
「あぁ、こんにちは。やっとこの部屋から出られたんだ、私は」
 でも不思議だ。と、男。
「私がその部屋に行くと、必ず閉じ込められてしまうのですよ。今回はそんなこと、ないといいのですが」
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