女騎士ラーニャ

海鷂魚

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第26話「追憶のラーニャ2」

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 強く正しく美しく。
 ラーニャはそんな人間になりたかった。そして、騎士を目指した。
 アゼルの家を、高等学校の入学とともに出たラーニャは、母の存在を思い出す。高校生になって間も無くのことである。
 新聞に載っていた指名手配犯の名前が、ヒストであったことにより、魔法によってしまい込まれたヒストの記憶が想起されたのだ。
「お母……さん」
 お母さん。
 新聞には、禁術使用による死人の続出が記述されていた。
 ヒスト。女。三十代。
 これは、母ではないか?
 いや、まさか私のお母さんが禁術を使えるなんて……。
 お母さんは私と同じ魔法とは無縁で……。いや。
『あなたは幸せにならず、呪われながら死ね』
 その言葉を思い出す。一生忘れることのない言葉。
 お母さんは魔法使いだ——
「お母さん——」
 お母さんみたいにはなりたくない。
 お母さんは強い。だが正しくないし、美しくない。
 強く正しく美しく。
 私はそうして、お母さんを罰する。
 だから、騎士になろうと、ラーニャは強く決意したのだ。
 ラーニャはその後、なぜ騎士になろうと思ったのかも忘れたが、それもヒストの魔法の効果だった。
 だが、ラーニャは眠りの中、思い出す。
 ヒストの呪いを思い出す。
 彼女を罰する使命を思い出す。
 私は。
 私は——
「私は、騎士にならなくちゃいけないんだっ!」
 それは、魔力の爆発だった。魔力のそのものが爆弾となり、周りを焼き尽くした。
「——ッ」
 リーデルはその爆発をギリギリで防御魔法で防いだ。
「——はぁ、はぁっ」
 爆発による煙を払い、リーデルはラーニャの元による。
「ラーニャさん、大丈夫なの?」
「大丈夫ですけど……って、なんですかこれ!?」
 部屋が丸焦げである。そのくせ、窓ガラスは無傷なのが不思議な光景である。
「ああ、これはなんでもないわよ」
 リーデルはそういうと、人差指をちょいちょいと動かす。
 すると焦げた壁や床、バラバラに壊れた寝台が組み上がっていき、部屋が元どおりになった。
「す、凄い……」
「研究者はよく変な薬混ぜて爆発させてるイメージだけど、実際によくするのよ。だからこの魔法は覚えておかないとね。ちなみにこれは物の時間を戻す魔法で、古いものとかを新しくしたりできるわ。人には使えないけれど」
「へー」
 バンッ。と、フレが部屋に入ってくる。
「やっと君の結界を解けたよ。って、あれ?」
「何かしら、フレ先生? 何も起こってないわよ」
「いや、さっきまで——」
 と、言いかけたラーニャは、フレに見えないようにリーデルから肘打ちを食らう。
「なんでもありませんでした」
 言い直すラーニャ。
「そうか、じゃあ、実験は成功したのか?」
「ええ。もちろん。天才の私の行う実験ですもの。魔力検査をしましょう?」
 そしてラーニャは、フレとリーデルとともに、部屋を出た。魔力検査機がある部屋へ向かった。
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