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二話
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どこから、何が間違っていた?
僕はどこで道を踏み外した?
僕の何が悪かった?
そんなことを考えつつ、異世界へ行くことを了承してしまった僕だ。もう後戻りはできない。いや、ここで灯を殺害すれば僕の異世界ルートは閉ざされる。灯も自殺したいと言っていたんだ。異世界へ連れて行くほど愛している兄に殺されて本望ではないか?
しかし問題はそのあと。僕は完全犯罪を全うできるだろうか。相手は国家警察。そう簡単に騙せる相手ではないことは承知している。いくら学年成績トップクラスの僕とはいえ、警察を騙せるほどの頭脳を持っているかといえばそれは違う。素直に自信がない。
それなら異世界へ行く方がマシか?
いや。いや。
感覚が狂い始めている。異世界という、この世のものではないファンタジーを、現実世界の住人である僕に持ち込まれることによって、パニックが起きているのだ。
正確な判断ができない。
「いやー兄ちゃんが付き合ってくれてありがたいよ。寂しいのは嫌だからさ」
「そうかそうか。僕も灯と旅ができると思えばとても楽しみになってきた」
そんな会話をしつつ、現場はまだ僕の部屋である。
僕は灯宛の異世界チケットである手紙を読んでいた。
『雛波灯様。この度は手紙を読まれていただき誠に感謝しております。この手紙の内容ですが、我々の世界、いわゆる、あなた方でいう異世界へ、ご招待したいと思っているのです。しかしそのままでは心許ないでしょう。あなた方の世界のものを何か一つ持って、こう唱えてください。【異世界へレッツゴー】。なお、服は持ち物に入りません。好きな衣装で我々の世界、【ノロジー】へいらしてください。ノロジーに来られない場合は、この手紙を破いてください』。
異世界へレッツゴーって。
手紙の内容からは想像できない軽さ。軽薄さだ。
しかし、半ば信じかけていたが、本当に異世界へ行けるのだろうか。僕としてはそんなことが起こらなければいいのだが、灯は信じているし、話半分に信じて本当に異世界へ飛んでしまったとしたら、その時のショックと言ったら計り知れない。本気で信じて、『はい嘘でしたー。異世界なんてありません!』と、灯にバカにされたほうがよっぽどマシだ。灯は馬鹿なので人のことを馬鹿にはできないが。しかし心境としては後者の方が、精神的ダメージは少ない。
「で、これを僕に見せるってことは——」
「あ、手紙返して」
話の途中で強引に手紙を取られる。
「兄ちゃんを信用してるから手紙を読ませたけど、これ以上はダメ。破られたら困るもん」
そうか、その手があったか。しかしもう遅い。手紙はすでに灯の手の中である。
いや、待てよ。ここで強引に灯から手紙を奪い、破いてしまえばいいのではないだろうか。そうすれば僕の異世界ルートも、灯殺害ルートも通らなくて済む。馬鹿な灯だ。手紙の内容を知らなければ僕がこのような手段に出ることはなかっただろう。そうすれば一件落着。高校三年生男子と中学二年生女子の筋力の差ならば、簡単に奪うことはできそうだ。
「兄ちゃん、手になんかついてるよ」
唐突な灯の指摘により、
「ん?」
と、僕は右手を見る——が、なにもない。左手かと思った次の瞬間には、僕は右手を灯に掴まれていた。
「しまっ——」
「異世界へ、レッツゴー!」
その言葉共に始まる猛烈なめまい。吐き気。僕はその場に膝をつくどころか、地べたを這い、灯を見ることしかできなかった。ぼやける視界の中、灯も同じように床に転がっていた。灯のやつは、本当に僕のことなんて考えていない。
そもそも、物として捉えているのではないだろうか。
異世界へ持って行ける『物』を何か一つと言われているのに、僕を選択するあたり。
灯の真髄を見たような気がした。
気を使ってコミュケーションを取っていたのは僕だけではなかった。灯もだ。
サイコパスにも似たその行動に、僕はなすすべもなく意識を遠のかせ、ついには気絶した。
僕はどこで道を踏み外した?
僕の何が悪かった?
そんなことを考えつつ、異世界へ行くことを了承してしまった僕だ。もう後戻りはできない。いや、ここで灯を殺害すれば僕の異世界ルートは閉ざされる。灯も自殺したいと言っていたんだ。異世界へ連れて行くほど愛している兄に殺されて本望ではないか?
しかし問題はそのあと。僕は完全犯罪を全うできるだろうか。相手は国家警察。そう簡単に騙せる相手ではないことは承知している。いくら学年成績トップクラスの僕とはいえ、警察を騙せるほどの頭脳を持っているかといえばそれは違う。素直に自信がない。
それなら異世界へ行く方がマシか?
いや。いや。
感覚が狂い始めている。異世界という、この世のものではないファンタジーを、現実世界の住人である僕に持ち込まれることによって、パニックが起きているのだ。
正確な判断ができない。
「いやー兄ちゃんが付き合ってくれてありがたいよ。寂しいのは嫌だからさ」
「そうかそうか。僕も灯と旅ができると思えばとても楽しみになってきた」
そんな会話をしつつ、現場はまだ僕の部屋である。
僕は灯宛の異世界チケットである手紙を読んでいた。
『雛波灯様。この度は手紙を読まれていただき誠に感謝しております。この手紙の内容ですが、我々の世界、いわゆる、あなた方でいう異世界へ、ご招待したいと思っているのです。しかしそのままでは心許ないでしょう。あなた方の世界のものを何か一つ持って、こう唱えてください。【異世界へレッツゴー】。なお、服は持ち物に入りません。好きな衣装で我々の世界、【ノロジー】へいらしてください。ノロジーに来られない場合は、この手紙を破いてください』。
異世界へレッツゴーって。
手紙の内容からは想像できない軽さ。軽薄さだ。
しかし、半ば信じかけていたが、本当に異世界へ行けるのだろうか。僕としてはそんなことが起こらなければいいのだが、灯は信じているし、話半分に信じて本当に異世界へ飛んでしまったとしたら、その時のショックと言ったら計り知れない。本気で信じて、『はい嘘でしたー。異世界なんてありません!』と、灯にバカにされたほうがよっぽどマシだ。灯は馬鹿なので人のことを馬鹿にはできないが。しかし心境としては後者の方が、精神的ダメージは少ない。
「で、これを僕に見せるってことは——」
「あ、手紙返して」
話の途中で強引に手紙を取られる。
「兄ちゃんを信用してるから手紙を読ませたけど、これ以上はダメ。破られたら困るもん」
そうか、その手があったか。しかしもう遅い。手紙はすでに灯の手の中である。
いや、待てよ。ここで強引に灯から手紙を奪い、破いてしまえばいいのではないだろうか。そうすれば僕の異世界ルートも、灯殺害ルートも通らなくて済む。馬鹿な灯だ。手紙の内容を知らなければ僕がこのような手段に出ることはなかっただろう。そうすれば一件落着。高校三年生男子と中学二年生女子の筋力の差ならば、簡単に奪うことはできそうだ。
「兄ちゃん、手になんかついてるよ」
唐突な灯の指摘により、
「ん?」
と、僕は右手を見る——が、なにもない。左手かと思った次の瞬間には、僕は右手を灯に掴まれていた。
「しまっ——」
「異世界へ、レッツゴー!」
その言葉共に始まる猛烈なめまい。吐き気。僕はその場に膝をつくどころか、地べたを這い、灯を見ることしかできなかった。ぼやける視界の中、灯も同じように床に転がっていた。灯のやつは、本当に僕のことなんて考えていない。
そもそも、物として捉えているのではないだろうか。
異世界へ持って行ける『物』を何か一つと言われているのに、僕を選択するあたり。
灯の真髄を見たような気がした。
気を使ってコミュケーションを取っていたのは僕だけではなかった。灯もだ。
サイコパスにも似たその行動に、僕はなすすべもなく意識を遠のかせ、ついには気絶した。
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