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六話
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「えー集会所はねぇ……えー、そこの角を左に行ってまっすぐ行くと、えー『狩屋』って看板があるから、そこに行ってみな。えーあんたそんな若さで冒険者かい。いやー世の中物騒だねぇ、どうも」
「戦争中ですしねー」
「そうだねえ。魔物とは共存できんわ。そら仕方ないことかもねぇ」
「じゃあ行ってきますね。ありがとうございました」
婆さんと会話をし終えた灯が戻ってくる。
「お前人とまともに話せるのな」
「失礼な」
しかし集会所か。そこでなら、関係性を築くと言う問題は残りつつも、どこで仲間を見つけるかと言う問題は解決した。
「集会所とかギルドといえば、冒険にはあるあるじゃん?」
そのあるあるを気づけなかったのが僕である。ゲームなんて少ししかやったことのない僕にとって、目新しい単語だ。
いや。
単語自体は聞いたことがあるにしても、それを活用できるかどうかの問題である。馬車を目に入れつつもそれを使えない灯と僕とでは大差がない。
僕は灯を見下しながら生きてきたが、ここでは学歴も学業成績も関係ないのだ。
弱肉強食の世界であって。
学歴社会ではない。
それが魔物の有無の違い。世界の違いだった。
灯のことを見くびっていると、いつか自分に厄介が回りそうだ。僕こそ、兄妹というコミュニティを少し見直したほうがいいかもしれない。
灯が馬鹿なのは、前の世界でのことだ。
目の当たりにしたように、灯の強さは目に見えている。
ここでの灯は馬鹿ではなく勇者なのだ。
頭の螺子がはずれたイカれた女ではなく、立派な女冒険者なのだ。
僕こそ、この世界での立場が馬鹿になり得る可能性すらある。
頭の螺子がはずれかけているのも僕かもしれない。
少しは灯を信頼しなければ、自分の身を滅ぼすぞ。
「じゃあそこに行って、ギルドに入るなりパーティーに入るなりするしかないな。僕にはその違いがわからないけれど」
「まあ適当でいいんじゃない?」
宮殿を出て初めてまともな会話をしつつ、言われた角を左に。この道をまっすぐで集会所、『狩屋』にたどり着く。いったいどのような人間が待ち構えているのだろうか。この世界の民度も治安もよくわからない。不安の残る目的地だが、仲間のためには仕方がない。魔王を倒すために仲間が必要なのだ。僕と灯のたった二人で倒せるわけがない。自信がない。ので、覚悟を決めて向かうしかない。集会所へ。
『狩屋』。
と。
木製の看板が店先に吊るされていた。
「ここだな」
「うん。早速入ろ!」
「……ああ」
不安に思いつつ、入室。
細長い廊下を歩み、ひときわ目立つ観音扉を発見。他に扉がないのでここを開けるしかない。
灯がズンズンと前を歩いて行ったので、扉を開けたのは灯だ。
中はかなりの面積がある部屋で、テーブル席がいくつも雑に配置されていた。最前にはバーカウンターのような設備もあり、男がそこで飲み物を注いでいる。
異常に酒臭い。
やばいところに来てしまった感が半端ではない。
「おっ、若い嬢ちゃんがきたぞぉ」
「おーかわいいー」
「うちのギルドに入れよ!」
灯は早速酔っ払いに絡まれていた。
助けるというよりもこいつを囮にしてさっさとここを出たかった。が、先ほども決めたが、灯をこの世界で下に見ないほうがいい。僕がなんとか助け出すために灯に近づくと、
「ごめんねおじさんたち。私ギルドを作りたいの。どうすればいい?」
なんて。
僕の内心とは逆に、よっぱらいをいい材料とでも思っているのか、強面のおっさんに声をかける灯だった。
しかしこの度胸が、とても心強い。
おっさんは前にいる受付の女性にギルド設立申請を出せというふうに説明して送り出してくれた。そして受付まで早速歩く灯——いや、待て。
なんでこいつギルドを設立しようとしているんだ?
普通にいい感じのギルドに入ればいいだけの話じゃないか。長に従い旅をしていけば関係性を築くのも楽だ。リードをしてくれるのは長の方なのだから——しかしそれに気づかないのが妹、灯であった。いきなり強い人に声かけようとか言ってたもんなぁ……。
「待て、灯」
騒然とした酒場の中、やっとの声量で灯を止める。
「なんだ兄ちゃん」
「お前ギルド作るのか? いい感じのギルドに入ったほうが楽だぞ」
「何言ってんの兄ちゃん。私勇者だぜ? 兄ちゃんは勇者の兄様だぜ? 私たちの方が偉いに決まってんじゃん。そんな偉い人間が下の人間に従ってまともな旅ができるかよ」
えらく強気な灯。こういう時の灯は自信に満ち満ちているときの証拠である。
ここは灯の意見に従うべきか?
いや、灯が自分の偉大さを自覚しているのなら、強大な軍隊だって作れる可能性が——灯のことを見下さずに、灯にカリスマ性を見出した場合の話だが。
つまり賭けだ。
ギルドに入るのは灯が嫌がる。ギルド設立は灯のカリスマ性が発揮されるか分からない。
どちらにすべきだ。
——当然というべきか、答えは決まっていた。
灯の今の自信の持ちようからして、誰かに服従するという選択に灯は納得しない。それで存分に力を発揮されないのであれば、やはり、灯にギルド長を務めてもらうしかあるまい。
「じゃあギルドを作ろう。ギルド長は灯でいいのか?」
「え、兄ちゃんでもいいよ。兄ちゃんは妹より偉いから」
灯自体、この世界ではまだ自尊心が足りない。僕が灯の自尊心を、前の世界でボロボロにされた自尊心を取り戻すしかない。それには、僕がギルド長を務めるというのは愚策であると言える。
「いや、この世界の勇者はお前だ。頼んだぜ、灯」
僕は灯に運命を託すことにした。
それが凶と出るか吉と出るかは、まだ分からない。
「戦争中ですしねー」
「そうだねえ。魔物とは共存できんわ。そら仕方ないことかもねぇ」
「じゃあ行ってきますね。ありがとうございました」
婆さんと会話をし終えた灯が戻ってくる。
「お前人とまともに話せるのな」
「失礼な」
しかし集会所か。そこでなら、関係性を築くと言う問題は残りつつも、どこで仲間を見つけるかと言う問題は解決した。
「集会所とかギルドといえば、冒険にはあるあるじゃん?」
そのあるあるを気づけなかったのが僕である。ゲームなんて少ししかやったことのない僕にとって、目新しい単語だ。
いや。
単語自体は聞いたことがあるにしても、それを活用できるかどうかの問題である。馬車を目に入れつつもそれを使えない灯と僕とでは大差がない。
僕は灯を見下しながら生きてきたが、ここでは学歴も学業成績も関係ないのだ。
弱肉強食の世界であって。
学歴社会ではない。
それが魔物の有無の違い。世界の違いだった。
灯のことを見くびっていると、いつか自分に厄介が回りそうだ。僕こそ、兄妹というコミュニティを少し見直したほうがいいかもしれない。
灯が馬鹿なのは、前の世界でのことだ。
目の当たりにしたように、灯の強さは目に見えている。
ここでの灯は馬鹿ではなく勇者なのだ。
頭の螺子がはずれたイカれた女ではなく、立派な女冒険者なのだ。
僕こそ、この世界での立場が馬鹿になり得る可能性すらある。
頭の螺子がはずれかけているのも僕かもしれない。
少しは灯を信頼しなければ、自分の身を滅ぼすぞ。
「じゃあそこに行って、ギルドに入るなりパーティーに入るなりするしかないな。僕にはその違いがわからないけれど」
「まあ適当でいいんじゃない?」
宮殿を出て初めてまともな会話をしつつ、言われた角を左に。この道をまっすぐで集会所、『狩屋』にたどり着く。いったいどのような人間が待ち構えているのだろうか。この世界の民度も治安もよくわからない。不安の残る目的地だが、仲間のためには仕方がない。魔王を倒すために仲間が必要なのだ。僕と灯のたった二人で倒せるわけがない。自信がない。ので、覚悟を決めて向かうしかない。集会所へ。
『狩屋』。
と。
木製の看板が店先に吊るされていた。
「ここだな」
「うん。早速入ろ!」
「……ああ」
不安に思いつつ、入室。
細長い廊下を歩み、ひときわ目立つ観音扉を発見。他に扉がないのでここを開けるしかない。
灯がズンズンと前を歩いて行ったので、扉を開けたのは灯だ。
中はかなりの面積がある部屋で、テーブル席がいくつも雑に配置されていた。最前にはバーカウンターのような設備もあり、男がそこで飲み物を注いでいる。
異常に酒臭い。
やばいところに来てしまった感が半端ではない。
「おっ、若い嬢ちゃんがきたぞぉ」
「おーかわいいー」
「うちのギルドに入れよ!」
灯は早速酔っ払いに絡まれていた。
助けるというよりもこいつを囮にしてさっさとここを出たかった。が、先ほども決めたが、灯をこの世界で下に見ないほうがいい。僕がなんとか助け出すために灯に近づくと、
「ごめんねおじさんたち。私ギルドを作りたいの。どうすればいい?」
なんて。
僕の内心とは逆に、よっぱらいをいい材料とでも思っているのか、強面のおっさんに声をかける灯だった。
しかしこの度胸が、とても心強い。
おっさんは前にいる受付の女性にギルド設立申請を出せというふうに説明して送り出してくれた。そして受付まで早速歩く灯——いや、待て。
なんでこいつギルドを設立しようとしているんだ?
普通にいい感じのギルドに入ればいいだけの話じゃないか。長に従い旅をしていけば関係性を築くのも楽だ。リードをしてくれるのは長の方なのだから——しかしそれに気づかないのが妹、灯であった。いきなり強い人に声かけようとか言ってたもんなぁ……。
「待て、灯」
騒然とした酒場の中、やっとの声量で灯を止める。
「なんだ兄ちゃん」
「お前ギルド作るのか? いい感じのギルドに入ったほうが楽だぞ」
「何言ってんの兄ちゃん。私勇者だぜ? 兄ちゃんは勇者の兄様だぜ? 私たちの方が偉いに決まってんじゃん。そんな偉い人間が下の人間に従ってまともな旅ができるかよ」
えらく強気な灯。こういう時の灯は自信に満ち満ちているときの証拠である。
ここは灯の意見に従うべきか?
いや、灯が自分の偉大さを自覚しているのなら、強大な軍隊だって作れる可能性が——灯のことを見下さずに、灯にカリスマ性を見出した場合の話だが。
つまり賭けだ。
ギルドに入るのは灯が嫌がる。ギルド設立は灯のカリスマ性が発揮されるか分からない。
どちらにすべきだ。
——当然というべきか、答えは決まっていた。
灯の今の自信の持ちようからして、誰かに服従するという選択に灯は納得しない。それで存分に力を発揮されないのであれば、やはり、灯にギルド長を務めてもらうしかあるまい。
「じゃあギルドを作ろう。ギルド長は灯でいいのか?」
「え、兄ちゃんでもいいよ。兄ちゃんは妹より偉いから」
灯自体、この世界ではまだ自尊心が足りない。僕が灯の自尊心を、前の世界でボロボロにされた自尊心を取り戻すしかない。それには、僕がギルド長を務めるというのは愚策であると言える。
「いや、この世界の勇者はお前だ。頼んだぜ、灯」
僕は灯に運命を託すことにした。
それが凶と出るか吉と出るかは、まだ分からない。
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