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二十話
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「オールラへ、とうちゃーく!」
灯の大音声に周りの人間がびくりとこちらを向き、避けるように歩く。
馬車から降りての、灯の第一声だった。それは周りの人にドン引きされて終わった。
「なにやっとるんじゃお主は。そんな大声ではしたない」
恥ずかしがり屋のシロが灯を嗜める。
当然といえば当然である。
シロはまだ優しい。クロに至っては他人のふりをしている。それは現在も続行中で、
「ほらお姉ちゃん。そんな人に話しかけてないで行くわよ」
と、言う始末である。
「厳しいなぁ、みんな」
灯は頭をかいていた。まるでみんなが冷たいかのように言うが、灯は自らの奇異さに気づいていない。昔からそう言う奴である。周りが見えていない。そして自らも見えていない。
まるで暗闇を歩くかのごとく。
そんな生き様である。
雛波灯の人生はお先真っ暗。と、そういえば分かりやすい。
本当に暗いかどうかは本人の視野の広さによるが。目の見え方によるが。
今はまだ暗いのではないだろうか。
齢十四にして一刻の存亡を担う勇者である。人生もう少し明るく見えてほしいものだが、見えなくもなるか。
灯は敵を倒す戦士である。
人を守る殺人鬼にならなければならない。
この場合殺すのは人ではなく、魔物だが。
人に最も近い獣が、魔物と言われるそれである。
魔物魔物と言われて、恐ろしい化け物を想像していたが、もっとも分かりやすい言い方をすると、獣人である。
獣の姿をした人。
人間は差別で人を殺すが、人でないものも差別できる。
その矛先となったのがアルハの魔物達であった。
この情報は三時間の馬車の中、シロやクロから、そしてシバリアさんにみっちり教わった。
なぜ戦争になったのかも、そこで教わることになったが、それがまた戦争らしい戦争である。
アルハの住人が、シュバルハの領土を占拠しているとか、王都に攻撃をしかけたとか。
そりゃ戦争にもなるか。と言う感想しかでない。
話し合いも大切だが、殺しにかかってくる相手を前の発言は意味がない。その時は自らを奮い立たせ、前に出て戦うしかないのだ。この場合では、シュバルハは自己防衛として戦わなくては、シュバルハの住人が死滅していた。
仕方がない戦争と言える。
戦争自体が仕方がないと言えるかどうかは、僕としても議論をしたいところだけども。今のところでは、アルハに吹っかけられたものを拭く行為として必要なことだと思う。仕方のないことだと思う。
とにかく。
僕と灯は、血腥い戦争に巻き込まれている。
その事実だけが強く強く、僕に打ち付けられた。
灯のやつは話を聞いて盛り上がっていたが。
「よーし、やっつけてやるぞー」
なんて。自分が何かを殺さなくてはならないことをわかっているのだろうか。相手が魔物という、人の姿に近い獣だということをわかっているのだろうか。
だから、その時訊いたのだ。
「お前、そうやって盛り上がってるけど、今僕たちは戦争に巻き込まれていて、生きるか死ぬか、殺すか殺されるかのところにいるんだぞ。それについてはどう思っているんだよ」
と。
すると灯は答えた。
「わかってるよ。油断してたら殺される。だからその前に殺すんだ。それを一番よく理解してる。殺すことが大切であって、戦うこと自体に重きを置いちゃダメだよね。戦うってのは殴り合いだもんね。私たちがしなきゃいけないのは、一方的な殺害。それが一番良いってのは、ほんとにわかってるよ。だから心配しないで兄ちゃん。私のメンタルは大丈夫」
お前のメンタルは心配していないし、殺すことが大切かどうかも訊いていないが。
灯は道徳心を重んじることよりも、最もシビアに戦を捉えている。サイコパスにも似たその思考回路に戦慄せざるを得ないが、戦慄しているのは僕だけではない。
一番顔に出たのは、シバリアさんだと思う。
この人は道徳心が豊かそうだ。殺しとかに向いていない。だから自分自身、どのような魔法を学ぶか、ターニングポイントに立った時に、治癒魔法を学ぶというロードに足を踏み込んだのだろうし。
そんなシバリアさんにとって、灯は狂気でしかなかっただろう。
空気の読めない灯はそんなシバリアさんに気づくことはないが。
気づいたところで、何も思わないだろう。
お前は私が傷ついた時に治せ。それだけでいい。
本心ではそう考えて、それをマイルドにして伝えるだけだ。
シロとクロに至っては、まあ納得というか、戦闘民族らしく、灯に同調していた。
僕はそれを客観的に見ているだけ。
今更灯の道徳心をどうこうしようなんて思っていない。
僕や他大勢に、灯を変えることはできない。
出来たら僕は異世界へ行く前に灯を説得できていただろうし、灯は自殺志願なんてしなかっただろう。
そもそも、灯の話によれば、自殺を考えている時に異世界からの招待状が来たというが、そのところはどうなっているのだろうか。
灯が自殺を考えていたから、死ぬくらいならこちらで戦ってくれということだろうか。
それとも、何かの魔法で灯の本質に気づいて、戦士にもっとも適合したとか。
宮殿を出る前に王様に訊いておけばよかったが、今更だ。
なぜかはわからないが、とにかく灯に招待状が来たのならば、それなりの資格が灯にはあるのだ。
それが灯の道徳心のなさに繋がっているかどうかは不明瞭だが。
そんなことは知らなくても別にいい。関係ないかと言われれば当然関係はあるが。
聞くに聞けないなら、今知れないなら、もうそのことは考えても無駄だ。
異世界での言語の矛盾など、考えても無駄なことを考えるのはもうやめたのだ。
ならば現在、食材集めをしながら、理解できない狂気な妹に想いを馳せていても仕方がないとも言える。
いつか、全てを理解できるようになるだろうか。
教科書を読むがごとく。
参考書を解くがごとく。
受験生だった僕は、そんな風にものを捉えてみた。
シビアに、ものをものとして、心を捨てて、事実を見てみたが。
残念でもなく、灯の気持ちは一切わからないのであった。
それはとても幸せなことだと、妹を見下す気持ちを頭の隅に追いやりつつ、僕ら一行は食材集めを徐々に達成していた。
灯の大音声に周りの人間がびくりとこちらを向き、避けるように歩く。
馬車から降りての、灯の第一声だった。それは周りの人にドン引きされて終わった。
「なにやっとるんじゃお主は。そんな大声ではしたない」
恥ずかしがり屋のシロが灯を嗜める。
当然といえば当然である。
シロはまだ優しい。クロに至っては他人のふりをしている。それは現在も続行中で、
「ほらお姉ちゃん。そんな人に話しかけてないで行くわよ」
と、言う始末である。
「厳しいなぁ、みんな」
灯は頭をかいていた。まるでみんなが冷たいかのように言うが、灯は自らの奇異さに気づいていない。昔からそう言う奴である。周りが見えていない。そして自らも見えていない。
まるで暗闇を歩くかのごとく。
そんな生き様である。
雛波灯の人生はお先真っ暗。と、そういえば分かりやすい。
本当に暗いかどうかは本人の視野の広さによるが。目の見え方によるが。
今はまだ暗いのではないだろうか。
齢十四にして一刻の存亡を担う勇者である。人生もう少し明るく見えてほしいものだが、見えなくもなるか。
灯は敵を倒す戦士である。
人を守る殺人鬼にならなければならない。
この場合殺すのは人ではなく、魔物だが。
人に最も近い獣が、魔物と言われるそれである。
魔物魔物と言われて、恐ろしい化け物を想像していたが、もっとも分かりやすい言い方をすると、獣人である。
獣の姿をした人。
人間は差別で人を殺すが、人でないものも差別できる。
その矛先となったのがアルハの魔物達であった。
この情報は三時間の馬車の中、シロやクロから、そしてシバリアさんにみっちり教わった。
なぜ戦争になったのかも、そこで教わることになったが、それがまた戦争らしい戦争である。
アルハの住人が、シュバルハの領土を占拠しているとか、王都に攻撃をしかけたとか。
そりゃ戦争にもなるか。と言う感想しかでない。
話し合いも大切だが、殺しにかかってくる相手を前の発言は意味がない。その時は自らを奮い立たせ、前に出て戦うしかないのだ。この場合では、シュバルハは自己防衛として戦わなくては、シュバルハの住人が死滅していた。
仕方がない戦争と言える。
戦争自体が仕方がないと言えるかどうかは、僕としても議論をしたいところだけども。今のところでは、アルハに吹っかけられたものを拭く行為として必要なことだと思う。仕方のないことだと思う。
とにかく。
僕と灯は、血腥い戦争に巻き込まれている。
その事実だけが強く強く、僕に打ち付けられた。
灯のやつは話を聞いて盛り上がっていたが。
「よーし、やっつけてやるぞー」
なんて。自分が何かを殺さなくてはならないことをわかっているのだろうか。相手が魔物という、人の姿に近い獣だということをわかっているのだろうか。
だから、その時訊いたのだ。
「お前、そうやって盛り上がってるけど、今僕たちは戦争に巻き込まれていて、生きるか死ぬか、殺すか殺されるかのところにいるんだぞ。それについてはどう思っているんだよ」
と。
すると灯は答えた。
「わかってるよ。油断してたら殺される。だからその前に殺すんだ。それを一番よく理解してる。殺すことが大切であって、戦うこと自体に重きを置いちゃダメだよね。戦うってのは殴り合いだもんね。私たちがしなきゃいけないのは、一方的な殺害。それが一番良いってのは、ほんとにわかってるよ。だから心配しないで兄ちゃん。私のメンタルは大丈夫」
お前のメンタルは心配していないし、殺すことが大切かどうかも訊いていないが。
灯は道徳心を重んじることよりも、最もシビアに戦を捉えている。サイコパスにも似たその思考回路に戦慄せざるを得ないが、戦慄しているのは僕だけではない。
一番顔に出たのは、シバリアさんだと思う。
この人は道徳心が豊かそうだ。殺しとかに向いていない。だから自分自身、どのような魔法を学ぶか、ターニングポイントに立った時に、治癒魔法を学ぶというロードに足を踏み込んだのだろうし。
そんなシバリアさんにとって、灯は狂気でしかなかっただろう。
空気の読めない灯はそんなシバリアさんに気づくことはないが。
気づいたところで、何も思わないだろう。
お前は私が傷ついた時に治せ。それだけでいい。
本心ではそう考えて、それをマイルドにして伝えるだけだ。
シロとクロに至っては、まあ納得というか、戦闘民族らしく、灯に同調していた。
僕はそれを客観的に見ているだけ。
今更灯の道徳心をどうこうしようなんて思っていない。
僕や他大勢に、灯を変えることはできない。
出来たら僕は異世界へ行く前に灯を説得できていただろうし、灯は自殺志願なんてしなかっただろう。
そもそも、灯の話によれば、自殺を考えている時に異世界からの招待状が来たというが、そのところはどうなっているのだろうか。
灯が自殺を考えていたから、死ぬくらいならこちらで戦ってくれということだろうか。
それとも、何かの魔法で灯の本質に気づいて、戦士にもっとも適合したとか。
宮殿を出る前に王様に訊いておけばよかったが、今更だ。
なぜかはわからないが、とにかく灯に招待状が来たのならば、それなりの資格が灯にはあるのだ。
それが灯の道徳心のなさに繋がっているかどうかは不明瞭だが。
そんなことは知らなくても別にいい。関係ないかと言われれば当然関係はあるが。
聞くに聞けないなら、今知れないなら、もうそのことは考えても無駄だ。
異世界での言語の矛盾など、考えても無駄なことを考えるのはもうやめたのだ。
ならば現在、食材集めをしながら、理解できない狂気な妹に想いを馳せていても仕方がないとも言える。
いつか、全てを理解できるようになるだろうか。
教科書を読むがごとく。
参考書を解くがごとく。
受験生だった僕は、そんな風にものを捉えてみた。
シビアに、ものをものとして、心を捨てて、事実を見てみたが。
残念でもなく、灯の気持ちは一切わからないのであった。
それはとても幸せなことだと、妹を見下す気持ちを頭の隅に追いやりつつ、僕ら一行は食材集めを徐々に達成していた。
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