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二十六話
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全員が起きたのは六時ごろだった。
僕とヴィルランドールさんとシロが早く起きたので、他の寝ている連中を起こし、支度をしていた。
「今日の夜、国境間際まで行くか、国境を越えてアルハに着きます」
そういうヴィルランドールさんの話を聞いて、ああ、これからが戦争の始まりかと、怖くなった。
そのまま支度を終え、馬車に乗り込む。
僕は戦うのが怖い。
誰かを殺さなくてはならないのが怖い。
殺されるかもしれないのが怖い。
「いよいよ戦いも近いね! 盛り上がってきた~!」
灯は言う。何が盛り上がるんだ。
何も盛り上がらない。
怪我したくない。痛いのは嫌だ。
だから僕は十八年生きてきてやってきたことといえば、怪我の予防だったり、病気の予防だ。
それだけのために生きてきたと言っても過言ではない。
健康第一で生きてきたのだ。
そんな僕が戦場に放り込まれている。
何も考えられない。
恐怖という感情が、僕が死ぬシーンが頭から抜けない。
ふと、気づけば僕は手を握られていた。
僕の手を握っていたのは隣に座っていたシバリアさんだ。
だが、何も言わずに僕とは逆方向の窓の外の風景を見ている。
『聞こえていますか?』
声が響いた。直接耳から聞こえてくる音ではない。頭の中で響いてるかのような声。
シバリアさんの声が僕の中に響いた。
『テレパシーの魔法です。声に出さなくても、触れ合っていれば会話ができます』
僕は言う。いや、言うのではなく思うのか。
『なぜテレパシーを? 直接いえないことですか?』
『いえ、アオシさんが怖がっているのが伺えました。テレパシーでも伝わってきます。あなたの恐怖の感情が』
全てを見透かされているような気がして、手を離したくなったが、
『大丈夫です。私はあなたを癒すためにいる。テレパシーで会話なんてしなくていいです。ただ、手を握ってるだけでも、させてください』
シバリアさんは優しい。美しく、優しく、癒してくれる。
そんなシバリアさんが好きだ。
これは恋愛感情というわけではなく、仲間として、共に戦うパートナーとして。
信頼できる。
そういう意味だ。
僕が愛する女性は変わらない。
別に恋人でもなかった人を、死んでしまってもなお一途に愛すのはおかしいだろうか。
結論は出ないが、僕自身は、これからも筒井を愛して生きたいと思うのだった。
死にたくない。
『僕は死にたくない』
シバリアさんに、テレパシーで伝えてみた。別にだからと言ってなんだと言うわけではないが、一人で殻に閉じこもっているくらいなら、不安なことでもなんでも、仲間に打ち明けてみようと思うのだった。
『一緒に生きましょう』
打ち明けた結果、シバリアさんはそう言って優しく手を撫でてくれた。
すごく恥ずかしいし、他の奴に見られたらと思うのだが、皆外を見てたりお喋りしてたりするので、気づく様子がない。
『ありがとうございます』
僕は優しく撫でられていた手を握り返して、シバリアさんを見た。
するとシバリアさんもこちらを向いており、目が合う。
『不安なことがあったら、なんでも話してください。みんなには内緒にします。今、私たちは秘密の会話をしているんですよ。なんだかドキドキしますね』
顔を少し赤くしながら、シバリアさんはそう言うのだった。
『恋バナでもしますか』
『もう、恥ずかしい』
からかったら少し強く手を握られた。
そう言うところも可愛いな、シバリアさんは。
ただ、おかげで少しは怖くなくなった。
馬車は確かにアルハへ進む。
その足は今更止められないし止まらない。
だから、僕は今すべきことは、仲間を守るとという覚悟を決めることだ。
灯を守る。シバリアさんを守る。ヴィルランドールさんを守る。シロを守る。クロを守る。絶対に守る。そして自分自身も守りきる。
戦え。
そして勝つのだ。
僕はシバリアさんの手を握った手を少し強めた。
『もう大丈夫そうですね』
シバリアさんがこちらを見て微笑んだ。
『ええ。でも、シバリアさんの手、好きなのでもう少し握らせてください』
シバリアさんは小さくうなずいて、自分の手を僕に委ねてくれた。
胸がざわつく感情を抑えながら、僕はシバリアさんの手を握り続けた。
僕とヴィルランドールさんとシロが早く起きたので、他の寝ている連中を起こし、支度をしていた。
「今日の夜、国境間際まで行くか、国境を越えてアルハに着きます」
そういうヴィルランドールさんの話を聞いて、ああ、これからが戦争の始まりかと、怖くなった。
そのまま支度を終え、馬車に乗り込む。
僕は戦うのが怖い。
誰かを殺さなくてはならないのが怖い。
殺されるかもしれないのが怖い。
「いよいよ戦いも近いね! 盛り上がってきた~!」
灯は言う。何が盛り上がるんだ。
何も盛り上がらない。
怪我したくない。痛いのは嫌だ。
だから僕は十八年生きてきてやってきたことといえば、怪我の予防だったり、病気の予防だ。
それだけのために生きてきたと言っても過言ではない。
健康第一で生きてきたのだ。
そんな僕が戦場に放り込まれている。
何も考えられない。
恐怖という感情が、僕が死ぬシーンが頭から抜けない。
ふと、気づけば僕は手を握られていた。
僕の手を握っていたのは隣に座っていたシバリアさんだ。
だが、何も言わずに僕とは逆方向の窓の外の風景を見ている。
『聞こえていますか?』
声が響いた。直接耳から聞こえてくる音ではない。頭の中で響いてるかのような声。
シバリアさんの声が僕の中に響いた。
『テレパシーの魔法です。声に出さなくても、触れ合っていれば会話ができます』
僕は言う。いや、言うのではなく思うのか。
『なぜテレパシーを? 直接いえないことですか?』
『いえ、アオシさんが怖がっているのが伺えました。テレパシーでも伝わってきます。あなたの恐怖の感情が』
全てを見透かされているような気がして、手を離したくなったが、
『大丈夫です。私はあなたを癒すためにいる。テレパシーで会話なんてしなくていいです。ただ、手を握ってるだけでも、させてください』
シバリアさんは優しい。美しく、優しく、癒してくれる。
そんなシバリアさんが好きだ。
これは恋愛感情というわけではなく、仲間として、共に戦うパートナーとして。
信頼できる。
そういう意味だ。
僕が愛する女性は変わらない。
別に恋人でもなかった人を、死んでしまってもなお一途に愛すのはおかしいだろうか。
結論は出ないが、僕自身は、これからも筒井を愛して生きたいと思うのだった。
死にたくない。
『僕は死にたくない』
シバリアさんに、テレパシーで伝えてみた。別にだからと言ってなんだと言うわけではないが、一人で殻に閉じこもっているくらいなら、不安なことでもなんでも、仲間に打ち明けてみようと思うのだった。
『一緒に生きましょう』
打ち明けた結果、シバリアさんはそう言って優しく手を撫でてくれた。
すごく恥ずかしいし、他の奴に見られたらと思うのだが、皆外を見てたりお喋りしてたりするので、気づく様子がない。
『ありがとうございます』
僕は優しく撫でられていた手を握り返して、シバリアさんを見た。
するとシバリアさんもこちらを向いており、目が合う。
『不安なことがあったら、なんでも話してください。みんなには内緒にします。今、私たちは秘密の会話をしているんですよ。なんだかドキドキしますね』
顔を少し赤くしながら、シバリアさんはそう言うのだった。
『恋バナでもしますか』
『もう、恥ずかしい』
からかったら少し強く手を握られた。
そう言うところも可愛いな、シバリアさんは。
ただ、おかげで少しは怖くなくなった。
馬車は確かにアルハへ進む。
その足は今更止められないし止まらない。
だから、僕は今すべきことは、仲間を守るとという覚悟を決めることだ。
灯を守る。シバリアさんを守る。ヴィルランドールさんを守る。シロを守る。クロを守る。絶対に守る。そして自分自身も守りきる。
戦え。
そして勝つのだ。
僕はシバリアさんの手を握った手を少し強めた。
『もう大丈夫そうですね』
シバリアさんがこちらを見て微笑んだ。
『ええ。でも、シバリアさんの手、好きなのでもう少し握らせてください』
シバリアさんは小さくうなずいて、自分の手を僕に委ねてくれた。
胸がざわつく感情を抑えながら、僕はシバリアさんの手を握り続けた。
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